24話「汝破滅を望む者也」
「なるほど、只の召喚士か……面白い。手合わせ願おうか」
「あぁ、悪いが一瞬で終わらせてもらうぞ」
リリティアが前に出てくると魔王アスモデウスは構えた。
「紫藤よ。どうやら今、地上で暴れているのはどれも魔王クラスの様じゃぞ」
「ん~……そうみたいだな。何でこんなに魔王が居るんだ?」
「行くぞ!!」
魔王アスモデウスは拳に闇の波動を纏うとリリティアに闇のエネルギー弾を放った。
しかし、リリティアは光の剣でいとも簡単に弾く。
「なにっ!?」
「し、紫藤君。君は一体……」
如月から見ても紫藤の魔力の質が明らかに変わっているのが見て取れた。
今の紫藤とリリティアは魔王の力をも凌駕する。
「言っただろう? 一瞬で終わらせると」
気付いた時にはリリティアは魔王アスモデウスの背後に居た。
「見事だ……。我を退けるとはな……」
魔王アスモデウスは膝を付くと吐血した。
如月でさえ何が起きたのか理解出来なかった。
ただ、リリティアが圧倒的な力で魔王アスモデウスをねじ伏せた事実だけがそこにあった。
「あと3体か……一気に片付けるぞ!」
俺はリリティアに掴まり、光速で次の魔王の場所へと移動する。
「あれは……銀志?」
蛍は戦況が好転してきたのを気配で悟っていた。
そして銀志の魔力が桁外れに跳ね上がっている事も。
「くそ! ファルシオンの召喚士が束になっても敵わないだと!?」
「余を満足させる事も出来ぬのか、この愚か者どもが!」
魔王ベレトは魔力で作り出したエネルギー体の巨人を身に纏うと、巨大な拳で召喚士を殴りつけた。
が、何かに阻まれその拳は途中では止まってしまった。
「ぬぅ!?」
「そこいらで辞めてもらおうかのう。これ以上人間が死なれては面倒な事になりそうじゃ」
リリティアがそう言うと、エネルギー体の巨人は切り裂かれ、消滅した。
「余の攻撃を受け止めるとは、何者だ?」
「かつて、6つの魔王を滅ぼした神獣と言えば分かるかのう?」
「お、おまえがあの――」
リリティアが放った光の閃光により魔王ベレトは意図も簡単に消滅した。
「魔王ベレトが一瞬で!? 一体何がどうなって……」
その場に居た者は困惑した。
何百人という数で戦っても手も足も出ない魔王をたった一人で敗れる者が存在する事、事態が信じられなかったからだ。
「あと2つだ。行くぞ!」
紫藤達は休む間もなく、次の魔王の所へと向かった。
「ふぉふぉふぉ。ほれ、もっと踊らぬか」
魔王パイモンはトランペットの超音だけでべリアスのレジスタンス部隊を壊滅させていた。
愉快に魔王パイモンがトランペットを吹いていると、遠距離から高エネルギーの光弾が光速で飛んでくるのを感じた。
「あの光は……」
魔王パイモンは音の波動でそれを落とそうと、トランペットを吹いたがまるで効果が無い。
「何なのだ、あの光は!!」
急いで上空へ飛び上がると、その光から逃げる様に立ち回った。
しかし、その光は魔王パイモンの動きに合わせて軌道を変えて来る。
「そうか……あれは只の光弾では無い! 何かあそこに居るな!?」
魔王パイモンはそれを確信すると、相手が参るまでトランペットの超音でその光弾を攻撃した。
超音は近ければ近い程、その破壊力を増して行く。だが――
「音の魔法を操る魔王か。光のシールドに包まれていなければ厄介だったかもな」
「そうじゃな。しかし、音さえ封じてしまえばもう何も出来やせぬ」
俺達は一気に距離を詰めると、光の剣で魔王パイモンを貫いた。
「ぐふっ! ……音が効かない者が存在するなんて聞いたことが無い……ぞ」
魔王パイモンは力なく地に伏せると消滅した。
残るは魔王あと1体。だが、残りの魔王よりも上空にそびえ立つ建物が俺達の気を惹いた。
「リリティア、あそこって……」
「あそこに恐らく浅羅魔がおるな。速く止めねば嫌な予感がする……」
「あっちは邪神べリアスが戦っているのか……」
「邪神べリアスならば問題無かろう。我々は浅羅魔の所へ行くぞ!」
「……分かった!」
邪神べリアスと魔王バエルの戦いは拮抗していた。
「他の魔王が全滅だと? 一体何がどうなっている?」
(シルバの奴、とうとう覚醒したのか? これならば奴を止められる!)
