第七話 正体不明
――同日・2017年6月14日夕方・フランス・パリ――
未確認機のパリ襲撃から20分後、WAP欧州陸軍、第117陸戦歩兵中隊が到着した。
そのころには上空の楕円形の未確認飛行物体は姿を消し、空には何もなかった。
そこに濃いグレーの四輪装甲輸送車が次々と来る。
《第117陸戦歩兵中隊よりHQ、指定座標に到着。これより未確認機の捜索に移る》
《HQ了解。小隊単位で行動せよ。尚未確認機には既に攻撃命令が出ている。生かして帰すな》
《了解》
中隊長は短く頷くと無線を切った。
『本部によると、国籍不明の機械兵器との情報だ。だが攻撃命令は既に出ている。躊躇わずに撃破しろ!』
『『了解ッ!』』
『第三、第四小隊はエリアB。第五、第六小隊はエリアCを捜索。第一、第二小隊は俺と一緒にエリアAだ。繰り返すが、発見次第撃破せよ。遠慮はいらん。以上!』
『『了解!!』』
威勢の良い返事の後、各小隊は別れてゆく。
「しかし隊長……これは酷い有様ですね……」
副隊長が言う。
街は血まみれの死体で埋め尽くされていた。
死体は切り裂かれ、車はあちこちで炎上し、ビルは真っ赤に燃えていた。
「街一帯が壊滅か……恐らく相当数の敵が潜んでいるだろう。警戒を怠るな――」
中隊長が言いかけた時、物音がした。
「フレアドル中尉!! 例の未確認機を発見! 数は……およそ20ッ!」
ある隊員が叫ぶ。
それは、まぎれもなくロボットとしか呼べない物体だった。
「威嚇射撃は不要だ! 撃てぇ!!」
全隊員が路上の輸送車を盾に身をかがめ、突撃銃を撃つ。
辺りに銃撃の音が鳴り響く。
《第117中隊接敵ッ! 撃破を試みる!》
フレアドル中尉は無線で報告をする。
その間も射撃を続けるが、敵は怯む様子が無い。
確実に当たってるはずだった。
だが容易に倒れることはなく、高くジャンプしながら迫ってきた。
「中尉! とび跳ねて、狙いが定まりません!!」
フレアドル中尉の隣の隊員が言った。
「なんという機動性だ! いかん!敵が――」
そして謎の”ロボット”はあっという間に装甲輸送車に接近し、隊員たちを狙う。
「来るなッ……うぎゃああぁぁ!!」
そして素早い動きで翻弄され、1人の隊員が斬られた。
腕が舞い、血が噴き出す。
その隊員に眼を奪われる一瞬で、腹を、腕を、足を、胸を、首を切られ、5人の人間の血が噴き出した。
一瞬にして状況は地獄と化した。
『駄目だ! 一旦後退する! 早く輸送車に乗り込め!!』
そう言っている間に、隣にいた副隊長の体が水平に真っ二つになった。
次は自分かと一瞬のうちに考えたが、そのロボットは別な隊員を襲った。
その事に一瞬安堵感を覚えたが、そんな暇はない。
フレアドル中尉他、生き残った何名かは輸送車に乗り込んだ。
あっと言う間に味方は壊滅寸前まで追い込まれたのだ。
「くそ、我々がこうも簡単に……! なんなのだあの化け物は……おい何してる! 早く車を……」
出せ、とフレアドル中尉は言おうとした。
だがそれは不可能だったのだ。
運転手は輸送車の装甲ごと体を突かれていた。
死んでいたのだから。
「ッ!?」
そのままロボットは輸送車の装甲を引裂き、車体を真っ二つにした。
「ば……かな……ッ! 重機関銃をものともしないこの装甲が……!」
フレアドル中尉は、もう絶望しか感じていなかった。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁッ!」
やがてその場にいたフレアドル中尉他数名はその”ロボット”に殺された。
だがその場からまだ一人生き残った者がいた。
「はぁ……はぁ……本部に……知らせないと……!!」
必死に走りながら無線を探し、本部に連絡を入れる。
《HQ! HQ!! 中隊は……自分1人を残して全滅!! すぐに応援頼む! この装備じゃ――うわッ! 来るなぁぁぁぁッ!!》
その隊員は、無線中に敵に発見された。
無線からは突撃銃の音が激しく鳴り響く。
《第三小隊応答しろ! なにがあった!?》
しかし本部の呼びかけもむなしく、
《だめだ! 効かないッ!? ぎゃぁぁぁぁ!!》
第117陸戦歩兵中隊は完全に全滅した。
――――
それから、第441陸戦歩兵中隊が派遣されるも全滅。
第88爆撃航空団の航空爆撃の後、後続の第17戦車連隊の砲撃と随伴歩兵の攻撃でかろうじて敵の殲滅に成功した。
――パリ壊滅の翌日・2017年6月15日昼・ウクライナ軍基地・演習場――
俺たち第四分隊は、他の分隊とともに、模擬戦闘訓練をやっていた。
基地の敷地内グラウンドの訓練用に作られた塹壕で、訓練用のペイント弾を用いての訓練だ。
だがそんな時、こんな放送が流れた。
《基地に待機中の全WAP戦闘部隊に通達。至急ブリーフィングルームまで集合せよ。繰り返す――》
なんだ……?
