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11話「汝我に問いし者也」

「ぐっ! 速い!?」

「遅い! 目で見ようとするな! 魔力の動きを追え!」


 俺とリリティアは毎日、飽きもせず特訓に精を出していた。

 リリティアが言うには、今の俺の能力では半分もリリティアの力を引き出せていないという事だった。

 その証拠にリリティアが幼い少女の姿を取っていると言うのが、俺の現在のステータスを具現化した様な物なのだそうだ。

 つまり、俺の能力が上がれば、リリティアの姿もそれに応じて変わると言う事なのだろうか?


「集中しろ! 魔力が乱れているぞ!」


 しかし、リリティアの動きは俺から見ても恐ろしく洗練されていて、まるで隙が無い。

 何よりも何か策を講じても目の動きだけで、次の行動を予測出来てしまう戦闘経験値の差が俺とリリティアでは圧倒的に違うのだ。

 何本か組み手をした後、リリティアはアニメを見る為にサモナーデバイスへと引き籠った。


「銀志、お疲れ様!」


 そう言うと蛍は汗を拭くタオルを手渡してくれた。

 時が経つのは早い物で夏休みも今日で最終日だ。


「結局、あれからどこにも遊びに行けなかったね~……」

「仕方がないだろ、いつどこでまたべリアスに襲われるか分からないからな」


 あのべリアスの事件以来、俺達はファルシオン内でずっと過ごしていた。

 何せ、ファルシオン内のセキュリティーは完璧だ。

 べリアスの邪教徒が侵入しよう物ならすぐに警備兵に見つかって取り押さえられるだろう。

 しかし、帰ってからすぐ調べたかった情報については、理事長が留守にしていた為、聞けずじまいであった。

 孤児院に残っていた旧友は皆、独立して元気にやっているらしいが、プライバシー保護の為、今どこで何をしているのかまでは分からない。

 唯一、召喚士としての才能があった俺はこうやって援助金で召喚士養成機関に通っているが、まさか蛍とこうやってすぐ再開するとは思ってもいなかった。


「あっ、来瀬君が居るよ!」

「……チィッ」


 来瀬はこちらを見る也、舌打ちをしてさっさと歩いていた。

 前回のランクアップ試験で、来瀬はB判定だったらしいが、俺が実技試験でS判定を取ったのが余程、気に入らなかったらしい。

 まぁ、俺の総合成績はE判定と相変わらず低いのだが……。


「来瀬君、相変わらず愛想が無いね」

「まぁ、いつもの事だな」


 来瀬赤羽。見た目は不良みたいで言葉遣いも悪いが、授業態度は良く、筆記試験も満点だった。

 陰ながら、努力もしているようでA判定まで後一歩の所だったそうだ。

 家系も召喚士の家系という訳ではなく、召喚士としては珍しく貧困街出身の男だった。

 貧困街とは、召喚士の才能も無く、仕事にも恵まれなかった貧しい者が住まう区域だ。

 満足な食べ物にも有り付けず、不衛生な面から流行病で簡単に命を落としてしまう程過酷な環境下と聞いている。

 なので、貧困街から召喚士の才能が現れると、人は鳶から鷹が生まれたと喜び称えた。

 だからなのだろう、家族の為に何が何でも資格を手に入れなければならない来瀬からすれば、国の税金で生活を保護されてノウノウト生きている落ちこぼれの俺が許せないのだ。

 しかし、同じチームとして今の関係のままはあまり良いとは言えない。

 何か、きっかけでもあれば良いのだが……。

 そして、そんな考えに耽っている間に最後の夏休みは終わりを告げた。


「はい! みんな久しぶり~! 元気だったかな? 僕は勿論、元気だったよ!」


 聞いても居ないのに斎藤先生は元気アピール全開だった。

