第十六話 実戦開始
――6月30日(三日後)夕方・WAP極東本部地下8階・仮想演習システム――
『黒崎ッ! 一時方向、近接型多数! やれるか!?』
石田軍曹の声が聞こえる。
「楽勝ですよ! 勇希行くぞッ!」
『り、了解ッ!』
残骸の盾を飛び出して、とにかく動きまくる!
『和真! 近接型の背後に砲撃型多数確認! まずいって! 狙われる!』
近接型が急速接近してくる中、背後の砲撃型も移動を始めた。
「ビビってんじゃねぇ! 連中がロックする前に仕留める!」
『ああもう……分かったッ!』
俺は突撃し、散弾砲の引き金を引く。
弾丸は至近距離で直撃し、拡散する前にその殆どが命中する。
近接型はバラバラになり、数mほど後方に吹き飛んで残骸の一部と化した。
撃破確認をした後、背後から切りかかる近接型2機が接近!
『うおおぉぉッ!』
そのうち1機は、勇希の榴弾砲の援護で爆破した。
俺も距離を取り、斬撃をかわした後、
「喰らえッ!」
散弾砲を背中に戻し、突撃銃を放つ!
「撃破! 砲撃型は!?」
『あそこ! やべぇ狙ってるッ!』
HMDに《被弾警報》の文字が光る。
「ちッ!」
咄嗟に民家を挟んで後方に退避。
目の前の民家にレーザー砲弾が直撃し破壊、炎上する。
『黒崎、残存は!?』
石田軍曹の声が聞こえる。
「砲撃型が六機! 仕留めます!」
俺は砲撃型に照準を合わせる。
『和真! 背後から近接型7!』
「ハメられた!? くそッ!」
近接型に突撃銃を放つ!
接近されたら厄介だ!
『和真! 援護するわ! 行きなさい!』
無線、と同時に春奈は突撃銃を連射する。
的確な射撃で2機が同時に無力化された。
「サンキュー! 後ろは任せたぜ!」
言いながら、俺は突撃銃を撃ちながら突撃する。
「うおおおぉぉぉぉッ!!」
接近しながら二機撃破!
その俺をレーザー砲弾が狙う!
「甘いぜッ!」
右ステップで砲弾をかわす同時に散弾砲を装備し、
「喰らいなッ!!」
引き金を引き二連射!
「勇希!」
『了解! このぉぉぉッ!』
勇希の榴弾砲で3機撃破。
砲撃型は全滅した。
「春奈! そっちは!」
『涼と軍曹のお陰で終わったわ』
《敵勢力全滅を確認。お疲れ様です》
春奈の声と、オペレーターの白石中尉の声が重なる。
視界が真っ暗になり、再び目を開けると、そこは現実世界のシュミレーターの中だった。
「和真……一人で突っ込みすぎ……こっちの身にもなってくれよぉ……」
情けなくつぶやく勇希。
「お前が遅いんだろ。言う割にはお前良く動けてんのにな。もったいない」
勇希は気が利くというか、援護が上手い。
そのため、いつも俺の背中を任せているのだ。
せめてこのヘタレ具合が無くなるといいんだが……。
「確かに、お前はちょっと突っ込み癖があるな」
石田軍曹が言う。
「突っ込むのは突撃兵の十八番ですよ」
「前衛をしつつも足並みを揃えることを覚えろ。重要なのは連携だ。実戦モードの物量じゃ簡単に孤立するぞ」
管制室へ向かいながら、石田軍曹が助言をする。
「あっはっは。やっぱあんたらは突撃馬鹿ね!」
春奈が偉そうに見下す。
「和真と一緒にすんなよ!」
「それはこっちのセリフだ馬鹿の勇希!」
「その二つ名はやめろってば!!」
ふふふ、馬鹿の勇希、もう二つ名決定だな。
その流れで行くと俺は突撃馬鹿か……これはマズい。
春奈にも何か新しい二つ名をプレゼントしなければ。
「黒崎先輩……今すっごく下らない事考えてません?」
「……涼。人の頭の中を覗くのはプライバシーの侵害だぞ」
すぐ考えを読まれるのもどうにかしなければ……。
「……お疲れ様です。デルタ6のみなさん」
そんな事をやっているうちに、管制室へと辿り着いた。
「どうも、白石中尉。毎度毎度管制、助かってます」
白石中尉に対し石田軍曹が敬礼をする。
どうやら管制室の担当は白石中尉ともう一人、山崎中尉という人がいるらしいが、ここ数日間はすべて白石中尉に当たっていた。
「……これが個人行動パターン。こちらが戦闘推移マップです」
しかし、ホント機械音声みたいな声だな。
聞けば聞くほど抑揚の無い声だが、声の質自体は綺麗だよな。
石田軍曹の濁声と比較すれば尚更だ。
「ありがとうございます。それでは、我々はこれで――」
《――第三級防衛体制発令。繰り返す、第三級防衛体制発動。各戦闘部隊は指定したブリーフィングルームへ急行せよ!》
突如鳴り響くけたたましい緊急警報と共に、基地内自動アナウンスが再生された。
第三級防衛体制……!
