20話「我其の悪魔と対峙する者也」
「なぁ、碧川……俺達、本当にこのままで良いのか?」
「どうしたの? 気持ち悪いわね」
「なんだと!?」
「冗談よ……。でも私達に出来る事なんて無いんじゃないのかしら」
「だがよぉ……」
相次ぐべリアスの襲撃事件により、ファルシオンの本部がある召喚士養成機関にも危険が及ぶと判断した理事長は生徒達に避難勧告を発令していた。
しかし、来瀬と碧川は紅が居ない事に気付き、こうして斎藤先生の所へ報告に来ていたのだ。
「困った物だね~……。紅さんまで居なくなるとは」
恐らく、彼女は二人を巻き込まない為に1人で行ってしまったのだろう。
テレビから聞こえてくるニュースは、もう夜中の22時を過ぎているのにまだ緊急速報が流れている。
「しかしべリアスの連中は何を考えてやがんだ? これじゃまるで戦争じゃねぇか」
今日1日だけで7箇所のファルシオンの研究所が襲撃され、負傷した召喚士の数も数百人に上ると報道していた。
「これで、必要な物は良しと。さて、我々も非難しようか」
斎藤先生は非難する準備を終えると、二人を連れて避難所へ向かった。
「二人とも良いかい? 何があってもかならず避難所から出てはいけないよ。結界の外は戦場になるかもしれないからね」
「分かってらぁ。俺もこんな所で死にたかねぇよ」
「同感ね」
斎藤先生達は魔法で保護された地下シェルターに辿り着くと辺りを見渡した。
「すげぇ数だな」
「生徒だけではなく、近隣の住民も収容しているからね。それじゃ先生は仕事があるから大人しく待機しているんだよ」
斎藤先生はそれだけ言うと、どこかへと行ってしまった。
「蛍、大丈夫かしら」
「心配ねぇよ。紅もこの2ヶ月間で見違える程強くなりやがった」
「そうね。まさか私が負ける程、強くなるとは思わなかったわ」
「まぁ、碧川も十分強いと思うけどな」
「……来瀬君は相変わらず弱いわよね」
「うっせぇ! それでもあいつの穴を埋めれるくらいには強くなったつもりだぜ俺は」
来瀬も足を引っ張らない様に努力はしていた。
1人居なくなった3人チームの穴を埋めるにはこれまで以上に連携と力が必要だったからだ。
「………」
「無視かよ!?」
運命の時は刻々と近づいて行く。
べリアスの作戦開始時刻まで後3時間を切っていた。
「シルバとフェンリル。お前達には施設の破壊工作を行ってもらう」
「父上。我々は戦闘要員では無いのですか?」
「当り前だ。可愛い愛娘を出来るだけ危険な所へは行かせたくないのだ……分かってくれ」
「……了解しました」
「本隊はファルシオンの残党戦力を撃退後、浅羅魔を叩く。お前達は施設破壊後は速やかに脱出しろ。良いな」
「あの~、蛍はどうなるんでしょうか?」
「ん? あの嬢ちゃんか。嬢ちゃんはべリアスの構成員でも無いし巻き込むわけには行かねぇ。だから食事に睡眠薬を盛っておいた。しばらくは起きてこないだろうよ」
「そうですか……。ご配慮ありがとうございます」
「なぁに、辛気臭せぇ顔をしなさんな。全て上手く行くさ」
べリアスの頭である如月甲采は俺達を元気付ける様に肩を叩くと作戦指揮を執る為に部屋から出て行った。
しかし如月先輩は何か不満がある様な浮かない顔をしている。
「如月先輩大丈夫ですか?」
「ん? あぁ……大丈夫だ。必ず生きて帰ろう」
やはり戦闘員で無い事に不満を抱いているのだろうか?
