7話「我未来を目指す者也」
ランクアップ試験。
それは魔法によって作り出された異空間で行われる実技試験と筆記試験の2つの合計点から評価を決める試験だ。
そして実技試験はクリア制になっており、仮に1つ目の試験で躓くとそこで試験終了となる為、授業の成績が良い者でもF判定に落ちる可能性がある。
生徒達は始まりの合図と共に各々召喚すると、我先へと召喚獣に乗って、ゴールを目指し始めた。
だが、俺は焦らずに自分のペースで走る。
何故ならこの試験には制限時間が無いからだ。
ということは、あまり自分の魔力を消費せず、地道に走った方が利口なのだ……と自分に言い聞かせてみる。
しばらくダントツで最下位を独走していると、ようやく最初の試験会場が視界に入った。
「よ~く来たなぁ! 最初の課題は集中力だ!」
周りを見ると既に何名か脱落しており、ショックからかその場に蹲っていた。
「今回は一味違うぞ? 同時に5つの風船に同じ量の魔力をそれぞれ注入してもらう! 勿論、魔力が多すぎても少なすぎても破裂して消滅するからな!」
そして黒い風船が置かれている机と向かう。5つ別々に魔力を注入するというのはかなり難易度の高い方法だ。これは並行演算能力が無ければとても成功し得ない……。
「先生。これ最初から難易度高くありませんか?」
「ふっ、こんな事もできない様では召喚士なんぞ夢のまた夢だぞ?」
俺は頭をクールにして考える。これは肉体という概念を捨てなくてはならない。
(精神体で新しい手を5本作るんだ!)
俺は眼を瞑るとイメージで5つの手を作り出す。
後はファブニールとの戦闘で培った魔力移動を応用すれば出来るはず。
最初は少し不安定だったが、コツを掴んだ後は何とか集中力を切らさずに風船を10分間維持する事が出来た。
「合格だ! よくやった!」
俺は合格を貰うと次のステージへ向かって走り始めた。
前回の試験とは比べ物に成らない程、難易度が上がっているが自分自身の成長もしっかりと実感する事ができた。
「次は霊性の試験です。この中から一番霊格の高い者を探し出してください」
その広い部屋には様々な形をした箱がまるで重力が無くなったかの様に浮いていた。
その数はざっと数えただけでも50個以上はある。
どうやらどれかの箱の中に居る霊格の高い者を探し出せば良いらしい。
これは眼で探しても見分けられる物ではない。
だが、いくら多くても気配を探る能力を鍛えていれば探すのは簡単である。
俺は一番、力の強い箱を見つけると先生の所へ持っていく。
「正解です。随分と速かったですね? ここで脱落した生徒も多かったのですが……」
「そ、そうなんですか?」
ここの試験は思ったよりも簡単だった気がしたのだが、意外と難しい課題だったようだ。
「ようやく来たか! 僕は待ちくたびれたぞ少年!」
次の試験はピクシーだった。
俺は前回の実力テストの出来事を思い出す。
確か最初の試験でピクシーに当たって……。
「では認識能力テストを始めるぞ!」
ピクシーは俺の額に手を当てて、心を読み取る。
「ほう? 思い出したぞ! あの時のハレンチな少年か!」
「いや、ちが――」
ピクシーの発言に突っ込もうとした時、異空間の歪みから現れた白い球が俺の顔を目掛けて襲いかかってくる。
「おっと」
俺はそれを軽く避けると、更に別の異空間の歪みから次の球が左足を目掛けて飛んでくる。
俺は上にジャンプして避けると更に次の球が俺を襲ってきた。
その時、俺は気が付いた。これは感情のコントロールだけではなく、空間把握能力も問われているのだと。
「おぉー、やるね~? 10発避けれたら合格だよ!」
俺は、白い球の軌道を読みながら次々と避わしていく。
