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4話「汝招かれざる客也」

「はぁはぁ、急げ蛍!」


 日は沈み始め、霧の濃い森は少しずつ暗闇に支配されている。

 俺達は夜が訪れる前に目的地を目指して走っていた。


「なんでこんなに強い魔物が多いのっ!?」

「……どうやら嵌められたようだな」

「ど、どうゆうこと、銀志?」


 魔物の気配を探りながら、安全なルートを選択していく。

 既に今、走っているルートには、強い魔物を防ぐ結界が張り巡らされていなかった。


「誰か分からないが、この合同訓練を妨害している奴等がいる。早く先生達と合流した方が良さそうだ」

「一体、誰がそんなことを?」

「分からない。だが、強力な悪魔が暴れていると言う事は……」

「べリアスの仕業ってこと?」

「かもしれないな。ファルシオンとは敵対しているし、その可能性は高いだろう」


 レーヴァサーティンの召喚士は大きく2つに分類される。

 悪魔を使役しない白魔術召喚士と悪魔を使役する黒魔術召喚士だ。

 悪魔を用いる黒魔術召喚は、召喚時の危険性が非常に高く、高位悪魔が暴走でもしよう物なら周囲に甚大な被害を与えかねない禁呪とされていた。

 そして人々は、邪神『堕ちし獄炎の王』を崇拝している黒魔術召喚士の事を忌み嫌って『べリアス』と呼んだ。


「銀志! 見て、灯りが見えるわ!」

「あそこが目的地か!?」


 前方に古ぼけた館が見えた。館の周囲には魔を退ける魔結界が張ってある。


「よし! あともう少しだ!」

「……きゃあっ!?」

「どうした、ほた――」


 悲鳴がする方を振り向くと、大きな木の魔物が触手を伸ばして蛍を捕らえていた。


「しまった! トレントか!?」


 俺とした事が館に気を取られて、景色に擬態化していたトレントに気付かなかったのだ。


「銀志ー!」

「今、助ける! 待ってろ!」


 俺は精霊武器召喚で光の剣を出すと、触手に斬りかかった。

 だが、木の精であるトレントに光属性の攻撃はあまり有効ではないらしく、思うように斬れない。


「ちぃっ! こんな事だったら他の精霊武器も覚えておくべきだった……」


 目的地まであと少しだと言うのに、このままでは蛍が危ない……。一体どうすれば?


「……ヒュビリード、やりなさい」


 後方からグリフォンの咆哮が聞こえた。

 翼音から放たれる風はかまいたちとなってトレントの触手をどんどんと斬り落としていく。


「きゃっ!」


 触手から解放され、落下していく蛍を走ってキャッチすると、ヒュビリードはトレントを竜巻で吹き飛ばした。


「……大丈夫?」

「あ、ありがとう碧川さん! 助かったよ」

「……別に。もうみんな着いてるわ」


 そう言うと、碧川は館へと踵を返して歩いて行った。


「おっ、二人とも来たね! 怪我はしてないかい?」

「斎藤先生!?」


 館で待っていたのは斎藤先生であった。

 斎藤先生は説明だけで合同訓練自体には参加していなかったはずだが……。


「いやね~、非常事態だったもので慌てて来ちゃったよ」

「先生。一体、何がどうなってるんですか?」

「うん、どうやら、何者かがこの訓練に介入しているようでね、全く困ったものだよ」

「やっぱり……。あ、他のみんなは大丈夫なんですか?」

「あぁ、他の合宿場にいる先生の話だとみんな無事の様だ。明日の朝ファルシオンから正規の召喚士が援軍に来る手筈になっている。今日はゆっくり休みなさい」


 先生はそう言うと食堂へと案内してくれた。

 この館には俺達の班の他に3班のクラスメイトが居た。

 この最初に渡された地図の目的地はどうやら、2班毎に違う館へ目的地を設定されていたようだ。


「はぁー……一時はどうなる事かと思ったよ」


 俺と蛍は、食堂でパンとシチューを食べながら安堵していた。


「あぁ、しかし……蛍のパンツが未だに猫ちゃんパンツだとは思わなかったな」

「はぁっ!? 何時みたのよ!? ……あ、トレントに捕まった時でしょ! 銀志の変態!」

「俺は変態ではない。たまたま視界に入っただけだ」

「銀志……私知ってるのよ? 銀志が女の子達になんて噂されているかを」


 一瞬、俺の脳裏を変態ブラザーズが横切った。

 まさか、そんな不名誉な噂が蛍にまで?


「違うんだ。あれは事故なんだ」

「へぇ~? 女の子の胸に頭を突っ込んだり、パンツを盗んでいるのが?」

「ん? 誰の話をしているんだ? 俺はそこまで犯罪に手を染めた覚えはないぞ?」

「え、違うの?」

「え、違うの? じゃないだろう! ずっと一緒に特訓してただろうがっ!?」

「あ、そうか。となると、もう一人の片割れさんの仕業なのかな?」


 俺はその時、完全に忘れていた一人の人物を思い出した。


「あ、あいつか! 海棠め……」

(帰ったら覚えてろよ!)