「バエルよ、そろそろ我々も決着を付けるとするか」
「そうだな。この一撃に全てを賭けようぞ!」
両者は次の攻撃に全魔力を注ぎ込んだ。
「獄炎の業火に焼かれて逝け!」
「逝くのはお前だがな!!」
べリアスと魔王バエルによる激しい魔力と魔力のぶつかり合いは強大なエネルギー磁場を発生させ、辺り一帯を爆発へと導いた。
「まさか、私の魔王軍が敗れるとはな。面白い余興が見れた」
浅羅魔は笑ってその光景を見ていた。
「余興だと? このふざけた戦争がか!」
「……ようやく力に目覚めたか紫藤よ。私はお前が目覚めるのをずっと待っていた」
「残念だが、お前に封印されていた記憶は解かせてもらった。もうお前の駒にはならない」
「ふふふ……はっはっは!」
「何が可笑しい?」
「確かにお前は魔王達を退ける程の力を手に入れた。しかし、この大召喚が完成すればその力も無に帰するだろう」
「大召喚じゃと!? 馬鹿な真似をやめるのじゃ! 本当に世界が滅びるぞ!」
「良いのだよ。ネーシャの居ないこの世界にもう価値は無い。私は二度と20年前の様な悲劇の戦争を起こさせない為に野蛮な人間達を粛清する!」
浅羅魔は手を上げると、大召喚術式の魔法陣が赤く不気味に輝きだした。
「時は満ちた! かつて偉大なる大天使ルシファーと呼ばれし者よ。ここにある全ての人間の魂と引き換えに我の身体に宿りたまえ! 大魔王サタン!」
「憑依召喚じゃと!?」
浅羅魔の姿が激しい黒光に輝いた。
そしてそこから中心にどす黒い邪気が溢れだしてくるのを感じる。
「紫藤! 完全に融合する前に奴を叩くのじゃ!」
「あぁ、分かった!」
俺達は手を前に出すと連結詠唱を始めた。
「「我、神の代行者にして魔を裁く者也、神の名において命ずる。悪の権化を滅する大いなる光となれ! ホーリバースト!!」
暗闇を照らす大いなる光はサタンを取り込んだ浅羅魔を包囲すると、どす黒い邪気を浄化していく。
しかし浄化スピードを遥かに上回るスピードで邪気が発生している事に気付いた。
「想像以上の力じゃ……!」
ホーリバーストで取り囲んでいた浄化も邪気の量が光を圧倒的に上回るとホーリバーストは破裂して消滅した。
「さぁ、魔王達の宴もクライマックスだ」
サタンと同化した浅羅魔は悪魔の様な角を2本生やし、瞳は赤く輝いている。その顔には邪悪な笑みが零れている。
「大魔王サタン……」
「リリティア、やれそうか?」
「今の状況じゃと5分5分と言った所じゃろうな」
リリティアは光の剣を出現させると構えた。
「さぁ、神獣よ。私を楽しませておくれ」
「……ゆくぞ!」
リリティアはテレポートを使うと浅羅魔の背後を取った。
しかし、浅羅魔もそれは予想済みでどす黒い魔力で防御する。
そして2人は空中に飛び上がると目にも止まらぬスピードで空中戦を始めた。
空では時折、白い光と黒い光の衝突爆発が見えた。
「あれが紫藤君だと……? あの力は人間離れしすぎている……」
「銀志……」
大魔王サタンと互角にやり合える者など、悪魔の中には存在しない。
「……紫藤君……がんばって」
「あいつ、いつの間にあんな強くなりやがったんだ?」
絶望的だった戦場に現れた救世主を戦場に居た全員が見守っていた。
「紫藤! まだ奴の力が上がっているぞ!」
「どうする? このままじゃジリ賃になるな」
光速で激しい空中戦が繰り広げられる中、二人は考えた。
「……止められなくなる前にあれでトドメを刺すしかあるまいか……」
「リリティア策があるのか?」
「あぁ、しかしそれにお主が耐えられる保証が無いのじゃ」
「構わない。どっち道やるしかないだろ!」
「……分かった。しかし時間が少し必要じゃ、時間稼ぎが出来れば……」
リリティアは苦肉の策だが、これしか手段が無いと考えた。
問題はどうやってそれを成すまでの時間を作るか?