「そういえば君、ある悪魔を探してるんだって? 僕、そいつの居場所知ってるよ?」
その時、俺の心が不覚にも少しグラついた。
しかし、ギリギリの所で顔に飛んできた球を、上体を後ろに逸らす事で避け切った。
「おぉー、合格だよっ! おめで――」
ピクシーの言葉に合わせて俺の真上から異空間の歪みが開き、最後の球が頭を目掛けて飛んできた。
俺はそれを軽くバックステップで回避する。
「おおっ! きっみ~やるね! ここで半数は落ちるんだけどな~……今度こそ合格だよ!」
(さすが悪戯好きのピクシーだ。最後まで気が抜けないな……)
こうして、ここまでは何とか順調に進む事が出来た。後、残すは……。
「次は魔力の試験よ。この水晶玉に300MP注入しなさい」
「300MPってどれくらいですか……?」
「はぁ? そんなの感覚でやるに決まってるじゃないの! 気にしなくても規定値に達すれば水晶玉に変化が起きるわよ」
随分アバウトな説明をしてくれるが、やるしか無いか……。
俺はありったけの魔力を水晶玉に集中させる。
水晶玉は魔力を取り込む毎に白い輝きを増していき、辺り一帯を光が包んだ。
「うっ! これは……」
水晶玉に注がれた魔力は水晶玉の貯蓄量を上回り、亀裂が入る程、飽和していた。
次第に亀裂は広がっていき、最終的に爆散する事でその光は終息していった。
「水晶玉……壊れちゃいましたけど……これで合格ですか?」
「……えぇ、合格よ。次の試験に行きなさい」
そして俺は最後の試験場へと向けて走り出した。しかし先生は先程の光景を目の当たりにして動揺を隠せずにいた。
「水晶玉を割るなんて……一体あの子……」
(次が最後という事は、肉体能力を見る試験か?)
前回B判定だった事を考えると今の俺なら楽勝な気がした。
「よっしゃぁぁ! よくぞここまで辿り着いたな! 32人目のチャレンジャーよ! 」
(相変わらずこの先生はテンションが高いな……)
「ここから10km先にあるゴール地点まで走り抜ければ試験終了だ!」
指を指された方向を見ると、大きな塔が見えた。どうやらあの塔を登った先の頂上がゴールの様だ。
「で、今回は何が出るんですか?」
「ふっふっふ……教えてやろう!」
そしてその言葉と共に巨大な檻を破壊して現れたのは1匹の紅いドレイクであった。
「ギャオオオオ!!」
「……え?」
そのドレイクは炎を吐きながらこちら目掛けて突っ込んできた!
「何でダイアウルフの次がいきなりドレイクなんじゃっぁあ!?」
しかし文句を言っていてもドレイクは容赦なく俺を仕留める為に炎を吐いてくる。
「ちぃっ! ……大いなる力に越流せし水の精霊よ、我が魔力を糧に水の障壁と成れ! アクアウォール!」
魔術の力で作り出した水の壁を召喚させると、ドレイクの放たれる火の咆哮を防いだ。
そしてそれと同時に水の壁は強力な炎によって水蒸気となりてドレイクの視界を遮る。
その隙に自分の足に魔力を集中させて練った。
(ここで念の為に覚えておいた精霊魔術が役に立つとはな……)
「これで一気に塔まで突っ切る!」
俺は魔力を使い、人間離れしたスピードで塔まで駆け抜けていく。
しかしドレイクの飛行速度の方が若干速いらしく、このままのスピードで行くと塔の入口付近で逃げ場を失った俺を狙い撃ちにしてくる危険性が高かった。
「このまま行くと、炎を吐かれてリタイアか……」
塔は既に目前まで迫っていた。
竜は口に炎を溜めて次の準備を行っている。
竜とは利口な生き物だ。先程のアクアウォールでは防げない程の出力で次は炎を吐いてくるだろう。
俺は、塔の入口まで走ると詠唱を始めた。
