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3話「我精霊魔術の使い手也」

4/2読みやすい様に言い回しや改行改善しました!

「すまなかった!!」

「きゅ、急にどうしたのじゃ?」


 俺は土下座をして自分の呼び出した召喚獣に謝った。

 召喚士として最も大事な事に気付いたからだ。


「俺は、今まで召喚獣をただの戦う為の道具だと思っていた。だが、みんな意思を持って生きている。それを俺の都合で勝手に呼び出した上に無理やり使役しようとした……」

「ふむ……少しは反省したようじゃな?」

「あぁ、本当にすまなかった……そしてそれを承知の上で俺の話を聞いてほしい」

「んむ?」


 猫は頭をかしげながら俺の顔を見ている。


「俺は自分が招いた罪を償う為に、どうしても召喚士にならないといけない。しかし7月に控えるランクアップ試験に合格しなければ退学になってしまうんだ……」

「ふーん、そんな事を言われても私には関係ない話しなのじゃが?」

「その通りだ。俺の勝手な都合を押しつけているのは分かっている……ただ、せめて、ランクアップ試験まで待ってくれないか? 俺がその日までに結果を出せなかったらいつでも帰ってくれて良い」

「う~ん、無駄だと思うんじゃがな……まぁ3カ月だけなら待ってあげても良いけどの」

「本当かっ!?」

「但し! 条件があるぞ。私に自由にテレビや美味しい食べ物を提供するのが対価じゃ。タダで付き合ってやるほど世の中甘くないからの」

「ありがとう! ……あ、そういえば名前は?」

「名前? あー……リリティア……じゃ」

「ありがとう、リリティア!」

「分かったら、食事とお勧めのアニメを私に教えるのじゃ!」

「え? アニメって――」

「私も、この世界の文化は気になっておったのじゃよ。特にアニメという物は実に興味深い」


 俺はその時、ただアニメが見たくて残っているのではないかという疑いが一瞬脳裏を過ぎったが、あえてそこには触れなかった。

 残りの期限まであと3カ月も無かった俺は、早速次の日から特訓を始める。


「良いですかな? 召喚士と召喚獣の力を澱みなく繋ぐには、精神の繋がりが大切です。霊格の高い我々に比べて、訓練をしていない召喚士の方達は精神が脆い傾向が強い。よってまずは精神を鍛えてもらいますぞ!」


 特訓のコーチを買って出たのは、蛍のファブニールだ。蛍も一緒に特訓に参加してくれるらしい。


「精神力を鍛えると言っても具体的に何をどうしたら良いの?」

「まずは精神の基盤となる肉体を鍛えて頂きます」

「そういえばずっと疑問に思ってたんだが、何で召喚術に肉体が関係するんだろうな。精神と肉体って別々の物だろう?」


 ファブニールは腕を組んで眼を瞑ると、精神と肉体の関係について語り始めた。


「ふむ……精神と肉体は本来、2つでひとつ。健全な肉体に健全な精神が宿るのです。それに鍛えれば体内に保有できるアストラルエネルギーも増やせますからな」

「アストラルエネルギーって要は魔力の事よね? となると……思っている以上に肉体を鍛えるのは重要なのね」

「その通りです。さぁ、今日から毎日、走って頂きますぞ!」


 ファブニールに追い込みを掛けられながら走った後は、精神修行に入る。


「まずは、最高の精神状態にして頂く為、坐禅を組んでいただきます」


 俺達は眼を瞑って、瞑想状態へと入る。

 坐禅をしていると不思議な物で色々な記憶や思考が流れてくる。

 ファブニール曰く、坐禅には心を整理する効果もあるらしい。

 それに見た目は地味だが、思ったよりも効果があるらしく、坐禅を終えた後は身体が軽くエネルギーに満ち溢れていた。


「瞑想状態に入る事で、体内の古い魔力を新しい魔力へと入れ替えるのです。これで身体の細胞も活性化され気力が沸いてくるでしょう」


 次は、戦闘訓練だ。強固な精神を鍛え上げるには実戦訓練が一番らしい。


「しっかりと相手の動きを見るのです! 恐怖から眼を逸らしていては避けれませぬぞ!」


 俺とファブニールは木刀を持って稽古を続ける。相手の魔力の動きを読んでこちらの魔力を同時に動かしていくのは思った以上に難しい作業であった。

 そんな特訓が一カ月を迎えた頃、俺はある変化に気付いた。


「おぉっ? 紫藤君、授業の成績が上がってるじゃないですか。頑張っているようですね」

「あ、はい! 斎藤先生のお陰です」

「いやいやー、僕は何も! 紫藤君の努力の賜物ですよ。その調子で来週の合宿訓練も頑張ってくださいね」


 合宿訓練。それは下等悪魔が徘徊している悪魔の森と呼ばれる森での実戦戦闘訓練である。


「銀志~、来週の合宿訓練の準備終わった?」

「あぁ、しかしあのチームで共同訓練となると、気が重くなるな」

「確かに……碧川さんも来瀬君も勝手に動くから困るのよね……」


 俺達のチームは俺を省いて個々の能力は高いのだが、チームとしては最低の評価を受けていた。

 戦隊物で言うとチーム内の半分が単独行動を好むブラック達なのだ。


「最悪、バラバラに行く事になるかもなぁ……」


 不安を抱きながらも、それは解消されないまま合宿の日を迎えた。


「はーい、それでは皆さん準備出来ましたか? 1度しか説明しないのでよく聞いて下さいよ」


 斎藤先生は霧の掛かった森の入口に生徒を集めると早速、今回の訓練について説明を始めた。


「この魔の森は知っての通り、危ない魔物が沢山、棲息しています。この訓練では皆さんに配ってある地図を見て頂きながら目的地を目指して実戦経験を積んでもらうのが狙いです」