 ファルシオンも2学期に入り、新しい授業の科目などが増えている事に気付いた。

 特にその中でも4人1チームで行う森林フィールドでのサバイバルゲームは思っていた以上に苛酷な訓練であった。

 何故なら、俺達のチームはA判定が二人にB判定が1人に実技試験でS判定を取った俺だ。

 明らかに他のチームと比べてもパワーバランスが崩れていた。

 そうなると、他のチームから狙われるのは必然……気が付けば他のチーム全員から攻撃されている状況に陥いっていた。


「来瀬! 1人で突っ込むと孤立するぞ!」

「うるせぇ! 落ちこぼれは黙ってろ!」


 碧川は何故か、最近大人しく指示を聞くようになったが、相変わらず、来瀬は単独で動こうとするのでそのサポートが大変だった。


「なっ!?」

「危ない来瀬君!」


 ファブニールがクロノアジールを庇って敵の攻撃をまともに受けてしまい致命傷を負ってしまった。

 周りには視認出来るだけでも8体の召喚獣が居る。


「碧川! 来瀬を援護してやってくれ! 俺が4体相手にする!」

「……分かったわ」


 碧川のヒュビリードは最初に見た頃よりかなり大きくなっており、グリフォンの名に相応しい立派な姿に成長していた。

 今の、碧川と来瀬なら4体相手でも何とかなるだろう。


「ちぃ! 紫藤か! 戦闘陣形を組んで追いつめるぞ!」


 敵のリーダ格が、他の3人に指示を出すと前衛にオーガとベアウルフが出てきた。後方にはフェアリーとハーピが待機している。

 このチームはみんなB判定と平均的にも高い能力を有しているが、更に役割分担がしっかりされておりチームでの連携戦闘は高評価を受けている。

 

「リリティア! やれるか?」

「誰に向かって言っておる? それよりもしっかりと集中するのじゃな」


 リリティアは鉄砕棍を持つと、前衛のオーガとベアウルフに突っ込んだ。

 奴等の役割はそれぞれ、敵を食い止めるタフなオーガと急所を狙って攻撃してくるベアウルフ。そして後方からの詠唱魔法によるメインアタッカーのフェアリーと相手の動きを阻害するハーピーだ。


 「まずは奴の動きを止めろ!」


 ハーピーは両翼の翼から痺れ効果のある羽をリリティアに向けて突き飛ばす。

 だが、それは勿論リリティアには当たらない。リリティアは素早い動きで攻撃を避けるとオーガを射程距離に捕らえた。


「荒ぶる光の閃光よ、全てを貫きつくせ!ホーリレイ!」


 フェアリーから放たれる光のレーザーがリリティアを目掛けて追跡してくる。リリティアはオーガへの攻撃を中断して、鉄砕棍で光の弾道を弾いて行く。


「もらった!」


 ホーリレイを対処する隙を付いて、ベアウルフの鋭い爪がリリティアの首元を掻き切った、様に思えたが姿勢を低くして攻撃を避けると鉄砕棍でベアウルフを頭を殴り飛ばした。

 リリティア本人は軽そうに振り回しているが、本人曰くあの鉄砕棍は相当重いらしい。こちらの世界で言うと1t相当の質量を誇るのだとか……人間だったら一撃であの世だろう。

 ベアウルフは物凄い勢いで何本かの大木を薙ぎ倒すと森林の中へと消えて行った。


「一撃……だと?」


 相手チームの生徒は困惑している。実際に見るのと噂で聞くのとでは全く違うのと一緒で、リリティアの力を再分析している最中なのだろう。


「ならば、力で抑え込んでやる!」


 オーガはリリティアに掴みかかる。オーガと言えば召喚獣の中でも屈指の力持ちの種族である。

 常識で考えれば力では敵わないだろう。だが相手はリリティアだ。


「なにっ!?」


 リリティアは巨大なオーガの腕を片手で掴むと、赤子の手を捻る様に持ち上げた。


「重心の取り方がなっとらんのう」


 あれは果たして重心の問題なのだろうか……? 