そして滑降の餌食となった俺を目掛けてドレイクも炎を吐いてくる。
「生命の大気を操りし風の精霊よ、我の力に呼応し風の翼となれ! エアリアル!」
身の周りを風が包む込むと俺の身体は羽の様に軽くなり一気に真上へと押し上げた。
間一髪でドレイクの炎から逃げ切ると頂上に続く階段に着地する。
「ここまで来れば竜は入って来れないはずだが……」
しかし俺は嫌な予感を拭いきれず、急いで階段を登る事にした。
そしてその予想はすぐに的中する事になる。
「ギャァァァ!!」
「やはりそう来るか!」
塔の横にある吹き抜けを見ると巨大な翼をはためかせて俺を追跡してくるドレイクが目に入った。
その口から溢れだしている炎をは今にも吐き出してきそうである。
しかしさすが最終試験だ。
長い階段によるスタミナの消費とドレイクの猛攻によるプレッシャーを撥ね退けなければこの課題はクリア出来ない。
ドレイクは俺の位置と吹き抜けの位置を確認するとタイミングを合わせて炎を吐いてきた。
俺もそのタイミングに合わせエアリアルで避けながら上を目指す。
「よし、後もう少しでクリアだ!」
このペースで行けば頂上までは辿り着けるだろう。
しかしこのままドレイクが頂上まで付いてくるとなると、少し考えなくてはならない。
何故かというと、ゴールがどこに設定されているのかがまだ明確ではないからだ。
迂闊に頂上に飛び出せばドレイクの炎で狙い撃ちされてリタイアになるだろう。
俺は階段を登りながら、頂上に出てからの作戦を立てる。
「……偉大なるガイアの子にして大地の精霊よ、我が命令に従い幻影の化身となれ! アースイリュージョン!」
ドレイクは塔の頂上に到達すると、口にありったけの炎を溜めて、獲物が出てくるのを待った。
そして飛び出してきた獲物に向けて炎の咆哮を放ち、獲物は跡形も無く消滅した。
ドレイクはそれを確認すると下へと降下して行った。
(……おいおい、あれに当たったらリタイアどころじゃ済まないだろう……)
俺は恐る恐る、頭を出してゴールを探す。すると壁も何もない所に1つの扉がポツンと設置されているのが目に入った。
恐らくあれが、異空間を抜けるゴールの扉だ。
俺は、一気に扉に向けて走った。何故だか分からないが、嫌な胸騒ぎがしたからだ。
「ギャォォオオン!!」
その時、帰ったと思っていたドレイクの咆哮を背後から感じた。
どうやら先程の泥人形の偽物はバレていた様だ。
(あともう少しだ!)
ドレイクはこちらに向かって炎の咆哮を吐いて仕留めにかかる。
そして俺は全身の魔力を足に込めて、エアリアルで一気に扉へと突っ込んだ。
迫ってくる炎を、背後に感じながらも思いっきり扉に体をぶつけると違う空間に誘われた。
炎は眼前まで迫っていたが、どうやらこの扉を通ってこれないらしく、見えない壁によって拡散して行った。
(よし! これでA判定だ!)
喜びも束の間、物凄い勢いで突っ込んできた俺は地面に激突すると10m程、転がる事になったのであった。
「いてて……ここは体育館か?」
俺は起き上って周りを見ると、ファルシオンの体育館に居る事に気付いた。
しかしそこには何故か十数名の生徒が倒れている光景が広がっている。
「一体どうなってるんだ……?」
「銀志……」
「蛍か!? どうしたんだ?」
蛍はボロボロの姿になっており、力なく倒れていた。
俺は蛍の所まで駆け寄り抱き上げると、蛍は弱々しい力で腕を持ち上げてある方向を指した。
そこには力なくその場に崩れ落ちている碧川と如月先輩の姿があった。
「ほう、君が最後のチャレンジャーか? よく来たな。ここが真の最終試験だ」
力強い意志を秘めた瞳はこちらを見るや否や、不敵な笑みを浮かべた。




