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5話「汝偽りし者也」

4/2 14時ごろに少し話の内容を追加・訂正しました!

「……い、いまなんて?」

「この中に悪魔が紛れているだとっ!?」


 蛍と来瀬は驚いて声をあげた。


「いってぇ、どいつが犯人なんだ!? 名乗り出ろ!」

((いやー、普通、名乗り出ないでしょ……))

「今、逆位置に出ている皇帝のタロットは本来、未熟、横暴、傲慢、無責任等の意味を表すが、この場合は7つの大罪である傲慢を表しているね」

「傲慢……」

「そして、逆位置の愚者のタロットは、軽率、我儘、落ちこぼれを指す」

「……落ちこぼれだと……?」


 みんなの視線が俺を見ている。おい!人を落ちこぼれ見たいな眼で見るな!


「では、今までの情報を整理してみようか。今この中に悪魔が居るのは間違いない。だが、邪気が抑えられていて僕にも感じ取れないんだ」

「邪気を抑えている?」

「うん、知性の低い下級悪魔ならまず隠そうという知性を持ち合わせていない。しかし今、混じっているのは人間を真似る知性も兼ね備えている厄介な悪魔だということだ」

「だがよ、そいつは俺等の召喚獣で手に負えない相手なのかよ?」

「普通に戦えば、まず負けないだろうね。たが、この中にリタイアした者が居るとしたら?」

「ほう? そういえば召喚獣もまともに召喚出来ないのが一人居たな?」

「銀志はずっと私と居たわ!」

「先生も、紫藤君を疑いたくはないね。だが、君達の班は先生の忠告を聞かずに別々に行動していた。3班はともかく君達の誰かが悪魔に摩り替っていても何ら不思議は無い」

「碧川も俺の召喚獣もこんな森の下等悪魔に負ける程ヤワじゃねぇ。それに紛れこんでいるのが一人とも限らねぇしな?」


 来瀬は蛍を睨みつけている。


「……え? わ、わたし?」

「分かった。俺が疑われているんなら俺を隔離してくれ。それで問題ないだろ?」

「で、でも銀志!」

「へっ、随分物分かりの良い悪魔じゃねぇか」


 俺はそのまま、使われていない真っ暗な部屋に押し込まれると、扉の鍵を閉められて隔離された。


「銀志! ごめんなさい、私を庇ったせいで……」


 扉越しから蛍の声が聞こえた。どうやら先ほどの事を気にしているようである。


「気にするな蛍。要らない混乱を避ける為だ。それよりも気をつけろよ? どこから襲われるか分からないからな」

「う、うん……」


 少しずつ遠ざかっていく蛍の足音を聞きながら、俺はサモナーデバイスを取りだした。


「リリティア、起きてるか?」


 サモナーデバイスを見ると、リリティアは呑気にアニメを見て寛いでいた。


「うん? なんのようじゃ?」

「あ……いや、今ちょっと面倒な事に巻き込まれていてな」

「やれやれ、仕方が無いのう。少年よ、私から1つアドバイスをしてやろう」

「アドバイス?」

「物事の本質を探るのじゃ。キーワードとなる物を集めていけばやがて答えに辿りつけるじゃろう」

「物事の本質……」

「用件はそれだけかのう?」

「あぁ、邪魔してすまなかった。ありがとう」


 俺は今までの出来事を整理していた。