 リリティアは持ち上げたオーガをハーピーに目掛けて剛速球で投げるとハーピーを撃ち落とした。


「で、まだやるのかのう?」

「ちぃ! 戦略撤退だ! 退くぞ!」


 相手チームはフェアリーと共に撤退して行った。

 ここで全滅するよりも、他の弱っているチームを倒してポイントを稼いだ方が良いと思ったのだろう。

 撤退していくチームを見送った俺は碧川達の方に戻ると、あちらもちょうど決着した様だった。


「……紫藤君、無事そうね」

「まぁ、なんとかな」


 来瀬は相変わらず不機嫌そうな顔をしていたが、クロノアジールも無事そうであった。

 全員の安否を確認していると周りの放送機から訓練終了のサイレンが流れた。


「ちぃっ! 終わりか。これからだってのによ」

「……来瀬君はもっと周りに合わせて動かないと駄目よ」

「あぁん!? 俺が力不足だって言いてぇのか!?」

「そうは言ってない。ただ、チームで行動してるのに1人だけ勝手に動かれたら困るだろう?」

「けっ! ちょっと成績が良くなったからって調子に乗りやがって」


 来瀬はそう言い捨てると、先に訓練場を出て行った。

 

「素直じゃ無いんだから」

「それよりも蛍、ファブニールは大丈夫なのか?」

「うん、ファブニールの鱗は頑丈だからね!」

「そ、そうゆう問題なのか」

「……竜は生命の回復も早いからあの程度ならすぐ回復するわ」

「そうか。なら良いんだが」


 俺達はファブニールの話をしながら訓練場を後にした。

 そして、授業が終わった俺は理事長室の前に立っていた。


「失礼します」


 扉を2回ノックして、ドアノブを握ると鍵が掛かっている事に気が付いた。


「あれ? 不在?」

「おや、紫藤君。どうしたんですか?」

「あ、斎藤先生。理事長を知りませんか?」

「あ~、理事長はしばらく私用の事情で長期休暇を取っているが、何か用事でもあったのかい?」

「長期休暇? いつ帰ってくるとか分かりますか?」

「ん~、10月頃には復帰するんじゃないのかな?」

「2ヶ月後か……」

「急の用事なら連絡できるように手配するけど?」

「あ、いえ。それほどの要件では無いので、ありがとうございました」


 俺は斎藤先生に礼をすると、その場を離れた。

 俺を助けて孤児院まで連れてきてくれた理事長ならあの頃の事も覚えていると思ったのだが、そこまで急ぐ様な事でもないし帰ってきてからまた尋ねるとしよう。

 しかし、べリアスは何の為にテロ活動を繰り返しているのだろうか? 

 そんな興味を抱いた俺は図書館にあるパソコンから過去のべリアスに対するニュースを閲覧する事にした。


「う~ん、どれも一貫性が無いな……」

「む、何をしているんだい? 紫藤君」


 後ろを振り向くと如月先輩が立っていた。俺も図書館はよく利用する方だが、ここで如月先輩に会うのは初めてであった。


「あぁ、いえ。この前べリアスに襲われた時の事を思い出して、過去の事件を見ていたんです」

「ほう。奇遇だな。私もべリアスについて調べていたのだよ、紫藤君」

「え? 如月先輩もですか?」

「あぁ。彼らは一体、何の為にこのような行動をしているのか気になってな」

「……べリアスって一体何なんですかね?」

「ふむ、ネットやメディアはファルシオンの規制が掛かっていて、殆ど情報は得られなかった」


 如月先輩は考え込むように手を顔の方に持ってきた。


「ここに居るだけでは、正確な情報は得られぬかもしれないな」

「と、言うと?」

「ここは良くも悪くもファルシオンの管理下だからな。情報が改ざん、隠蔽されている可能性が無いとも限らん」

「何の為にそんな事を……?」

「そんなの決まっているだろう? 自分達にとって都合が悪いからだよ」

「都合が悪い……?」


 そういえばべリアスの男も同じ様な事を言っていた。


<……民衆なんて言う者は、偽りの情報に騙されて簡単にマインドコントロールされてしまうという事だ。そしてそれはお前も例外では無い>


 俺達は日々、溢れる情報の中で世の中を知っている様な気になっているが、実は何も知らないのかもしれない。

 だが、俺がやらなくては成らない事はただ一つ。

 世間がどうだこうだのは勝手にお偉いさんがやってくれるのでは無いか?

 この時はそう思っていた。

 いや、正確にはそうなれば良かったと思っていたのかもしれない。

 だが、これが大きな間違いになると気付くのはもっと先になってからであった。

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