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異世界日和  作者: 九音
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第三話

 三日後、ユートは学園から北へ徒歩で半日ほどの距離にある野外実習場所の森の中を歩いていた。森には先ほど到着したばかりで、休む暇もなく森の中の開けた場所で野営の準備を行ない、そこから魔獣との野外戦闘経験を目的とした者や薬草等の色々な素材採集を目的とした者で、全部で五十名程の生徒たちを五名前後ずつで班分けをして、それぞれ引率の担当教師に連れられているところである。


「ユートさんがここにいるということは、お父様がまた過保護なことを言い出したのでしょうか」


 革製の軽鎧と腰に小剣を装備したリシアが幾分申し訳なさそうに尋ねてくる。採集班に参加しているとはいえ、危険がないわけではないため、最低限の武装をしているのである。


「そんな感じかね。まあ俺としては楽してお金が入ってくるお仕事なら問題ない。こっちの護衛の兄ちゃんがきちんと頑張ってくれるはずだしな」


 そう言いながらユートは、隣を歩く探索者と思われる男の肩を気安く叩く。


「ふざけるな。貴様も学院から仕事を請けた以上は真面目に護衛の仕事をしろ」


 男は短く刈り上げた髪にバンダナをし、金属性の胸当てに腕や脚の要所にも防具を装備し、背に両手剣を担いでいる。対するユートはいつもの赤いコート姿であり、いつもと違う部分といえば、目に遮光眼鏡をし、腰にメイスを装備をしているくらいであり、生徒たちよりも軽装に見える。ちなみに遮光眼鏡をかけると普段よりさらに輪をかけて軽薄そうに見えていたりする。


「まあまあ。顔合わせの場でも言ったと思うが俺は学院に雇われたわけではなくて、この子の親父さんに個人的な護衛として雇われただけなんでね。こっちの邪魔さえしなければ居ないものと考えてくれればいいから」


 ユートはリシアの金髪の頭をぽんぽんと叩きながら調子のいいことを言う。


「まったく学院も何を考えてこんな奴の同行を許したのか」


 探索者の男は納得はしていないが、雇い主の言うことだからと渋々了承した態度がありありと見える。そんなやりとりにリシアは気まずく感じ、おろおろとするばかりである。


「こっちは気にしなくていいから、きちんと勉強してきな。あっちで説明を始めるみたいだぞ」


 ユートが指をさした先では、引率の女性教師が生徒を呼び集めているところである。女性教師の周りにはリシアと同年代の男子生徒二人と女子生徒一人が集まっている。


「あ、それじゃあ私も行かないと。ユートさんまたあとでです」


「こっちはいいから勉強に集中しとけ」


 手をひらひらさせながらリシアを送り出す。


「さてとこっちはこっちで親交でも深めてみますかね?」


 ユートはからかう調子で探索者の男に話しかける。


「結構だ」


 その返事にユートは肩をすくめるだけで特に気にした様子はなく、リシアたちの方を眺めることにした。






 視界に入る範囲で生徒たちが散らばって採集を行なっている。少し離れたところでその様子を観察している女性教師にユートは話しかける。


「初めての採集、って感じで初々しいですねえ、先生」


「わたしの名前はセラといいます、リシアさんのお兄さん?」


 セラは生徒たちに採集の講義をしていたときとは雰囲気を変えて、いたずらっぽく微笑んで返してきた。年は二十歳前半くらいか、黒髪に青い目をしており、左胸辺りに学院の紋章が縫いこまれた白いローブを着て、手には魔法効果増幅用と思われる先端に大きめの青い結晶体を取り付けた魔法杖を持っている。


「前から誰かに聞こうと思っていたんですが、そのリシアちゃんの兄という誤った認識は、いったいどこまで広まっているんですかね? セラさん。それと俺の名前はユートです」


 ユートは黒髪をかきあげながら、困ったようにそう尋ねる。


「あら違うんですか? 学園でときどき見かけるあなた方二人は仲の良い兄妹のように見えますよ」


 セラが冗談っぽくそう続ける。


「あそこにいる黒髪の女の子はわたしの妹なのですけどいつもそっけなくて、あなた方が羨ましいです。仲が悪いというわけではないのですけど」


 セラはリシアがこちらを見てることに気づくと、ユートの腕に両腕を絡めてわざとらしくしなだれかかる。


「ほら、こうすると嫉妬して向かってくるところなんて、可愛らしいじゃないですか」


「先生なんですから生徒で遊ばないでください、セラさん。あとそういうところが妹さんがそっけない理由じゃないですか」


 こちらに走り寄ってくるリシアを見ながら呆れたように嘆息する。


「ユートさん、護衛のお仕事に来てるのになんでセラ先生を口説いているんですか!」


「リシアちゃん、今いいところなんでもう少しあっち行ってようか」


「リシアさん、大人同士の話の邪魔をしてはいけませんよ?」


 悪乗りしたユートとセラがリシアをからかい始める。


「セラ先生も実習中なんですからもっと真面目に……」


 リシアがセラに文句を言いかけたところで、少し離れた上空に魔法具による灰色の煙の尾をひいた信号弾が大きな音とともに上がる。盗賊団から襲撃があった際に、救援が必要な場合に打ち上げるよう取り決めしていたものだ。


「みんな非常事態よ。こちらにすぐ集まって」


 真剣な表情をしたセラが生徒たちに呼びかける。


「近くで襲われた班があるようだな。応援に行くぞ」


 周囲を見回っていた探索者の男が戻ってきて声をかけてきた。


「おいおい、俺は個人的な護衛だと何度も言っているだろう。行くならあんた一人で行きな」


「なんだと貴様」


 探索者の男はユートを睨みつけると舌打ちをし、信号弾の方へ向けて走り去っていった。


「まったく、こちらのお客さんに気づかないんじゃ居ても邪魔なだけだしな。いい加減ばれてるんだから出てきたらどうだい?」


 ユートは探索者の男が走り去ったのとは逆の方向に向けて、そう声をかけた。


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