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Märchen  作者: 高里 秋
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Anfang

冬童話2013参加作品「ユーリスとリヴィアンの物語」の初期設定です。

世界がもう一つあったら、という寛大な心で読んで頂けると嬉しいです。

 もう夜も冷え込み始める季節。

 小さな火を暖炉に燈して読書をしていると、部屋の外からパタパタと可愛らしい足音が聞こえてきた。


 ━━━バタン


 予想通りの人物の登場に、思わず頬が緩むのを抑えてそちらを見やる。


「お兄様、大変なの!」

「どうしたんだい、リヴィ。大きな音を立てるのはあまり感心しないよ?」


 部屋に駆け込んできた3つ歳の離れた妹が、顔を真っ赤に染めて肩で息をして詰め寄ってくる。


「行儀どころの騒ぎじゃないの!大変なのよ!さっき父様と母様のお話を聞いてしまったのだけれど、この家がなくなって、私たちは売られてしまうそうなの!どうしよう、早く逃げないと!お兄様、急いで!」


 両親の話を盗み聞きでもしてきたのだろう。随分と想像力の豊かな勘違いに、つい、リヴィの頭を撫でてしまう。


「リヴィ、少し落ち着きなさい。その話は僕も聞いたけど、心配はいらないよ。家は無くならないし、僕らもどこにも売られない。ただ、確かにしばらくの間、この家から出ることにはなるけど……」

「……え?お兄様、それ、どういうこと?」

「だから、聞き間違いだよ。この家は僕らのおじい様が若いころに建てたものだから、老朽化進んで建付けも悪くなっているから、誰かが怪我を知る前に、隠居なされたおじい様の許可を得て、新しい家に作り替えることになったんだ。で、その間に今ここに居る家族や使用人をどうしようって話を、中途半端にお前が聞いてきたんじゃないのか?」

「あ~……。そうだった、かしら?」


 図星を刺されて居心地悪そうに逸らされた視線に、彼女の将来を心配してしまうのは兄としては致し方ないと思う。


「リヴィ…。お前はもう少し落ち着きをもって行動しないといけないな」

「……ごめんなさい」


 しゅんと俯きつつも、こちらの機嫌を窺うように視線だけあげるものだから、可愛らしくて仕方がない。

 そんな態度で謝られたらどんなことでも許してしまう兄心を理解した上での行動だとは思いたくないな。まったく。


「それで?あわてんぼうのリヴィは一体どこに逃げるつもりだったのかな?」

「ん~。とりあえずは、やっぱりヒースのところかしら」

「ヒース、ねぇ…。」


 ヒースは僕らの幼馴染で、リヴィの1つ年上の侯爵子息だ。

 たしかに緊急時に助けを求める相手としては申し分ないが、それは公爵子息としての立場からの意見であって、個人的には頼りたくない。

 そもそも、リヴィのなかで一番にヒースの名前が出てくること自体が気に食わない。が、そんな僕の葛藤なんて露とも知らないリヴィは僕の隣に陣取って身体を寄せてくる。

 真剣な面持ちで若干眉を寄せて、声を潜めて囁く言葉がこれなのだから、本当に将来が心配になってくる。


「それはそうとお兄様、結局はしばらくの間ここには居られないのでしょう?私たち、離れ離れになってしまうのかしら……」


 そのあまりの可愛らし過ぎる心配に、不自然でない程度に微笑んで、内心の動揺を隠すように少し小芝居を利かせてみる。


「大丈夫。僕から父さまと母様に頼んでおくよ。どうか2人を引き裂かないでって」

「ふふ。それではまるで悲劇の王子様とお姫様みたい」

「それはいいね。それでは一曲、お願いできますか、お姫様?」


 すっと立ち上がって隣に座る愛しの妹に手を差し出す。


「いやよ。私まだお兄様と踊れるほど上手くないもの。足を踏んで怪我をさせてしまうわ」

「リヴィは軽いから問題ないよ。……それとも、僕と踊るのは嫌かい?」

「違うの!でも、ん~……。ちょっとだけね」


 腰をかがめて視線を合わせ、小首をかしげると、躊躇いながらもおずおずと彼女の手が僕の手に重なった。

 彼女を立たせてから、僕は跪いて彼女の手の甲にキスを落とし、最後にもう一度、ダンスに誘う。


「一曲お願いできますか?お姫様」

「光栄ですわ。王子さま」


 僕らはクスクスと笑いながら、音楽も無い中、2人のテンポでワルツを舞った。







 ダンスを踊り疲れたリヴィが舟を漕ぎ出した頃合いを見計らって、彼女を部屋まで送り届けて自室に戻る。

 夜も更けて一層冷え込んできた。暖かなお湯で湯浴みを済ませ、そそくさと布団に包まる。


「それにしても………」


 リヴィに知られてしまった。


 実のところ、リヴィの言っていた事は強ち間違いじゃない。

 かといって、それに対する僕の台詞だって決して嘘ではないのだけれど。


 全てのことの始まりは、2か月前に遡る。







 今から2か月前の満月の夜。

 ここウェルサス王国の第3王子と第2王女の16歳の誕生パーティーが王城で催された。

 16歳の誕生日と社交界デビューのお祝いを兼ねての大々的なパーティーと言うことで、普段はあまり社交界に顔を出さない僕らも父の言いつけで参加することになってしまった。それでも公爵家の仕事と割り切って、綺麗に着飾ったリヴィを引き連れてパーティーに参加したところまではまだいい。


 一体何がいけなかったのか、なんと、第3王子はリヴィに、第2王女は僕に懸想してしまったらしい。


 それからというもの、王城で開かれるパーティーの招待状があとからあとから届けられるようになった。

 元々“甘やかされて育った双子の王子と王女”は巷でも噂の我が儘コンビで、ウェルサスで関わりたくない人物ベスト5に名を連ねている2人だったから、余計な心配を掛けないようにリヴィには内密に両親と今後の対策を検討していたのだが……。







 両親との話し合いでも、今回の件は双子の気まぐれだろうから、ほとぼりが冷めるまで何処かに身を隠す手はずになっていた。

 漆黒の瞳と髪が特徴のウェルサス民族の中で、金髪碧眼や薄茶の髪に銀の瞳のようなセリウス民族の色とりどりの容姿は珍しく、今までも何度か興味本位で言い寄られたことはあったから、今回も今まで通りの対応で当たれば問題はないだろう。


 残る問題はリヴィを連れ出す理由だったけど。


「屋敷の老朽化か。目につくところくらいは本当に直させないとな」


 後はどこに、いつ、誰と行くか。

 それだけ決めて、さっさと逃げよう。


 自分の体温で暖まった布団を深くかぶって目を閉じた。


基本装備がシスコン、ブラコンです(笑)

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