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モダンカリキュレーション 白の詠召喚術士  作者: 笹草 熊猫
5章 それぞれのアカシックレコード
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21話「汝伝説の召喚士也」

「研究施設の目標座標まではあともう少しだ!」

「分かりました! 速く破壊して銀志の所に戻らないと!」


 蛍と如月は生物兵器を管理しているマザーコンピューターの中枢まで迫っていた。

 それさえ破壊すれば、全ての培養カプセルの生物は生命を維持できなくなってやがて死滅するだろう。


「しかし、妙だな……」

「どうしました?」

「いや、敵が少なすぎる気がしてな。もう少し居ても良さそうな物だが……」

「それはその必要が無いからだよ……」


 突如冷たい口調でに話す男の声が聞こえた。

 

「何故、貴様がここにいる!」

「理事長!?」


 それはかつて伝説の英雄にして最強の男、浅羅魔の姿であった。

 予想では大幅に削られた戦力の穴を埋める為に地上で本隊と交戦する……はずだったのだが、味方の命よりもこの研究所を優先したと言う事なのか?

 

「もう少しで全ての条件が揃う……」


 蛍と如月は浅羅魔に対して構えた。

 速く戻らなくてはならないのに、まさか一番最悪の敵が本隊から外れてここに居るとは予想だにもしていなかった。


「どうゆう事だ!」

「答えは直に分かる。それよりも私は残念だ。君達が敵に寝返るとはな」

「寝返る? 違うな、私は最初からお前の計画を止める為にファルシオンへ潜入していたのだ!」


 そう、最初からべリアスの幹部である如月はファルシオンの情報を手に入れる為に召喚士養成機関へ入学していたのだ。


「なるほどな……道理でお前の戦闘力と洞察力の高さには合点が行ったよ、如月。だがそれも結局は無駄な事だった様だ。世界は間も無く終焉に向かう」

「それをさせない為に我々が居るのだ。覚悟してもらおうか!」

「ふむ……しかし君達だけでは少々物足りないな。そこに居るのだろう? バガフの使徒とやら。もう少し戦力を用意出来なかったのかね?」

『……二人とも逃げるんだ。浅羅魔は格が違う……!』


 声のする方を見るとエレベーターで別れたはずの男が立っていた。

 まるで気配を感じさせないその技術には只者では無い雰囲気を感じさせる。

 だが、それ故にバガフの使徒の言葉には信憑性を帯びていた。


「もう遅い。逃げる事は不可能だ」

「なっ!? これは……」

 

 突然、天井が開けたかと思うと蛍と如月が居た場所が上に向かって上昇していくのが分かった。

 上を見上げると暗い空が見える。


「だが、余興としては面白くない。少しゲストを用意してあげよう」


 このまま研究施設の破壊が出来なければそれは作戦の失敗を意味する。

 如何にかしてこの男を出し抜けないか如月は考えた。 

 しかし幾ら考えても妙案が浮かばない。

 何をする事も出来ずにそのまま4人を乗せた床はは上空へ登って行くと何も無い開けた場所に出た。

 周辺の床は大理石で出来ており、そこはまるで天空に作られた闘技場の様な造りをしている。


「ここは?」

「ここは、大召喚を行う儀式の場だ」

「大召喚だと!? そんな事をすれば世界が滅びるぞ!」

「ん? 何を言っている……言っただろう? 世界は間も無く終焉に向かうと」


 大召喚。それは偉大なる悪魔を呼び出す為に行う召喚術式だ。しかしそれには多大な生贄を必要としなくてはならない。


「まさか……ここの人間を全員使って!? 狂っている!」

「違うな……狂っているのは世界だ。私はこの世界を正しい道へ導く為にここまで来た」

「何を言っている……?」

「悪魔の軍勢を統率する偉大なる6人の魔王よ、我が血の契約によりて世界を破滅に導け……。バエル、パイモン、ベレト、プルソン、アスモデウス、バラム」


 浅羅魔の召喚に応じ6人の悪魔が召喚された。

 しかし、それはどれも只の悪魔では無い。1人1人が国1つに匹敵する程の力を持つと言われる伝説の魔王なのだ。

 魔王と契約するには何万人者の人間の魂を捧げなければならない。

 それが6体ともなるとこの男は一体何十万人の命を奪ったのだ?


