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2話「我其の資格持たざる者也」

4/2読みやすいように言い回しや改行を改善しました。

「……おや? 一名、既に戦闘不能になっているようだけど、どうかしたのかい?」

「いえ、気にしないでください! いつもの事なので!」

「おい! 俺がいつも棺桶の中に居る様な言い方するな!」

「ふっ、どうせ棺桶に居ようが居まいがF判定なんて空気だろうが」

「なんだと!? やんのか!」

「………」


 既に協調性の欠片も無いチームがそこにあった。

 さすがTHE余り者達である。

 しかし、体育館とは聞いていたが、一般的な体育館とは異なり、強固な建物で造られたこの場所は、闘技場という名が相応しい造りになっていた。

 体育館には天井が無く、吹き抜けになっている。


「はいはい、静かに。それではまずチーム内で召喚戦闘サモンバトルをしてもらいます」

「チーム内で?」

「はい、まずはチーム内の実力を各々確認してもらうのが目的です」

「なるほど」

「それでは――」

 

 ランクで公平に分けようと言う事で、蛍VS碧川、俺VS来瀬になった。まずは女子同士の召喚戦闘だ。


「……紅蓮を纏いし紅き咆哮よ。汝、我との契約によりてその力を示せ……いでよ! ファブニール!!」

「……え?」

「なんだありゃっ!?」


 俺と来瀬は口を開けて驚いた。

 蛍が召喚したのは紅い龍人族ドラゴニュートだった。ドラゴン種を召喚できるとか相当の才能が要るはずだが……。

 俺の中で蛍のイメージが崩れて行く。


「……神々に仕えし天空の支配者よ。汝、契約によりて我が目の前にその姿を現さん……いでよ! ヒュビリード!」


 対する碧川はグリフォンを召喚してきた。さすがA判定だ。

 まだ子供だが、その潜在能力は計りしれない。


「ファブニール! 行って!」

「御意」


 ファブニールは口から炎の咆哮を吐き、ヒュビリードを攻撃した。


「……無駄よ」


 対して、ヒュビリードは大きな翼で風を操ると炎を掻き消した。

 更にその風は大きな竜巻と成りて、ファブニールに襲いかかる。


「なんて風だ!」

「ファブニール! 炎が効かないなら肉弾戦よっ!」


 ファブニールは風を踏ん張って耐えると、一気に間合いを詰めてグリフォンへ飛びかかった。


「……くっ!」


 ファブニールはヒュビリードの背中に飛び乗ると、炎を纏った拳で攻撃を仕掛ける。

 ヒュビリードの身体に炎が燃え移るとヒュビリード掻き消す為に身体を大きく動かした。


「うぉっ!?」


 ファブニールはヒュビリードの激しい抵抗で振り落とされると、地面に激突した。

 続けて、ヒュビリードは強靭な鉤爪でダウンしたファブニールを締め掴むと再び上空へと舞いあがった。

 ヒュビリードはどんどんとその高度を上げて行く。


「おい……あの高さから落ちたらやばいんじゃねぇのか?」


 ヒュビリードは体育館よりも上空へ抜けてかなり高い所まで飛び上がった。

 あの高さから落ちたファブニールと言えどタダでは済まないだろう。


「……これで私の勝ちね」

「ぬぬぬ! ……参りました……」


 蛍は観念して負けを認めた。だが、A判定の碧川相手によくやったものだ。

 俺なら不戦敗になっている所である。

 そして、俺達の番が回ってきた。


「おい、F判定? 降参するなら今のうちだぜ?」

「ふっ、ほざいてろ! 俺と戦った事を後悔させてやろう」


 とは言う物の俺には何も策がなかった。


「銀志~! がんばって~!」


 俺はどうすれば良いのか考える。相手はC判定だ。きっと勝つ方法はあるはず……!


「それじゃ俺から行くぜ! ……偉大なるガイアより生まれし力の化身よ。汝、我が契約によりて我が拳となれ! いでよ! クロノアジール!」


 地を轟かす程の咆哮を放つゴーレムが現れた。C判定の癖に強そうに見えるのは気のせいなのだろうか。


「さぁ、早く出せよ。F判定」

「言われなくても今だしてやるわい!」


 さぁ、俺も召喚するか……と思った時であった。俺は一つの疑問にぶち当たる。そう言えば俺……召喚はした物の契約を結んだ記憶が無い。

 みんな何気に契約を既に終わらせてるようだが、どうゆうことなんだ?


