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モダンカリキュレーション 白の詠召喚術士  作者: 笹草 熊猫
4章 真実を追い求める者達
16/26

15話「汝隠されし秘密の在処也」

「良い感じだ、紫藤。そのままの状態を維持しろ!」


 文化祭が終わったあの日から、早1週間が経っていた。

 メモに書かれた住所は図書室のパソコンで調べた結果、電車で3時間もあれば行ける距離にある事は調べ済みだ。

 後は土日に外泊申請さえ出しておけば、問題無くそこまでは辿り着ける。

 

「軸がぶれ始めているぞ。しっかりせんか!」


 一番の問題は、如月先輩だ。あの感じだと一緒について来ようとするだろうな……。

 裏門からこっそり早朝に抜け出すか?


「銀志! 落ちる~!」

「……紫藤君、集中しないと……」


 いや~……しかし自室の前を見張られていたら?

 そうなると部屋の窓からこっそりと抜け出した方が良いのだろうか?


「こら~! 紫藤!!」

「え!? おわっ!!」


 俺は体勢を崩してその場に転げ落ちた。


「もう銀志~!」

「……またハレンチな事でも考えていたのかしら?」

「すまん。少し考え事をしてた」

「まだまだ集中力が足りないな、紫藤」

「あぁ、悪い。次は成功させる」


 俺は起き上ると、エアリアルを詠唱してその場に浮きあがった。

 エアリアルとは、風の力を使って素早く動いたり、飛び上がったりする時に使う魔法だ。

 しかし、今はリリティアの指導の下、その場で浮遊状態を維持できる様に特訓していた。

 その場に浮遊し続けるには、風の対流を繊細にコントロールしなくてはならない。

 これは、実際に飛んだりするよりも力加減が難しく、特に魔力の出力が強い俺には苦手な部類の魔法であった。


「お主に必要なのは繊細なコントロール技術と集中力じゃ。これが出来なければ、私も次の段階に進めぬ」


 俺は、アステロトとの戦いに備えて次の段階に進む為の修行をしていた。

 第二段階に進むには、大量の魔力を一定量以上、常に維持して送り続けなければならないそうだ。

 しかし、戦闘中の俺の魔力は集中力に欠いて安定しない為、いつまで経っても第一段階から進歩していなかった。


「よし、安定してきたのう。そのまま魔力を増幅させるんじゃ」


 俺は風の対流に魔力を徐々に送り込み強化して行く。


「そしたら自分が出せる70%の魔力を常に集中して放出するんじゃ!」


 風は強風へと変わり、まるでそこにヘリコプターでも飛んでいるのではないだろうかと錯覚させる程の音と風を巻き起こす。


「凄い風……!」


 蛍達は目に砂が入らないように手で塞いでいる。

 人間が自分で一気に放出できる魔力には限界がある。

 全ての魔力が一瞬で体外に放り出されればそれは生命力を失うのと同じ事だ。

 だから、人間には本来、魔力を放出し過ぎないようにリミッターによってブレーキを掛けられている。

 リリティアが言う自分で出せる70%と言うのは無理なく維持し続けられるギリギリのラインなのだろう。

 

「よし! そこまで!」


 リリティアの終了の合図に合わせ、俺は風を収めて地面に降り立った。

 息が酷く乱れており、体中からは大量の汗が流れている。

 今の能力だと、例え二段階目に到達しても長時間の維持は難しいだろう……。


「後もう少しと言った所じゃろうな。今日はここまでしておこうかのう」


 そう言うと、リリティアはサモナーデバイスへと戻って行った。

 相変わらず見ているのはアニメばかりだったが、最近は朝ドラにも嵌っているらしい。


「お疲れ様、銀志」


 何時ものお約束の様に蛍はタオルを投げかけてくれた。

 俺は礼を言って汗を拭くと、ある事に気付いた。

 今日は心なしか、蛍のペチャパイの胸が大きく見える……気がする。

 俺の視線に気づいたのか、蛍は誇らしげに胸を強調して見せた。


「ほ、蛍!? お前一体どうしたんだ! もしかして何かの病気なのか!?」

「違うわよ!」

「……蛍ちゃん、それ新しいパッドね」

「玲ちゃん、分かる? 気になって買っちゃった」


 二人はいつの間にか下の名前で呼び合う程、親しい関係になっていた。

 おそらく文化祭のエクストリームなんとかで意気投合したのだろう。

 俺も、来瀬とは前より良い関係になれた様な気がする。

 まぁ、俺が思っているだけかもしれないが。


「ねぇ、銀志? 今週の土日空いてる?」

「ん、土日? あ~……今週は用事があるから俺は無理だわ」

「え~、チームのみんなでどこか遊びに行こうかって話してたのに~……」

「……全くタイミングの悪い男ね」

「うぐっ……というか来瀬も来ないんじゃないのか?」

「え? 来瀬君も行くって言ってたよ?」

「あの来瀬がか? 珍しい事もあるもんだな」

「仕方がないわね、蛍ちゃん。私達3人だけで行きましょ」

「そうだね、銀志は大事な用事があるみたいだし……」


 二人の視線が痛々しかったが止む負えない。今はこのメモ優先だ。

 それからは毎日の特訓を欠かさずに、授業を淡々とこなして土曜日が来るのを待った。

 そして今、時計は外出許可が下りる8時を指している。


「はい、気を付けていってらっしゃいね」


 門番の警護をしているお姉さんに外泊許可書を出すと、俺は辺りに警戒しながら速やかに最寄りの駅へと向かった。

 今の所、如月先輩に付けられている気配は無い。

 俺の考えすぎだったのだろうか?