 今この館に居るのは俺を入れて7人。

 まずは消去法で犯人を探して行こう。

 悪魔の正体を掴んだ斎藤先生は、こちら側の味方と言って良いだろう。むしろ先生が負けるようなら俺達は全滅している。

 次に、蛍だ。蛍はずっと居たからまず悪魔ではない。これも除外する。

 碧川はどうだ? ヒュビリードを召喚して俺達を助けてくれたし、実力から見てもリタイアする様な玉では無い。除外だ。

 来瀬……口は悪いし、俺を悪魔と決めつけている。確かに召喚獣は強いが、気配を探るような繊細な作業は苦手そうだし、仮に悪魔だとしたらこの状況は思惑通りと言えよう。

 そして3班の崎原と山原。今の所、犠牲者は3班だけだが、4人で団体行動を組んでいたのなら、悪魔が混ざり込む可能性は低いと思って良いだろう。

 更に斎藤先生のタロットカードから導き出された答え。考えれば考える程、来瀬しか浮かんでこない……。

 これ以上考えても答えが出ないと思った俺は、ひんやりと冷たい椅子の上で眼を閉じた。

 それから何時間経っただろうが、廊下から慌ただしい足音がこちらに迫ってくる音で目が覚めた。


「おい! あの悪魔を出そうっていうのか!? 俺は反対だぞ!」

「何言ってるの!? また一人消えたって事は別に悪魔が居るって事じゃないの!」

「……そうよ、来瀬君。落ち着いて」


 何やら言い争っている様だが、話が決着したのか部屋の鍵が解錠された音がした。


「どうしたんだ?」

「銀志! 山原君まで居なくなっちゃったの!」

「どうゆうことだ?」

「来瀬君が、山原君の部屋から変な物音がするから様子を見に行ったらしいの。そしたら血痕の跡が……」


 蛍と崎原は目に涙を溜め、今にも泣きそうな顔をしていた。

 碧川は相変わらずの無表情。来瀬は非常に不機嫌な顔をしている。


「……とりあえず先生の所へ行きましょう」


 碧川が冷静に意見を述べる。俺達は5人で固まって、斎藤先生の寝室へと向かった。

 しかしそこで見た物は……。


「きゃあっ!? ……なにこれ?」

「血だらけじゃねぇか!?」


 斎藤先生の寝室には争ったような形跡があり、辺りには血しぶきの跡が派手に付いていた。


「……机の上を見て」


 碧川は机の上を指差した。机の上には悪魔のタロットカードと血で『裏切り者がいる』と書かれていた。


「裏切り者? 犯人は二人居るという事か?」

「まさか斎藤先生まで殺されたなんて……もう終わりだわ……」


 崎原はその場に崩れて泣き始めた。その光景は周りを不安に誘う。


「泣くんじゃねぇ!」

「やめなよ、来瀬君!」

「………」


 5人の中に二人も犯人が居るのか?

 一人は来瀬だとしても、もう一人はどう考えても思いつかない。俺は必死に思考を巡らせた。

 消えた死体、愚者と皇帝のカード、裏切り者に悪魔のカード、7つの大罪、派手な血しぶき、不自然な態度、隠された気配、本質……。


「二人居るって言うんならよぉ、そこの落ちこぼれと紅じゃねぇのかよ?」

「……いや、私は来瀬君も怪しいと思うけど……」

「何だと!? 碧川まさかてめぇ!」

「やめて! 言い争っても何も解決しないよ!」


 この中に犯人が居る。相手の考えの裏を読み取れ!


