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宿9

私が、さっぱり分からないでいると、田中がそのことをサッシタのか、説明をしてくれた。

「宿の男がカウンターで眠っていたってことは、顔を下にして、うつむいてたんじゃない?」

カウンターで眠っていると分かる状態は、下を向きうつむいている状態という、田中なりのスイソクだろう。

「うん、そうだけど…」

「だったら、その男が眠っているとき、鈴木は、その男の顔をよく見てないんじゃない?」

言われてみれば、あまり気にして見た覚えはない。

「そうだね、見てなかったと思う。」

私がそう答えると、田中は納得したように話しだした。

「たぶん、眠っているときの男は、もとの宿の男とは、ちがう人だよ。」

ちがう人?どういうことだろうか?べつの人が宿のカウンターにいたということだろうか?私が分からないでいると、田中は説明を続けた。

「宿の男が、ちがうってことは、眠っている男がいる宿と、もとの男の宿もちがうってことだよ。」

「え…、宿がちがう?」

「そう、宿は2つあるんだよ。ループなんてしてないよ。鈴木は2つの宿を行ったり来たりしているだけなんだよ。」

宿が2つ…。そういえば、推理小説なんかではよくあるトリックだったと思う。ただ、まさかゲームの世界でもこのトリックを使ってくるとは思っていなかった。田中はさらに説明を続けた。

「1つ目の宿を見た後に、まったく同じ作りの2つ目の宿を見て、鈴木はループしてると思いこんでしまったんだよ。そして、たぶん2つ目の宿で泊まっているときに、どういう方法かは分からないけど、1つ目の宿に移動させられてると思う。移動方法は、ファンタジーの世界だから、魔法なんかの方法だと思うけど、間違ってたらごめんね。」

なるほど、たしかに私は、2つ目の宿を見て、すぐにループしてると思いこみ、その2つ目の宿に泊まってしまっていた。先に進めないはずである。最後に田中はこう言った。

「たぶん、1つ目、2つ目の宿を無視して、どんどん先に進んでいけば、いいと思うよ。1回それでためしてみて。もし、ちがってたらまた電話してくれる?」

田中もゲームのことが気になるのだろう。

「うん、分かった。ごめんね、ありがとう」

私はそう言って、電話を切った。本当に田中にたよってばかりだ。このゲームをクリアしても、田中がクリアさせたと言ってもいいだろう。ただ、これでやっと先に進めそうだ。この宿に、かなりの時間いたような気がする。早くここから抜け出そう。私はゲームのコントローラーを手にとった。

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