 今も寮内で俺からの連絡を静かに待っているのだとしたら何か後ろめたい気分になった。

 だが、危険な事に巻き込むよりはマシだろう。

 これ以上、誰かが俺のせいで犠牲になるのは御免だ。

 俺は、電車の切符を買うとすぐに電車に乗り込んだ。

 間もなく電車の扉はプシューという音を立てながら閉まり景色が走り始めた。


「ふぅー……」


 俺は適当に空いている席に座り、窓から見える景色を眺めていた。


「……隣、良いですか?」

「あ、はい。良いですよ」


 隣から女性の声が聞こえたが適当に返事を返して、また外の景色に視線を戻した。

 しかし窓から反射して見える女性の姿は……確かに女性の声だったのだが、見た感じは男の子の様な服装をしている。

 帽子を深く被って顔は良く見えないが、服装は青いジーパンに赤いTシャツ。上には青くて薄いジャケットを羽織っていた。


「その窓から何か見えますの?」


 その口調と服装に違和感を感じる女性は突然、俺に話しかけてきた。

 

「いや、特に何もすることが無いので景色を……」

「それじゃ私とお話しませんか?」

「え?」


 俺は思わず振り返えると、度肝を抜かれてしまった。


「き、如月先輩!?」

「は~い、紫藤君。私を置いてどこへ行こうと言うのかな?」


 とても素敵な笑顔なのに、背中から冷や汗が流れる程その笑顔は怖かった。


「なんで、ここに居るんですか!?」

「紫藤君。図書室のパソコンで住所を調べただろう?」

「え? あぁ、まぁ」

「甘いな、紫藤君。パソコンには履歴が残るのだよ」


 俺はその時、自分が検索した後の履歴を消さなかった事を後悔していた。


「でも、その格好はどうしたんですか?」

「あぁ、これか? この方が動きやすいと思ってな」

「な、なるほど……」


 結局、俺は観念して如月先輩と共に例の場所へと向かう事になった。


「ここが例の住所なのか?」

「えぇ、随分古臭いアパートですが」

「そうだな……」


 昭和時代に建てられた古い木造の建造物は壁がすっかり変色しており、その様子がこの建物の年季を感じさせていた。


「106号室……」

 

 メモに書かれていた106号室は外から見る限りでは、誰かが生活している様な気配がまるで無かった。

 俺は、とりあえずインターフォンを押して中に人が居ないか伺う事にした。


「…………」


 何も反応が無かったのでもう一度、駄目元でインターフォンを押した。


「…………」

「ふむ、誰も居ないようだね」

「そうみたいですね。誰か住んでいる様な気配も無いですし……」

「しかしだな紫藤君。このアパート何か変な感じがしないか?」

「そうですね……。何か見られている様な」


 一つや二つでは無い、色々な所から視線の様な物を感じていた。

 しかもこの気配は人間の物ではない。


「ふむ……もしや?」

 

 如月先輩は106号室のドアノブに手を掛けると鍵が掛かっておらず、扉は苦も無く開いた。


「鍵は掛かっていないな。入ってみるか?」


 勝手に入ったら不法侵入で訴えられるかもしれないと思ったが、この先に何があるのか知りたいという欲求には勝てなかった。


「そうですね。行きましょう」


 俺は先導して中へと入ると玄関には蜘蛛の巣が張っており、床は所々穴が空いていた。


「酷い有様だな」

「まるで廃墟ですね」


 今にも崩れるのでは無いかと思うほど、ギシギシと軋む床を歩いて、一通り部屋を見回したが、はこれと言って特別変わった部屋は無かった。

 だが、ある部屋だけ不自然な跡が付いている事に俺達は気がついた。


「紫藤君、この跡、何だと思う?」

「これは何かの跡を隠す為のカモフラージュじゃないですかね? もしかしたらこの部屋の何処かに……」


 ある寝室の畳部屋なのだが、明らかに埃の積もり方が可笑しい位置が1か所だけあった。


「別に怪しい置物は何も無いな……となると?」

「この下が怪しそうですね」

 

 畳を外して調べると、予想通りそこには地下に繋がる階段の様な物があった。


「鬼が出るか蛇が出るか……」

「準備は良いですか?」

「あぁ、いつでも大丈夫だ」


 俺達は懐中電灯を手に持つと警戒しながら地下へと降りて行った。

 謎の視線に隠し通路。この先に一体何があると言うのだろうか?

 ジメジメとしたヒンヤリする地下独特の空気は、俺の身体を強張らせた。

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