 俺のハートが激しく燃え上がった瞬間であった。


「はぁ……私の幼馴染が変態の双璧と呼ばれているなんて、とても孤児院のみんなには言えないわね……」

「俺は冤罪だ。というか変態の双璧ってなんだ! 何でレベルアップしてるんだ!?」


 そんな恐ろしい話を聞きながら食事を終えた俺達は、それぞれの部屋へ戻る事にした。

 館だけあって館内はそれなりに広かったが、何処に誰が居るのか把握する為に、斎藤先生は生徒達にそれぞれ1階にある東側の部屋に男子達を。

 西側に女子達の部屋を固めて使うように定めた。

 俺は自分の部屋に荷物を置くと、汗や泥で汚れた身体を洗う為に大浴場へと向かった。


「ん、おめぇ……まだ残ってたのかよ。てっきり、リタイアしたかと思ってたぜ」


 大浴場から出てきたのは来瀬だった。相変わらず口は悪いが元気は有り余ってそうである。


「あぁ、なんとかな」


 俺はそれだけ言うと大浴場の中へと入って行った。

 召喚戦闘をした日以来、気まずくて来瀬とはあまり話していなかった。

 大浴場へ入ると中は広く、意外と綺麗にされていた。それは館の外見からは想像もできない物であった。

 身体を洗って適度な湯加減になった湯に浸かると、1日の疲れが癒されていく様な気分に満たされた。

 そして、少し余裕の出てきた思考で俺は訓練の妨害をしている奴等の事を考え始めていた。

 結界を張っているとは言え、外部からの侵入者対策は万全なのだろうか?

 ここに居るのは先生以外、みんな素人だ。もし奇襲でもされたら?

 そんな不安が俺の心を支配していた。

 俺は立ちあがって大浴場を出ると夜の点子を受ける為、館のホールへと向かった。


「は~い、皆さんいますか? 健康状態が優れない方は申し出て下さいね~」


 斎藤先生はこんな状態でも平然としていた。さすが先生というべきなのだろうか。肝が据わっている。


「先生ー! 島本さんがまだお風呂から戻ってません!」


 島本と同じ3班の女子が告げる。


「なに~!? それはまずいな! 君達はここで待っていなさい。先生が見てこよう!」


 鼻息を荒くして女子の大浴場へ向かおうとした斎藤先生は女子達に笑顔で制止され袋叩きの末に縄で縛られた。

 特に碧川は楽しんで斎藤先生を虐めていた気がした。


(斎藤先生……あんたって人は……)


 それから女子達が大浴場へ島本さんを探しに行ってから20分程の時間が経った。大浴場なんて歩いても5分程度のはずなのだが、いくらなんでも帰ってくるのが遅い。


「大変よ銀志!」

「どうしたんだ、蛍。まさか猫ちゃんパンツでも盗まれたのか!?」

「違うわよ! 島本さんが何処にも居ないの!」

「なに?」


 斎藤先生の縄も解き、みんなで館内を捜索したが、島本さんの姿はどこにも無かった。


「島本さんを最後に見かけたのは誰なのかしら?」


 3班の崎原が女子達に聞いて回ると、碧川が手を上げた。


「……私、一緒に入ってたから多分……」

「その後、どこ行ったか知らない?」

「……分からない。私、先に出たから……」


 いくら館とは言え、この人数で探しても見つからないというのは不自然だった。一体何が……?


「みなさん、聞いて下さい!」


 あの斎藤先生が血相を変えて飛び込んできた。


「ど、どうしたんですか? 斎藤先生」

「島本さんの血痕と思われる物を見つけました! どうやらこの館の中に侵入者が居るようです」

「侵入者? でも先生、ここは結界が張られていて安全なはずでは」

「えぇ、確かに。外部から侵入された形跡もありません」

「ん? つまりそれは一体どうゆうことなんだよ、先生?」


 来瀬は意味が分からないという顔をして問い詰める。


「考えられるのは2つ……既にこの建物のどこかに何かが潜んでいる。それか――この中の誰かに変装して紛れている悪魔を招いてしまったと、いうことです」

「「はぁっ!?」」


 その場に居た生徒は動揺した。結界は外側にしか張っていない。

 もし内部に侵入されれば結界は意味を成さないのである。

 特に悪魔に対して招くというのはご法度であった。例え結界を張っていようが招ねかれた悪魔は結界を超えてきてしまうのだ。

 そして仮に斎藤先生の言う事が本当だとしたら、どちらにしても非常に危険な状況と言えるだろう。


「あれ? そういえば石貝君は……?」


 3班の崎原が石貝が居ない事に気付いて辺りをキョロキョロと見回す。


「石貝君? そういえば島本さんを探しに行ったきり帰ってきて……」

「ま、まさか?」

「私、探してきます!」

「待って下さい。崎原さん。今、無暗に動くのは危険です!」

「で、でも!」

「確かに、今動くのは危険だ。どこに敵がいるかも分からねぇからな」


 来瀬の言う通りだ。闇雲に動けば犠牲者が増えるだけだろう。


「皆さん、まずは落ち着きましょう。私がタロットカードで犯人を導き出します」

「せ、先生。タロット占いなんてできるんですか?」

「私も魔術師の端くれですよ? それくらいお手の物です」


 そう言うと斎藤先生は俺達を食堂へと連れて行き、食卓の傍に生徒を集めた。

 斎藤先生はコンビネーションリーディングという山札をシャッフルして引いた2枚のタロットカードから占う技法でタロット占いを始めた。

 これは2枚のカードから情報を読み取らなくてはならないので、上級者向けの技と言える。


「愚者と皇帝……なんということだ……」

「先生、結果は?」


 斎藤先生は真剣な顔でここに居る生徒達に告げた。


「……残念ながら、ここに居る者の中に犯人が居るようです」


 その答えは、最も最悪な展開へと俺達を誘って行く事になった……。

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