「分かった」

「ぎ、銀志?」

「あぁん? 何が分かったんだよ?」

「本当は気が進まないんだが、簡単に悪魔を判別できる物がある」

「なんだと?」

「天地を貫く白き閃光の精霊よ、我が問いかけに応じ光の剣となれ!」

「銀志……それって……?」


 俺は光の剣を呼び出した。


「これは魔を断ち斬る剣だ。つまり人は斬れない」

「はっ? 何を言い出すかと思えば……そんな話が信じられると思ってんのか!?」


 確かにそうだろう。そんな理屈を捏ねても自分に剣を突き立てられるのは良い気分ではない。


「私は……銀志を信じるよ!」

「正気か紅!?」

「さぁ、選択してもらおうか。本当に悪魔じゃ無いのならこの剣に斬られても平気なはずだ」

「……つまり、抵抗する者が悪魔だと?」

「ぐすん……私も信じる……」


 崎原も同意してくれた。僅かだが、流れがこちらに来ているのを感じる。


「馬鹿かっ! この落ちこぼれがその剣で俺達を皆殺しにする可能性がねぇって何で言いきれるんだ!」

「確かに、その保証はどこにも無い」


 俺は順番に一人ずつ剣を向けて相手の表情を見る。


 蛍と言えど、剣を向けられれば若干の緊張が顔に見られる。

 親しくない崎原ともなれば、口で信じるとは言っても、剣を向けられれば怯えて後ずさりした。

 来瀬も同様に、睨みつけるように構えて距離を取っている。

 だが、碧川だけは何の反応も示さない。


「俺は剣を下ろすと、光の剣を消した」

「銀志?」

「ずっと疑問に思っていた事がひとつ有るんだ。碧川は何でそんな平気そうな顔をしているんだ?」

「………」

「てめぇ、一体なにを?」

「その他にも不自然な点がいくつかある。何故、死体が1つも無いんだ?こんなに派手に血しぶきが散っていれば、他にも斎藤先生の肉片の一部が転がっていてもおかしくない」

「……確かに、死体が見つからないのは変だわ!」

「そして、まるでヒントの様に置かれている血の掛かっていない悪魔のタロットカード。これはあまりにも不自然だ」

「何が不自然なんだよ?」

「こんなにも部屋は荒らされているのに、机の上だけ不自然に綺麗だ。つまりこの悪魔のカードは血しぶきの後で置かれたという事だ」

「はぁ?」

「分かりやすく言えば、これは偽装トリックだ」

「……偽装トリック……」


 碧川は相変わらず無表情で何を考えているのか分からない。


「まず、この悪魔のタロットカードから説明しよう。まず悪魔には裏切り者の他に拘束という意味がある」

「拘束?」

「そして愚者のカード。これはトラップだ」

「トラップだぁ?」

「あぁ、これは俺に目を向けさせる為の物だ」

「それじゃ、皇帝は?」

「斎藤先生の言っていた言葉を覚えているか?」

「何て言ってたっけ?」

「斎藤先生は7つの大罪である傲慢だと言った」

「傲慢……来瀬君にピッタリだわ……」

「碧川てめぇ!」

「問題はそこじゃない。7つの大罪である傲慢には対応した神と動物が居る」

「対応した神は……ルシファーだっけ?」

「あぁ、そして対応した動物は、朱雀、ライオン、最後に――グリフォンだ」


 その一言を聞いた全員が碧川に視線を合わせていた。


「で、でも銀志! 碧川さんはヒュビリードで私達を助けてくれたじゃない!」

「あぁ、その通りだ。だが、蛍。お前も邪気の気配を感じ取れない事に疑問を抱いていないか?」

「え? た、確かに。邪気の気配なんてそう簡単に隠せる物じゃないわ。特訓した私達所か、ファブニールでさえ分からないなんて……」

「それじゃ、元々悪魔が存在していなかったとしたら?」

「元々悪魔が居ない? ……あ!」

「………」


 蛍は何かに気付いた様な顔をして、こちらを見つめ返してきた。


「はぁ? 落ちこぼれ。さっきから何訳の分からねぇことを!」


 俺は、興奮している来瀬を手で制止すると、話を続けた。


「そして最初の出来事を思い返してくれ、斎藤先生は島本の血痕を見つけて侵入者が居ると言っていた。だが、誰か島本の血痕をこの目で確認した人は居るか?」

「……そういえば、斎藤先生の口からしか聞いてないわ」

「その後、石貝が居なくなってからも斎藤先生の言われるままに食堂へ行き、俺は悪魔として疑われ隔離された。もしこのメンバーの中で悪魔が変装するなら誰が一番、都合が良いと思う?」