「困っているようだな? 力を貸してやろう!」
「べリアス!?」
「有り難い! しばらく時間を稼いでくれぬか!」
「……どこまで持つか分からねぇが任せろ!」
リリティアはべリアスに交代すると、紫藤の下へと向かった。
「邪神べリアスか。召喚士がその程度ではお前も力が出せぬだろう?」
「へっ、俺は生憎、あいつの事を気に行っていてね!」
べリアスは最大魔力で浅羅魔の攻撃を受け止めている。
しかし、それでも数分もは耐えきれないだろう。
「紫藤、これが成功しなければ私達の敗北が決まってしまう。準備は良いか?」
「いつでも大丈夫だ。始めよう」
俺とリリティアは正面に向きあい手と手と合わせた。
「「我、神の代行者にして魔を裁く者也、最高神ゼウスよ、我の問い掛けに応じ神の刃を授けたまえ!」」
俺はリリティアから大量の魔力を吸われて行くのを感じた。
「紫藤よ、今から私は聖剣へと生まれ変わる。但し、この力は強力じゃ。それ故に普通の人間では持つ事さえ敵わない。だが魔族のハーフでお主ならば!」
「そうゆう事か……分かった。俺を信じろ!」
俺はリリティアに魔力を注入して聖剣になる為の基盤を作った。
しかし、聖剣にする為の魔力量が想像を遥かに上回っており、魔力が足りるか不安を感じ始めていた。
「くっ! 魔力が……!」
「銀志! 私の魔力も使って!」
「ほ、蛍!?」
蛍は俺の手の平に手を合わせると暖かい魔力が俺の手を伝って送られてくるのを感じた。
「ほれ、私の魔力も貸してやろう」
「如月先輩! 大丈夫なんですか?」
「あぁ、心配無用だ」
更に如月先輩の魔力がリリティアへと流れ込んでいく。
「……紫藤君。私の魔力も貸してあげるわ」
「碧川、ありがとう!」
「おっと俺も忘れるなよ?」
「来瀬!?」
そして5人の力が今、1つの聖剣を作り出そうとしている。
「あれは……忌々しき聖剣……ゼウスめ!」
「おっと、ここから先はいかせねぇぜ!」
「どけ!」
「ぐっ!?」
浅羅魔はべリアスを退けると、猛スピードでこちらに向かって飛んできた。
「聖剣になる前にその芽を潰す! 死ねぇい!」
巨大な黒い刃が俺達を目掛けて放たれる。
聖剣が完成するのが先か、それとも殺されるのが先か、事態は一刻を争っていた。
「まだ出来ないのか!? リリティア!」
「………」
しかしリリティアは何も喋らない。
「お願い! 間に合って!」
「くっ!」
「……諦めないで!」
「そうだ! 俺達はまだ生きている!」
巨大な黒い刃は俺達事、大召喚の間を切り裂いた。
「これで終わりか。呆気ない最後だったな……」
崩れゆく大召喚の間を見て浅羅魔は呟いた。
これで私を邪魔する者はもう誰も居ない……。
全てが終わったのだと――
「まだ終わっちゃいねぇよ!」
それは突然、大召喚の間に立ち昇る煙の中から現れた。
「か、完成していただと!?」
紫藤は蒼く輝く神秘的な大剣を握りしめていた。
「これで決める!」
俺は全ての力を聖剣に託し、最後の攻撃を放つ。
「大いなる神々より生まれし魔を切り裂く聖なる剣よ。我が刃となりてその力を解放せよ!!」
聖剣は今まで溜めてきた力を一気に開放すると、青い光を放ちながら一つの巨大な剣へと変貌した。
その大きさはまるで大樹ユグドラシルを思い浮かべる程の物であった。
俺はその巨大な聖剣を振り下ろすと、浅羅魔を捉えた。
「ちぃぃぃ!! 若造がぁぁ!! くっ……結界がもたぬ!?」
「浅羅魔! お前が過去の戦争で何を失って何を思ったのか俺には分からない。だが、だからって世界を滅ぼして良い理由にはならねぇんだ!」
「何も知らぬ青2才が知った様な口を!」
俺は浅羅魔を結界事、地面に叩き落とすとそのまま聖剣で地中に押し込むように浅羅魔を突いた。
「くそぉぉがぁぁあ!!!」
「うぉぉぉぉぉおおお!!!」
聖剣が浅羅魔の結界を破壊すると、意図も簡単に浅羅魔を貫ぬいた。
「がはっ!」
「これで……終わり……だ」
俺は全ての力を使い果たし、その場に倒れた。
夜は明け、世界は新しい1日が始まろうとしていた。