「先生ー。もし途中で続行が不可能な場合はどうすれば良いんですか?」

「ふふっ、良い質問ですね。残念ながら負傷して動けなくなった方はリタイア扱いとなり、各中継地点にいる先生方に回収してもらいます」

「先生ー。俺達だけで対処できる魔物なんですか?」

「そこは大丈夫です。正規ルートには強い魔物が近寄れない様に結界を張ってあります。但し、正規ルートを外れると命の保証は出来ませんので注意してくださいね?」


 下等悪魔がどれくらいの強さか分からないが、慎重に進めばいけるだろう。

 このチームに慎重に動くという言葉があるかどうかは知らないが……。


「それでは1班から順番に10分の間隔を空けてから入ってください。それと、くれぐれも団体行動を心がけるように!」


 俺達の班は最後だった。


「銀志……、この森なんだか薄気味悪い所ね」


 俺の腕を掴みながら、話しかけてくる蛍。


「確かに、霧が濃いし嫌な気配がするな」


 俺は辺りを見回す。気配である程度、魔物の位置はは特定できるが、油断して奇襲を受けないようにしなくてはならないだろう。


「けっ! 嫌な気配だ? どこにそんなもんするんだよ、このビビリがっ!」

「ちょ、ちょっと来瀬君。どこに行くの!?」

「こんな森、俺一人で十分だ。悪いが俺は勝手に行かせてもらうぜ」


 そう言い残すと来瀬は霧の中へと消えて行った。


「……私も勝手に行かせてもらうわ。一人の方が動きやすいし……」

「碧川さんまで!? 先生が団体行動するように言ってたじゃないの!」

「……ごめんなさい」


 碧川はヒュビリードを召喚すると、背中に乗って飛んで行った。


「もうっ!」

「やっぱりこうなったか……仕方が無い。二人で行こう」


 蛍もファブニールを召喚すると周りの気配に注意しながら歩を進めた。しばらく霧の中を歩いて行くと人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「銀志、あれ……」

「あぁ、早速来たようだな」


 一つだった人影は段々とその数を増し、唸り声が上げながらこちらへと近づいてくる。


「ひぃー!? ゾンビばっかりじゃないの!」

「ここで朽ちた者の末路か……」

「ちょっと銀志! 不吉な事言わないでよ!」

「大丈夫だ、俺の特訓の成果をみせてやろう!」

 

 俺はこの一カ月の特訓の間に新しい召喚術を習得していた。


「天地を貫く白き閃光の精霊よ、我が問いかけに応じ光の剣となれ!」


 詠唱を唱え終わると共に左手に光の剣が現れる。


「すごーい! 精霊武器召喚なんて何時の間に覚えたの?」

「護身術になりそうな物を探してたら、図書館で精霊武器召喚術の本を見つけてな」

「お見事ですな、紫藤殿」


 精霊武器召喚とは、精霊の力を少し借りて武器へと具現化する召喚術である。

 俺はファブニールとの稽古を思い出し、ゾンビ達に斬りかかる。


『魔力を体内で練れば、パワーやスピードも強化する事ができますぞ』


 一か月前とは比べ物にならない程の動きでゾンビ達を次々と倒していく。

 俺はファブニールの稽古のお陰で下等悪魔程度なら、召喚獣に頼らなくても戦えるようになっていた。


「よし、とりあえずこんなものか」


 全てのゾンビを斬り伏せると、ゾンビ達は灰へと姿を変え消滅していった。


「銀志だったら、召喚獣が居なくてもこの森、制覇できちゃうんじゃないの?」

「いや、それは無いな。奥に居る強い邪気の魔物はとても敵う気がしないよ」


 そもそもゾンビは悪魔の中でも下っ端の中の下っ端なので、大したことは無い。

 厄介なのはむしろ知性を持った悪魔達であった。

 しかし先に行った二人は大丈夫なのだろうか?

 召喚獣の強さから言っても、問題は無いと思うが、チームメイトとしては少し心配な所であった。


「あ、君達! こっちは今強い魔物が侵入しちゃって危険なんだ。すまないが右の道から行ってくれないか?」


 中継地点の先生が前方を指すと道が二股に分かれていた。


「え? でも先生。こっちから行くと正規ルートから外れますけど?」

「あぁ、大丈夫だ。想定外の事態に備えてそっちにも結界を張っておいた」

「そ、そうなんですか」

「仕方が無い蛍、右から行こう」


 そして俺達は何の疑いを抱く事も無く、右のルートへと進路を変えて進んで行った。

 これが奴等の罠だという事も知らずに……。

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