確かに如月先輩の実力ならかなりの戦力になるが……。
「あ、こんな所にいた!」
「蛍か、休んで無くて良いのか?」
「大丈夫よ! 私だって伊達に鍛えてませんから」
あれ、さっき睡眠薬を盛ったって言ってた様な……。
「蛍、ちゃんと食事は取ったのか?」
「え? あの薬みたいな臭いがする食べ物の事? あれなら捨てちゃったわよ」
「なに!? お前の嗅覚は犬並みか!?」
「何言ってるの銀志。それくらい警戒して当然だと思うけど?」
「ふっ、紫藤君。もう何を言っても付いてくると思うぞ?」
「で、でも!」
「大丈夫。私を信じて!」
蛍は俺の両手を握ると俺の目を見て言った。
「私もあれから頑張ってランクアップ試験で総合成績S判定を取ったの! 足手まといにはならないと思うわ」
「ほう、S判定か……分かった」
「如月先輩!?」
「後ろでコソコソ付いて来られる方が返って危険だ。それならば一緒に行動した方が良い。それにS判定は理事長に認められた者にしか与えられない評価だ。問題無かろう」
「決まりですね!」
「はぁ……どうなっても知りませんからね……」
こうして3人でファルシオン本部の研究施設を破壊する事になった俺達は移送用トラックに乗ってファルシオンの本部近くまで移動する事になった。
「作戦開始時刻まであと10分。二人とも準備は良いな?」
「はい!」
「もちろんです!」
トラックは作戦開始時刻と同着で指定の位置に止まると、俺達はコンテナ移送用トラックから飛び出して走りだした。
「まず本隊が陽動して内部から敵を引っ張り出す。我々はその隙を突いて内部に突入するぞ!」
「「了解!」」
そして最後の作戦が始まった。
始まりの合図の如く激しい爆発音と共に赤い火柱がファルシオン本部を襲う。
それに伴い、施設の警報音が敷地内に響き渡った。
「敵襲!! 戦闘員は速やかに召喚獣を展開後、各個撃破に当たれ!」
ファルシオンの召喚獣達とべリアスの悪魔達が大空を舞って戦っている姿が遠目から見えた。
その光景はまるで神話に出てくる一つの絵の様だ。
「よし、頃合いだな……行くぞ!」
如月先輩の合図と共に俺達は内部へ突入した。
予想通り、内部の警備兵達は全て外に出払っており、中には人の居る気配がなかった。
「紫藤君、前に使った地下エレベータを覚えているか?」
「はい! あそこから行くんですね」
「あぁ、面倒だがエレベータを破壊して直接下に降りるぞ」
俺達は急いでエレベータまでの道を駆け抜けた。外では激しい爆発音が至る所から聞こえている。
「見えた! ……待て!」
俺はエレベータからある気配を感じて蛍を制止させた。
「中に誰か居るな……」
エレベータを警戒しながら近づくと、突然ピコーンという音と共にエレベータの扉が開いた。
「お前は……」
エレベータの中に居たのは、文化祭の時に現れたバガフの使徒であった。
『お待ちしておりました。どうぞ、お乗りください』
「銀志……あれは何なの?」
「大丈夫だ。敵では無い」
俺達は素直にエレベータに乗りこむと、バガフの使徒は地下に降りるパスワードを入力した。
「前回もだったが何故、お前は地下に降りるパスワードを知っているんだ?」
『私は貴方達を導く存在。それ以下でも以上でもありません』
「なんだと? 君はまさか……」
『おっと、着きましたよ。気を付けて下さいね。何やらこの先からは嫌な気配がします』
「分かった」
俺達はそれだけ言うと、暗い通路を走り抜けて行った。
確かに前方からは嫌な気配を感じる。この気配は……。
そのまま道なりに進み、この前来た研究ラボを抜けると、明るい照明に照らされた連絡橋に辿り着いた。
下を見ると化け物が入った大量の培養カプセルが配備されているのが見える。
「何なのこれ!?」
「凄い量だな……」
「これが全て殺人兵器だと思うとゾッとしますね」
一体何千人の人間が犠牲になったのか? こんな狂った事はもう終わりにしなければならない。
「……!? 全員避けろ!」
「うぉっ!?」
「きゃあ!?」
突如、前方から高出力の青いエネルギー砲が放たれ前方の連絡橋を切り裂いた。
これは、強力な電撃魔法だ。
「はぁ……やはり貴方は来てしまったのですね」
上空を見上げると一人の悪魔が待ち構えていた。
「アステロト……。今日こそお前との因縁に決着を付ける!」
「おい、紫藤君! 我々の目的を忘れていないだろうな?」
「分かってますよ。俺がアステロトを食い止めてる間に2人は施設を破壊してください!」
「それは駄目だ。それなら3人で戦った方が得策だ」
「何人で来ようと無駄です。大人しく退いてはくれませんか?」
アステロトはこの3人を前にしても余裕の表情を浮かべている。
だが、この程度の挑発では俺の心は乱れない。
「いえ、この前みたいな遅れは取りません。それにここに侵入したのは既にバレていると思いますよ? 急がないと俺達の目的さえ遂行できなくなる」
「如月先輩、私も銀志を信じるわ!」
「分かった……紫藤君。死ぬなよ」
「了解です」
そう言うと二人はエアリアルで向こう岸に向かって跳躍した。
「そう簡単にここを通すとでも?」
アステロトは二人に向けて詠唱を開始する。
「魔と聖の狭間から生まれし神界の守護者よ、汝、魂の契約によりていまこそ我が刃となれ! 神獣リリティア!!」
2段階目に到達したリリティアはアステロトの詠唱を止める為に殴り掛かった。
「はぁぁあ!!」
「くっ! 速い!?」
アステロトは思わず詠唱を中止して回避行動を取った。
リリティアはすかさず鉄砕棍を取り出すと二人の方へ行かせない様に立ちはだかった。
「2か月前の俺達だと思わない方が良いぜ」
「止む負えませんね……」
アステロトは観念すると、二人を諦めてこちらに向き直った。
「13年前からずっとこの時を待っていた……アステロト!!」
紫藤&リリティアとアステロトとの激しい戦いが今始まろうとしていた。