「ここまで化け物とは思わなかったな……伝説以上だ。しかも6体も悪魔を同時に使役できる人間なんて聞いた事が無いぞ」


 如月は戦慄した。格が違うなんて物ではない。次元が違う……。


「さぁ、行け王達よ。生贄を集めるのだ!」


 浅羅魔の言葉により6体の魔王が解き放たれた。

 魔王達は各々、生贄を求めて戦場を駆け巡る。

 その光景を見ていて蛍と如月は唖然とした。

 それはもうこの世の終わりを見ている様な気持ちになる物であったからだ。

 魔王達は敵味方問わず、圧倒的な力で人間と召喚獣を殺戮して行く。

 その場に居た人間はそれを見て皆、恐怖した。


「おわっ!? なんだこの揺れは!」

「まずいわね……結界が攻撃されているわ」

「なに!? 何故ここを狙う必要があんだ!!」

「分からないわ。でも、もうここも安全地帯では無いって事ね」

「……外に出るか?」

「えぇ。みんな外に居る様な気がするの……行きましょ」


 来瀬と碧川はシェルターをするりと抜け出して地上へ向かった。

 しかし、それはすぐに後悔する事になる。

 外はまさに地獄絵図であった。

 明らかに格の違う悪魔が数体、縦横無尽に暴れているのだ。


「なんだありゃあ……」

「敵も味方もあったもんじゃないわね」

「どうするよ?」

「………」


 碧川は何も答えれなかった。あまりにも状況が絶望的過ぎたからだ。

 この光景は人の心を折るには十分であった。

 一方、リリティアとアステロトは地下で激しい攻防戦を繰り広げていた。

 一進一退のその戦いは、まるで気が抜けない。


「さすがに、やるのう」

「ふふ、神獣様に褒めて頂けるとは光栄ですわね」


 アステロトは笑った。アステロトから見ても神獣とは特別な存在なのだろうか?

 だが、リリティアは違う意味でそれを言った。


「違う、お主を使役している召喚士の事じゃ。お主を使役していながらまだ地上で6体もの悪魔を呼び出しよってからに……世界を滅ぼすつもりか?」

「さぁ……私には関係の無い事ですので。それよりもそんな気を散らせていては足元をすくわれますよ」

「なに?」


 リリティアはアステロトの言っている事が一瞬理解出来なかった。


「リリティアー! 下だ!」

「ぬ!?」


 下から高圧のエネルギー砲がリリティアを目掛けて放たれた。


「ちぃっ!!」


 リリティアは気付かなかった。アステロトは空間の歪みを作り、そこから魔法を放てるのだ。

 しかし、紫藤のお陰でギリギリ回避する事に成功した。


「さすがです。今のを避けるとは……」

「お主、テレポートの魔法を使えるのか……」

「高位の悪魔なら当然の事ですわ」

「ふっ、さすがじゃなアステロトよ。お主の名はあちらの世界でも轟き知れておった」

「……それは昔の話ですわ。この私も今となっては主を守る只のシュバリエ……」

「そう、お主には仕える主が出来た。だから一線から立ち退いたのじゃろ?」


 リリティアが何を言っているのか俺には分からなかった。

 一体何の話をしているんだ?


「……なるほど。そこまで知って御出ででしたか」


 アステロトは笑った。だがその笑い方には何故か安心の色が見て取れる。


「貴方が召喚されて本当に良かった……。もしかしたらこれも何かの導きなのかもしれませんね。リリティア」


 アステロトはそう言うと俺を見て微笑んだ。


「何を言っているんだ? 二人とも」

「今は良い、紫藤。集中しろ! 今こそ『アレ』をやる時じゃ」

「『アレ』だと? まだ確実に成功できるか分からないぞ!」

「それでもやるしかあるまい。でなければ、死ぬだけだ」


 リリティアは何か知っているようだが、それはこの戦いに勝たなければ何の意味も無い。

 俺は雑念を取り払い集中した……。


「……我は、汝のアカシックレコードを覗く者也。かつて魔として生まれ落ち、精霊の加護によりて聖獣へと進化を遂げた者よ。汝は幾多の悪魔を滅ぼし6大天魔王からも怖れられし存在也。汝は神界を守りし守護者。今こそ、その封印されし聖なる力を解き放て!」


 封印解除の詠唱に応じてリリティア神秘的な輝きが満ちる姿を変えた。

 聖なる鎧に身を包みしその様はまるで天使の様である。


「ほう、素晴らしい輝きですね」

「かつての天使様もこの姿が恋しいのではないか?」

「ふふ……そうかもしれませんね。それでは決着を付けましょうか」

「安心せい、すぐに楽にしてやるわい」


 リリティアは光り輝く剣を出現させると、アステロトに向かって光の如くスピードで加速した。

 アステロトも高出力のエネルギー砲で迎え撃つが、リリティアから発せられる光のシールドを貫通する事が出来ない。


「これがリリティアの真の力……」


 リリティアはそのままアステロトを光の剣で貫くと剣を刺したままゆっくりと地面まで降りてきた。

 アステロトは血を吐いたまま、動かない。


「さすがじゃなアステロト。まだ余裕がありそうじゃが?」

「ふふ、もう私には動く程の力は残ってはいませんわ……消えるのも時間の問題でしょうね」

「そうか。紫藤、こちらへ来い」


 俺は黙ってリリティアの傍まで歩いた。


「お主も薄々感づいておるんじゃろ? 何かがおかしいと」

「あぁ。だが分からない。俺の記憶と今のアステロトはまるで違うんだ。上手く説明できないが……」

「その答えはアステロトの中にある」

「アステロトに? それは一体――」

「時間が無い。紫藤よ、良いからアステロトの額に手を当てて目を閉じろ」

「……分かった」


 俺は言われるがままにアステロトの額に手を当てた。

 その時、何故か無性に懐かしい気持ちが俺の胸の中でざわめいた。


「良いか? 今から、二人の精神をリンクさせる。タイムリミットはそうありはせんからのう。急ぐんじゃぞ」


 リリティアの言葉が遠くなって行く様な感覚に襲われた。

 まるで全身麻酔を打たれた様に世界が真っ暗になると、いつの間にか目の前にアステロトが立っていた。 

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