緊急招集?
「むぅ。仕方ない。模擬戦闘は中止だ。撤収!」
と石田軍曹が指示をした。
仕方ない。
「りょうかぁ~い……。あーあ、せっかくいいとこだったのにな~」
とあからさまに残念そうな顔をするのは勇希だ。
「なにがいいとこよ。楽しむためにやってんじゃないのよ?」
と春奈は勇希を叱る。
「分かってるって!」
「とても分かってるようには見えないんだけど……」
陽気過ぎる勇希を見て、げんなりする春奈。
「くそ……せっかく三連敗を脱出する機会だったのに、なんてこった」
第三分隊の浦田が頭を抱える。
演習の相手役は第三分隊だったのだ。
「ふふん、それはあれだな! 神はお前らの勝利を認めなかったという事だなっ!」
勇希は勝ち誇って浦田を見下す。
「つーか、そっち分隊の落ちこぼれって佐川だよな」
錦辺が波乱を呼びそうな発言をする。
「なっ、失礼な!!」
「まぁ確かに、あんたってコレと言って特徴が無いわよね」
春奈も便乗する。
「なぁぁッ! ひどい! 和真~、なんとか言ってくれよ!」
そこで何故俺に泣きつくのか分らんが昨日の『バンディード』の怨みもあるので助けてやらない。
「ん? まあいいだろ。お前には『分隊のお笑い担当』って役目があるしな」
ニッと笑って見せる。
「ひっでぇ~! 俺だって頑張ってるのに! だいたいこの前伏兵見抜いて助けてやったの誰だよ!」
「ってまたそれか!? いい加減しつこいぞ馬鹿の勇希!」
「その二つ名はやめろ!」
俺らが言い争うが、
「黒崎先輩、佐川先輩。手、止まってますよー?」
撤収作業をしながら、涼が苦笑いをして言った。
「はは、相変わらずあんただけはしっかりしてるわね……」
俺たちが言い争ってる間もくもくと撤収作業をする涼を見て春奈は言った。
「お前らいったい何の話をしているんだ。どうでもいいから、さっさと行くぞ!」
そんな無駄話をしていたら、石田軍曹の喝が飛んできた。
「おやおや、負け犬の遠吠えですか?」
そんな石田軍曹にむかつくくらいの笑顔でそう語りかけてきたのは、渡伍長。
演習の相手、第三分隊の隊長だ。
「渡~……誰が負け犬だ誰が……」
はぁぁ~、と石田軍曹は深いため息をした。
「はっはっは。今回は殆ど我々の勝ちみたいなものですから」
「ったく……どうでもいいから行くぞ!」
そんな感じで、俺達はブリーフィングルームへ向かう。
――本棟3階・ブリーフィングルーム――
「今回集まってもらったのは他でもない。早速だが状況を説明する」
淡々と語りだす柴田中尉。
その額には汗が流れていた。
心なしかいつもより焦っているようにも見える。
あのいつも飄々としてる柴田中尉を焦られるような事態……?
何かはわからないが、もしかしたらただ事じゃ済まない事かも知れない。
そして、いつになく真剣な声で、とんでもないことを言い出した。




