第四話
「隠形系の魔法具を使用していたのだが、よくわかったな」
言葉とともに声をかけた先に唐突に盗賊らしき二人の姿が現れる。二人とも艶のない黒い革鎧を着て、手には片手剣を構えている。
「あんたらが噂の誘拐犯の一味かね?」
ユートは特に武器を構える様子も見せずに軽い調子で尋ねている。
「まあ、概ね間違ってはいないな。見たところそちらはまともに戦えそうなのは赤い派手な兄ちゃんだけっぽいが、どうするね? 足手まといをそんなに抱えて、俺たちの相手をできるのかい?」
盗賊のうち大柄な方が、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら話しかけてくる。ユートの背後ではリシア以外の生徒たちが不安そうにしており、セラが魔法杖を構え万が一に備えている。
「悪いことは言わねえ、降伏したらどうだ? 命だけは助けてやるぞ」
「盗賊のクセにお優しいことだが……」
ユートは言葉の途中で唐突に何もない空間を左手で薙ぎ払った。その手にはいつの間にか小振りのナイフが握られており、その刃は血に濡れていた。
「がぁっ!」
ユートがナイフを振った辺りに先の二人と同様、唐突に武器を持った男が出現し、自らの首を押さえ地面を転げ回っている。その首は切り裂かれ一目で致命傷であることがわかる。
「……どうせ三人目が姿を隠したまま襲うための時間稼ぎでしかないんだろう?」
「てめえ、さっきといい今といいどうやって隠形を見破った」
盗賊たちは仲間がやられたのを見て、それまでの余裕のあった様子を一変させている。
「おいおい、手品の種っていうのは明かさないものだぜ」
ユートは相変わらずへらへらと人を食った雰囲気を漂わせながら、右手に魔法具らしきメダルを持ち、盗賊たちによく見えるように掲げながら魔力を流していく。盗賊たちは正体不明の魔法具にすぐに対応できるよう目を離さず身構える。
「さっきの話になるがこの程度の数の不利なんてものは、ちょっとした工夫で補えるものさ」
右手のメダルを指で頭上辺りの高さまで弾き上げ、今度は遮光眼鏡に魔力を流し一瞬で視界モードを切り替える。メダルから手を離したことで盗賊たちがユートに襲いかかってこようとした途端、頭上のメダルが目を開けていられないほどの閃光を放つ。
「くそ、小細工を!」
盗賊たちは片手を顔の前にかざし光を遮ろうとするが、既に目に直接閃光を受けているためうまく視界を保てず戸惑っている。ユートは盗賊たちの視界が回復する前にすばやく接近し、盗賊の一人の喉に左手に握っているナイフを刃元まで深々と突き刺す。そこまでしたところでメダルからの閃光の放出が止んだ。視界モードを切り替えた遮光眼鏡では閃光が止んだ状態では逆に視界を阻害するため、すぐに外して放り投げ、もう一人の大柄な盗賊へと接近していく。
「てめえ、よくも!」
残りの仲間が地面に崩れ落ちているのを見えづらい目で確認した盗賊は、正面から向かってくるユートに対して剣を振り下ろす。ユートは振り下ろされる剣へ、左の腕輪に魔力を流して発生させた障壁を腕ごと叩き付けて剣の軌道をずらし、半身となりながらさらに盗賊の懐に踏み込んで鳩尾に肘打ちを入れる。
「ぐっ……」
前のめりに崩れ落ちる盗賊の後頭部を右手で掴みながら右の腕輪に魔力を流し、魔法具による風槌の魔法の威力を上乗せした状態で地面へ向けて顔面を叩き付けた。盗賊の顔面が叩き付けられた土の地面は魔法の威力を上乗せされたためか軽く陥没している。
「あーまったく面倒くさい」
ユートは盗賊が完全に気絶したのを確認した後、遮光眼鏡を拾ってかけ直し、リシアたちがいる方へと歩きだしていった。
致命傷を与えた盗賊二人にとどめをさし、残る一人の拘束作業を終えてからユートはセラに話しかけた。
「生徒たちの方は問題ありませんでしたか?」
「ええ、人が死ぬところを初めて見た子が若干気分が優れなくなっている程度で特には問題ないですよ、ユートさん」
「そうですか。盗賊たちの懐を漁ってみたら、隠形の魔法具以外にも身体強化系や他数種類の魔法薬まで、随分と羽振りのいい盗賊団だ。そんなに儲かるものなんですかね誘拐っていうのは」
「そんな……」
セラが驚いていると横からリシアが文句を言ってきた。
「ひどいですよユートさん、あの光のせいで私たちまで目がちかちかして大変だったんですから」
「ごめんごめん、だけどあらかじめ言ったら敵にもばれてしまうし仕方なかったんだって」
むくれているリシアをなだめていると、ユートのコートの袖が軽く引っ張られた。
「ん?」
ユートが振り向くとそこには、短めの黒髪に青い目のどことなくセラに似た容貌の女子生徒が立っていた。
「これ……」
その女子生徒はユートが指で弾き飛ばしたメダル型の魔法具を差し出していた。
「ああ、拾ってきてくれたのかありがとう」
受け取ろうとするが、女子生徒はメダルから手を離す様子を見せない。
「……これ、あなたが作ったの?」
女子生徒は淡々と質問をしてきた。
「そうだけど」
「なんで触れていない時に魔法具の術式が発動したの? その腕輪も今まで見てきたものより随分と発動が早い……」
女子生徒は無表情にそのまま質問を続けてくる。しばらくそれを眺めていたユートだが女子生徒の額に手を伸ばし、そのまま軽くデコピンをした。
「……痛いです。いきなり何をするんですか」
女子生徒は額を両手で押さえて涙目で睨んでくる。
「そんなに色々聞きたいことがあるならまずは自己紹介からだ。俺の名前はユート。君の名前は?」
「……リシュです」
セラは妹のこの一連のやりとりを見て苦笑を浮かべている。
「一度にたくさん聞かれても答えられないから順番に。さて何が知りたい?」
ユートは知識欲旺盛そうなリシュにそう尋ねた。




