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Märchen  作者: 高里 秋
2/2

Die 2.

 

 ―――――――様


 ん…。


 ―――――――お…ぃ様


 ん……?


「お兄様!起きて!」

「ん……。リヴィ?おはよう」

「おはようごさいます、お兄様……じゃなくて、起きてください!ウェルサスの“双子様”がお見になるそうなの!早く支度しないと」

「双子がここに!?」

「きゃあ!」


 身を乗り出して僕を揺さぶっていたリヴィを押しのけて飛び起きたせいで、危うくリヴィをベットの下に落としそうになった。落下寸前でなんとかリヴィを受け止めて僕の隣に腰掛けさせる。

 ついでに“双子様”とは、あの、第3王子と第2王女のことだ。


 って、ちょっと待て。

 双子がここに来るだと!?

 そんなことが……。


「父様は!」

「え」

「父様はなんて!?」

「ふ、『双子様がもうこちらに向かっているのなら門前払いはできないから、失礼のない程度でもてなせ』とおっしゃってたわ」


 僕の勢いに呆気に取られてもなんとか伝言を伝えようとするリヴィかわ……じゃなくて!

 と言うことは、必要最低限のもてなしで追っ払えってことか。


 これからのことに考え込んで黙ってしまった僕に、リヴィが顔色を窺いながらおずおずと紙切れを差し出した。


「お兄様、実は、お父様からこれも預かっているのだけれど…」

「父様から?なに?」


 リヴィが父様から託されたのは、ふたつ折りの、走り書きされたメモ用紙のような紙だった。

 開いてみるとそこには、人名と地名が並んでいるだけだった。


 つまり、最低限のもてなしをしてここに逃げろということか。

 事態は僕が考えていたよりも余程切迫しているらしい。早くしないと。


「リヴィ」

「はい」


 視線を手元からあげると、表情を硬くしたリヴィと目が合った。

 僕自身が相当余裕のない顔をしていたらしい。妹にこんな顔をさせて、情けない。

 気を落ち着けて一度だけ大きく息を吸い、努めて明るい声を出す。


「リヴィ、大丈夫。いいかい、これから僕の言うことをよく聞いて?」


 彼女の手を握って顔を覗き込めば、すこし顔の強張りが解れた。

 これなら大丈夫。


「いいかい、リヴィ。僕たちはこれから双子様を出迎える。しばらくは接待しなければいけないけど、絶対に、どんな時も僕の傍を離れないで。わかった?」

「はい」

「よし。次に、2人は多分今夜はここに泊まっていく。僕らはその間にここを出る」

「え、でも」

「大丈夫、後のことは父様が何とかして下さるから」

「でも、逃げるってどこに……」

「父様の下さったメモに行き先が書いてある。隙を窺って父様のところの詳細を聞きに行くから、その時もきちんと付いてくるんだよ」

「はい」

「で、双子様を出迎えるまでの間に必要最低限の荷物を纏めておいて?いいかい。本当に必要なモノだけだからね」

「はい」


 愛しの妹が頷くのを確認して、その柔らかな髪をひと撫でしてから立ち上がる。


「さぁ、そうと決まれば早速準備だ。今日は忙しくなるぞ」

「はい!」


 僕が笑顔を向けると彼女も笑ってくれた。 

 意気込むリヴィの手を取って立ち上がらせ、ドアへと向かう。

 部屋を出ても不安を隠しきれていない彼女にもう一度頭を撫でてやって、笑顔を零して立ち去る後姿を見送った。


 彼女の笑顔は僕のものだ。

 他の誰にも渡さないし、そのためにどんなモノからも彼女を守る。


 冷えて正常に回転してきた頭で、今日一日のシナリオを組み立てるべく部屋に戻った。


 取り敢えず、服を着替えよう。





 父様からも釘を刺されたことだし、スーツとまではいかなくてもきちんとしたジャケットを羽織ってそれなりに整えておく。

 ここを離れる準備も一通り終えてリヴィの様子を見に行こうと部屋を出るとすぐにメイド長が双子様の到着を告げに来た。


 意外と速かったな。


「分かった、今行く」


 出来ればもう少し時間があればよかったんだけど、来てしまったからには仕方がない。

 メイド長曰くリヴィや両親の元にも知らせが行っていて、僕はリヴィと一緒にエントランスで2人を出迎える役目を父様に託されたらしい。

 双子様は門扉を通過したところだから、エントランスまであと5分と言うところか。


 時間がないから少し早足で向かうと、不安そうな顔をしたリヴィが先に着いていた。

 無理はない。僕は両親に話を聞いていたからある程度の覚悟は出来ているけれど、リヴィにとっては昨日の今日の話だ。これで落ち着いていた方がどうかしている。


「リヴィ、大丈夫だから落ち着いて?僕が話しをするから、君は僕の後ろで笑ってくれればそれでいい。出来るね?」

「はい……」

「リヴィ?僕が君に嘘を吐いたことがあったかい?僕が大丈夫と言うんだから、大丈夫。ね?」

「はい、お兄様」


 つい昨日からリヴィには嘘を吐きっぱなしだけど、僕の言葉でリヴィの表情が明るくなるんだったらそれでいい。


「君の可愛い顔をよく見せて?君には笑顔がよく似合うよ。そうしてリヴィが笑っていてくれればそれだけで僕は何でも出来るさ。……さぁ、双子様の到着だ。リヴィ、行こう」

「はい!お兄様」


 僕は愛しい我が妹の手を取って、光の溢れる扉に飛び込んだ。


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ありがとうございます!遅筆ですが頑張ります!

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