「おい、猫! 俺達なんで契約していないんだ?」

「はぁ……? 何言ってるのアンタ。契約なんかしたら私、元の世界に帰れないじゃないのよ」

「なんだと!? じゃあ何の為に召喚に応じたんだ!」

「知らないわよ~、たまたま歩いてたら異空間の狭間に吸い込まれた、だけだもの」

「なに~!? それじゃどうやって召喚すればいいんだ!」

「さぁ~? というか早く私を元の世界に帰してほしいんだけど……」

「残念だが、今はちょっと無理だ! 今すぐ出てくれ!」

「いやよ~、今お風呂の最中――」


 俺は適当にサモナーデバイスを弄るとポコンッと頼りない音を立てて泡まみれの猫が現れた。


「……いやん」

「か、可愛い!」

「……にゃー」


 蛍と碧川が意外な反応を示したが、目の前に居る奴はどうやらお怒り寸前の様だ。


「……おい? F判定。貴様は、俺を舐めているのか?」

「何を言ってるんだ? 見た目に惑わされて油断すると後悔するぜ?」

「ほう? 俺は既に違う意味で後悔してるがな……ここまで糞だとは思わなかったぜ!!」


 クロノアジールは大きく身体を捻って右拳を猫に向かって叩きつぶしてきた。


「ちょ、ちょっとぉおお!?」


 猫は叫びながら逃げ惑う。自分の召喚獣ながら情けない光景である……。というか良心が痛んできた。


「これで終わりだぁぁ!」


 クロノアジールが完全に猫を捕らえ、拳が放たれる。


「し、しぬぅうう!?」

「なっ!?」


 間一髪の所で俺は、猫の前に立ち塞がった。

 猫とは言え、俺の都合で召喚したのだ。蔑ろにするべきではない。


「す、すまん。俺の負けだ……」


 俺は素直に負けを認めると、クロノアジールは寸止めで拳を止めて消えて行った。


「ちぃっ! まさかまともに召喚も出来ないとはな。俺はおめえなんかチームとして認めねぇからな!」


 来瀬はそう言い放つと下がって行った。


「銀志……」


 そして今日の実習訓練は終わったのであった。

 授業が終わり夕日に染まった公園で俺はブランコに乗ったまま俯いていた。


「銀志?」


 銀色の猫を抱えた蛍が俺の顔色を伺いながらやってきた。


「あれ、なんで蛍がそれを抱き抱えてるんだ?」

「えーとね……野良猫の喧嘩に巻き込まれて倒れてたのを助けてきたの」


 俺は自分の不甲斐なさに失笑した。

 ショックを受けた俺は上の空で猫の事なんて完全に忘れていたのだ。

 だが幸いにも猫は目を回していたがそれほど大きな怪我ではないようだ。


「そうか。すまんな、ありがとう」

「ううん……」


 蛍は黙ったまま隣のブランコに座った。


「……俺は……あの日から何も成長していないな」


 自分がとてつもなくかっこ悪い人間に見える。

 口では偉そうにしていても実際何も出来はしないのだ。


「そんなことないよ。召喚士になる為に今まで努力してきたんじゃない」

「いや、いくら努力したって才能が無ければ意味が無いんだ。俺は守られてばっかりでいつまで経っても無力な人間なのさ」


 俺は自分の才能の無さが悔しかった。

 こんなことじゃ両親の仇を討つ事なんて出来やしない……。

 俺は何の為に生きているんだ?何故ここにいるんだ?

 何もかもが馬鹿らしくなってくる。

 そして自分の中にあった込み上げてくる葛藤は溢れ出て涙へと変わった。


「……銀志……」


 蛍は深呼吸をすると立ちあがって、俺の前に立った。


「……泣くな紫藤銀志! 私の知っている銀志はどんなときだって自信に溢れていて失敗を恐れない馬鹿なのよっ!」

「蛍……お前、馬鹿って……」

「銀志! 特訓をしましょう! 貴方なら必ずやれる!」


 蛍は俺の手を取ると、力強い眼差しで励ましてくれた。


「……でもどうやって……? 俺の召喚獣はただの猫だぞ……」

「銀志が召喚したんだもの、きっと何か隠された力があるはずよ!」

「隠された力……」


 俺は銀色に輝く猫に視線をやる。

 野良猫にやられるような召喚獣にとても隠された力があるようには思えないが……。


「先生も実は興味あるんですよね~。この子」

「さ、斎藤先生!?」


 蛍は驚いて飛び上がった。


「どうしたんですか? 斎藤先生」

「いやね、理事長から君宛に言伝を承っていてね」

「理事長から……?」

「あぁ、このまま1学期のランクアップ試験で良い点数が取れない様ならば、退学に処すると」

「た、退学!? それはあまりにも酷いんじゃ!」


 蛍は斎藤先生に噛みつくように講義する。


「いやいや、僕も自分のクラスから退学者なんて本当は出したくはないんだ。でも理事長には逆らえないからね」

「上等です。……結果を出せば良いんですよね?」

「良い眼だ。だが、どうする? 今のままじゃ正直厳しいと思うが?」

「……分かりません。でもチャンスがあるなら最後まで諦めずにやるべきだと、蛍に教えられました」


 蛍は顔を赤らめて照れくさそうに視線を下にそらす。


「そうか、分かった。それじゃ先生から1つアドバイスをあげよう」

「……アドバイス、ですか?」

「あぁ、この召喚獣からは何か不思議な力を感じる。君がこの子の契約者として認められれば、化けるかもしれないぞ?」

「契約者として認められる……」

「契約をしてくれないのはその子が君に不満を持っているからだ。召喚獣は召喚士の精神力に大きく影響される存在だからね」

「つまりは、精神力を鍛えてこの子に認めてもらえれば良いんですか?」

「まぁ、そんな単純な話だけでも無いんだけど――認めてもらう努力はすべきだと思うね」

「……分かりました。斎藤先生ありがとうございます」

「いや、良いんだ。可愛い生徒を導いてやるのが先生の役目だろ?」

「ふふっ、先生」


 初めは最低な先生だと思っていたが、ちゃんと話してみれば意外と生徒想いの優しい先生だった。

 そして俺は特訓を始めた。自分の召喚獣に認めてもらう為に。

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