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異世界日和  作者: 九音
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第二話

「どこのお使いクエストだ、これは」


 珍しく早朝からあちこち出歩いたかと思ったら、今度はアーレンから学院の野外実習の護衛に参加するための紹介状を渡され、ユートは学院への道をてくてくと歩いていた。

 学院の正式名称はアルカーク総合学院という。初代学院長であるアルカークが探索者を引退後、現役時代に貯めこんだ莫大な資産を注ぎ込み、有志を募り、創設したという話である。学院で学べることは基本的なことがほとんどであるが幅は広く、読み書き、算術、地理、歴史等の一般教養から魔獣を筆頭とした生物学、魔法学、薬学等、そして実践が主となる戦闘技術や野外活動技術といったものも学ぶことができる。入学資格は十歳から十五歳までの者であれば、簡単な試験のみで入学可能である。学費も多方面からの寄付金のおかげで学生の負担はそれほど大きくはない。とはいえ、それでも通えない層は存在する。また在学できる期間は三年間だけである。そのため、すべての学科を深く学ぶ余裕がある者は実質それほどいない。生徒が学びたいと思う学科を選択し集中して学ぶか、広く浅く学んでいくかは各自の裁量にまかされている。そして三年後の卒業時に各学科の修得具合を記録された書類を渡され卒業となる。卒業後にその書類が、学院が生徒の資質や力量をある程度保証した紹介状代わりとして機能し、各分野へと各々進んで行くこととなる。


「相変わらず学院の外周の壁は無駄に長いな。出入り口もっと増やせ、俺のために」


 ユートは学院に入学したことはないが、アーレンが所属している商業ギルドが多額の寄付金を出しているコネを使い、部外者にも関わらず図書館だけをたまに利用していたりする。


「前に勝手に抜け道を作ろうとしたら結界に感知されて怒られたしな」


 無駄に長い学院の壁であるが、かなり高度な複合結界術式が組み込まれ侵入者対策がされている。壁に一定以上の衝撃を加えたり、一定距離までの地下や上空をある程度の大きさのものが通過した場合、警備員が詰めている警備室に警報と感知した周辺の壁の映像が映し出される。次は気づかれないよう壁を壊すことがユートの最近の研究課題の一つである。


「ようやく校門が見えてきたか、さっさと用事を済ませるとしますかね」






「ふはははは、その程度かひよっこども! もう少しくらい手応えを感じさせてみたまえ!」


 練習場の中央で何やら絶好調な感じにユートが笑い声を上げている。周りには木製の剣や槍、棍を構えた生徒がいる。既に地面に倒れて動けない者の方が多いようだが、残る数名は腰も引けず、ユートに無言で武器を向けている。


「その意気やよし。さあ、全力でかかってきたまえ」


 対するユートは無手で相手をしている。しかも手加減しているのを分からせるためか右腕だけを使っている。生徒たちの攻撃をわざとイラっと来るような余裕の態度で避けていき、大きな隙を見せた生徒には掌底を叩き込む。そして相手の体に接触と同時、腕輪に魔力を流していく。掌底を叩き込まれた生徒は暴風にでも煽られたかのように錐揉みして真横に飛んでいくという冗談のような光景が繰り広げられている。

 ほどなくして生徒はすべて地に倒れていた。気絶はしていないが、立ち上がれるほどの回復もしていないようで、口々に何かを呻いている。


「今日こそはあの赤いコートをあいつの血で染め直そうと思ったのに」「マジむかつく、次こそは倒す」「貧乳の良さを理解しない者に死を」


「ははは、負け犬の遠吠えは耳に心地よいな!」


「なにをしてるんですかユートさん」


 勝利の余韻に浸っているところに、練習場に現れたリシアが近づいてくる。


「勝利の証にこの小娘はいただいていくぞ。さらばだ!」


 ユートは近づいてきたリシアを片腕で横抱きにすると、そのまま練習場から建物の中へ入って行った。






「おーい、そろそろ正気に戻ってくれリシアちゃん」


 横抱きにした途端、リシアは何故か硬直して大人しくなってしまったが、ここに来た目的である学院長室に案内してもらうため正気に戻ってもらおうと顔を覗き込んで声をかける。至近距離で声をかけられたリシアは、正気に戻った途端、慌てたようにユートの腕の中から抜け出した。


「い、いったい学院に来て何をしてるんですか!」


「たまに図書館に来たついでに遊んでやってるんだが今日も遊んで欲しそうに囲んできたから、ちょっと相手してやっただけだぞ?」


「どこがちょっとですか、全然そんなふうに見えませんでしたよ!」


「そんなことより、学院長室ってどこだっけ? 滅多にこっちの建物には入らないからどこだったか覚えてなくてな」


「……学院長にユートさんが何の用事なんですか?」


「君の親父さんに仕事を頼まれてね」


「どうせお仕事だとユートさんは内容を教えてくれないからいいです。こっちです」


 そう言うとリシアはユートの手を握って建物の中を進み始めた。


「さすがに手を引いて先導されるのは、お兄さん恥ずかしいなあ、と思うのだけどどうだろう」


「わたしは恥ずかしくありません。それにユートさんはすぐふらふらと寄り道するのでこれでいいんです」


 そう答えながらもリシアは顔をユートに見せないように前をずんずんと進んで行くのであった。






 学院長室の前でリシアと別れ、今は学院長と向かい合い座り心地のよいソファーに腰掛けている。


「先ほどの練習場でのこと、ここから見ておりましたわ」


 黒髪に白いものが混じり、老齢といってもいいだろう学院長は、ぴんと背筋を伸ばし、強い眼差しでこっちをしっかりと見据えて、練習場の一件を話題にしてきた。ユートはそれにわざとおどけて答える。


「いやあ、もう少しちゃんと鍛えないと。生徒だからまだまだ未熟なのは仕方ないとはいえ、十人がかりでこんな若造一人に一発も入れられないのはどうかと思いますよ?」


「複数の相手に好きなように攻撃をさせてあげながら一つも掠らせず、逆に致命的な隙だけに一撃を加える。なかなか出来ることではありませんわね。生徒もあれだけ分かりやすい一撃をもらえれば、自ずと自分の悪い点も理解できるでしょう」


 学院長はユートの態度を気にした様子は見せず、感心したようにユートの練習場での立ち回りを評価している。


「まったく、リシアの親父さんといい、あんたといい、やりにくいったらないな」


 ユートはコートのポケットからアーレンからの紹介状を取り出し、学院長に手渡す。そして学院長はそれを読み終えると嘆息する。


「またアーレンのワガママですか。あの子は娘のことになると本当に歯止めが利かないのですね。とはいえ今回の盗賊団は手強いという噂があるのも事実。ユートさんに来て頂けるのは心強いですわ。護衛に参加することは私から根回ししておきましょう」


「どうせなら、ここでつっぱねてくれると楽でいいんだがね」


 その言葉に学院長は、そんなことになるわけないでしょう、とばかりに微笑みを返した。


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