19話「我最後の日を迎えし者也」
「皆ご苦労であった! 今回の作戦はこちらも多大な犠牲を払った……だが、犠牲になった同志達のお陰でとうとう作戦は最終段階へと移行する事が出来る!!」
べリアスの頭である如月甲采は前に立つとべリアスのレジスタンス達と共に最後の作戦会議を始めた。
「我々の作戦により、生物兵器を開発している施設及び、ファルシオンの召喚士を無力化する事で奴等の戦力を大幅に削る事に成功した。残るは浅羅魔の管理下にあるファルシオン本部を叩くだけである!」
テロリストの邪教徒集団べリアス。表向きはそう言われているが実際は違った。
マスメディアによって偽りの情報を民衆達に植え付けていたファルシオンは、極秘裏で人間を使った非人道的な研究をしており、それを戦争に使おうと考えていた。
べリアスはそんなファルシオンの愚行を止める為に結成されたレジスタンスなのである。
そして、いま俺はコードネーム『シルバ』としてレジスタンスに参加していた。
「ねぇ、銀志。これで本当に戦争を回避できるの?」
「……分からない。だが俺達がやらなければどの道、戦争は起こるだろう」
ファルシオンの召喚士養成機関の理事長である浅羅魔は他国に対抗する為の戦力を整え戦争を企てていた。
何故、彼がそんな狂気に走ったのかはまだ分かってはいないが、戦争だけは絶対に回避しなければならない。
「紫藤君、紅君をここに連れてきて良かったのか? ここから先は命の保証は出来ないぞ」
「えぇ、あのままファルシオンに居ても戦闘に巻き込まれる可能性もありますし、このまま後方支援で居た方が安全かと」
「ふむ、そうか……ならばこれ以上は何も言うまい」
コードネーム『フェンリル』の名で呼ばれている如月先輩はそう言うと、壁にもたれたまま目を閉じた。
「銀志! なんで私が後方支援なの? 私も一緒に行くわ!」
「駄目だ。危険すぎる」
「そもそもなんで、銀志が前線に出る必要があるの? まだ子供なのに……」
「あいつが居たんだ……」
「え?」
「俺は、貧困街でべリアスに扮して子供達を攫っていたファルシオンの人間を追跡し、ある施設へと辿り着いた」
「いきなり何を……?」
「そこで見たんだ。13年前、一つの街を壊滅させた悪魔の姿を……」
俺はあの日、子供を攫った奴を追跡してファルシオンの地下にある人体実験施設へと辿り着いた。
そこでは攫ってきた子供達を、無理やり魔法陣の上に連れて行き、禁呪の悪魔召喚を用いた憑依召喚を行っていた。
憑依召喚とは、その身体に悪魔を憑依させる事だ。
しかしそれには大きなリスクがあった。
強力な力を持つ悪魔を人間の身体に憑依なんかさせれば、身体は崩壊してやがては死に至る。
そこで学者達は考えた。悪魔を憑依させた子供達の身体を悪魔から耐えれる様に肉体改造すれば良いのではないか?
そうして出来たのが、あの異形の生物だ。
そしてその方法を確立し、指揮していたのが、忘れもしないワインレッドの様な瞳に黒い翼を背中に携えているアステロトであった。
俺は怒りに我を忘れアステロトに奇襲を仕掛けたが、歴然とした力の差を見せつけられ捕まりそうになった。
「まったく……あそこで私が助けに来なければどうなっていたか分からんな」
「えぇ、あの時はもう駄目かと思いました」
アステロトは無表情のまま、俺の首を掴まえて捕らえると物惜しそうに俺を眺めていた。
その冷たい冷え切った眼差しで見られると体中から冷や汗が流れ落ちるのを感じた。
アークデーモンというのは下級の悪魔とはまた違った独特の雰囲気があるのだが、それは恐怖の一言でしか言い表せない程の迫力があった。
そして俺はその時、死を覚悟した……。
しかし、そこに如月先輩率いるべリアスのレジスタンス達が助けに来てくれたお陰で何とか脱出する事が出来たのだ。
それからファルシオンに指名手配された俺は今日までべリアスのレジスタンスとして行動していた。
「そう……じゃあ、銀志が追いかけている悪魔がそこに居るのね?」
「あぁ、俺はどうしてもあいつと決着を付けなければならない。この2ヶ月間で俺も成長した。今なら勝てるかもしれない」
「紫藤君の成長力には恐れ入ったよ、まるで底がしれない」
「いえ、如月先輩にはまだまだ……」
「ふっ、近い内に私も追い越して行きそうだがね」
どこまで本心で言っているのか分からないが、本気を出した如月先輩の実力は凄まじかった。
更に如月先輩の父親である如月元に至っては、別格の強さだと聞いている。
「作戦開始時刻は夜更けの2:00だ! 各自、時計の時間をしっかりと合わせておけ! 以上だ、解散!」
作戦会議が終わり、俺達は束の間の休息に就いた。
1月1日……運命の日まであと少し。
この戦いの先に待っているのは天国か地獄か、それはまだ誰にも分からない。