「……一番この中で権限を持っていて、犯人像をタロットカードで占った斎藤先生……」

「だが、斎藤の野郎はこの有様じゃねぇか」

「あぁ、斎藤先生は悪魔では無い。先程も言ったが、悪魔は碧川だ。だが、この机には裏切り者が居ると書かれてある」

「その裏切り者って……」

「それじゃそろそろ、裏切り者に出てきてもらいますか――斎藤先生?」

「てめぇ! 何言ってやがんだ! 斎藤の野郎は死んじまっただろうが!」


 来瀬は激怒してこちらを睨んでくる。

 確かにこの場面で死人の名前を呼ぶのは正気の沙汰ではない。

 だが、それは死人だという前提での話だ。


「………見事だ。紫藤君」


 扉の影から現れる一人の男性。その顔は邪悪な笑みを浮かべていた。


「さ、斎藤先生!?」

「一体どうなってやがんだ!?」

「つまり、碧川が人狼で斎藤先生が裏切り者って事だよ」

「じ、人狼……?」


 蛍は碧川さんを見つめる。


「斎藤先生、こうゆうゲーム好きそうですもんね?」

「おや、紫藤君は私の好きな物が分かるんですね」


 斎藤先生はニヤニヤしている。


「斎藤てめぇえ! みんなをどこにやりやがった!?」

「来瀬、さっき言っただろう? 消えた死体と悪魔のカード。これはつまりみんな拘束されているという意味だ。どこかに隠し部屋があるんだろうな」

「大正解! まさかここまで来て私達が負けるとは思いませんでしたね。碧川さん」

「……悔しいわ……」


 来瀬と崎原は全くこの流れが理解できず戸惑っていた。


「でも、何で分かったの? 銀志」

「……碧川の態度があまりにも不自然だったんだ」

「……不自然?」

「こんな誰が敵で味方も分からない状況で、あまりにも冷静過ぎた。そこで俺は考えた。ここまでの出来事が全て先生達によって仕組まれた訓練の一環だとしたら? 俺達は謎の存在を一度も確認していない」

「……そういえば」

「森の中で、先生は強力な悪魔が居るから違う道から進めと進言した。しかし本当にそうなのだろうか? 確かに結界の外に居る魔物は強い。だが、チームで戦えば突破は可能なLVの魔物達だった。ゾンビ程度じゃ召喚獣の実戦訓練にはならない」

「その通りです……これはチームの団結力を見る訓練でもありましたからね」


 斎藤先生は嬉しそうな顔をして話を続けた。 


「しかし、紫藤君が光の剣を出した時はヒヤヒヤしましたよ。あれ……人でも普通に斬れちゃいますから」

「なっ!? てめぇ!」


 蛍と来瀬、更に崎原さんに睨まれたが、俺は眼を逸らして口笛を吹いた。


「吹けてないわよ……銀志」

「いまいち良く分からねえんだが、結局どうゆう事なんだ?」

「つまりですね……これは人狼ゲームと言う名の訓練です!」

「人狼ゲーム?」

「市民と狼に分かれて9人で騙しあう会話型の推理ゲームさ。しかし斎藤先生。人狼側に占い師兼裏切り者って反則じゃないですか……?」

「いや~、簡単に負けたら訓練にならないからね」

「このふざけたゲームの何処が訓練なんだ?」

「ふっふ、来瀬君。良い事を聞いてくれました! これは真の敵を見定める訓練です」

「真の敵?」

「そうです、いくら強大な力を見に付けようとも、矛先が的外れでは意味がありません。本当に倒すべき相手は誰なのか? そう言った判断力を養って貰いたかったのです」


 斎藤先生によるネタ晴らしの後、拘束されていた生徒は無事、開放され、緊張の紐が解けた俺達は昼まで眠り続けた。

 その後聞いた話によると、他の班の生徒はみんな人狼組の勝利で終わったらしい。

 そしてこの訓練を期に斎藤先生からは高評価を受ける事になった俺だったが、出来れば、もう疑われるような役は御免だと思ったのであった。

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