SERFの襲撃だ!
「ボサっとするな! ブリーフィングへ急げッ!!」
「「了解ッ!!」」
俺たちは、ブリーフィングルームのある地下七階へ急行した。
――地下七階、第三ブリーフィングルーム――
ブリーフィングルームには中隊のメンバーと柴田中尉と副官たちがいた。
「早速状況を説明する。三時間程前、福島県相馬市から新潟県村上市を結んだ第二次防衛線圏内の福島県喜多方市付近 に、モール十機が出現した」
淡々と、とんでもないことを中尉は口走った。
今敵の勢力圏は北海道だぞ!?
それを一次防衛線すっ飛ばしていきなりそんなとこに出るなんて……。
それもモール十機と来たもんだ。
確か記録ではモールの最大積載機数は1000機のはずだから、最大で1万強か……。
「出てきた敵団は防衛線の戦力に奇襲。すぐに福島支部、新潟支部の部隊が敵に攻撃を開始するが、その時点で防衛線の戦力は六割方損耗していた」
おいおい……防衛線の戦力だって最新装備だったはずだよな……?
いくら奇襲だからって……何やってやがんだ、防衛線の戦力は!
「福島新潟支部が戦闘を開始し、敵の損耗が三割を切ると、敵は南下、栃木支部と群馬支部から部隊が出撃するが大した損害を与えられないまま一気に栃木県宇都宮市付近まで侵攻してきた」
――!?
なんだよそれ……。
「敵の侵攻は依然として続いており、このままでは関東絶対防衛線までの侵攻も時間の問題と思われる」
関東絶対防衛線は、茨城県水戸市と群馬県前橋を結んだ線だ。
「そこで、当極東本部からも防衛線死守のため、出撃する」
確かに……宇都宮から絶対防衛線までは30kmも無い。
というか、なんでそんなになるまで負けまくってんだよ……。
いやッ! 弱気になるな!
さっき仮想演習システムで戦ったばっかじゃねぇか!
「10分以内に完全装備の上、各輸送ヘリにて出撃! 以上だ! 解散!」
「「「了解!!」」」
自分を奮い立たせる為にも、俺はいつもより少し大きな声で了解し、出撃準備に入った。
そして10分後、俺たちを乗せたヘリはHMDでの通信でマップを合わせながら詳細ブリーフィングを済ませた後、大空へと旅立った。
――6月30日夜、兵員輸送ヘリ内・第六突撃小隊“デルタ6”――
小さな窓から見える外の景色は、すっかり暗くなっていた。
この辺の街並みは健在だが、夜景は無い。
兵士として徴兵可能な人間は、全員WAPに入隊し、老人や障害者そのほか何らかの理由で徴兵不可能な人間は、九州地方、中国地方、四国のあたりや国外に疎開した。
だから、この辺はもうゴーストタウン化している。
ここには、二個分隊……人数にして10人が座っている。
もちろん装甲服着用でだ。
余談だが、SERF来襲以来のWAP統合軍の大編成計画で、俺達第三陸戦歩兵中隊は通称『デルタ中隊』と呼ばれるようになり、その下の小隊……例えば俺達、第六突撃小隊は『デルタ6』と呼称される。
デルタ6の内訳は第三、第四分隊員で、小隊長は我らが石田軍曹。
人数は10人と少ないが、本土防衛線を乗り切った陸戦兵が多いので、問題は無い。
「しっかし、毎度毎度この輸送ヘリちゃんの乗り心地の悪さにはうんざりだぜ」
軽口を叩くのは第三分隊の浦田。
「全くだぜ。どうせ乗るなら、村山や草薙みてぇな若い娘に乗っかりたいよなぁ」
錦辺……このエロオヤジめ。
「アッハハ! あと20年若かったら考えてあげるんだけどな~」
「……瑞穂、このエロオヤジだけはやめた方がいいわよ。20年前でもきっとロクな男じゃないから」
春奈は村山の事を名前で呼ぶ。
「ってことは、浦田さん若いし、まだチャンスはありますね。よかったじゃないッスか」
涼はそう言って浦田を焚きつける。
「うおおおお村山俺だ! 結婚してくれ!」
こんなアホなプロポーズもねぇよな……。
この光景は、毎度毎度見るので俺たちはもう慣れていた。
「やーだよっ。恋人作るのは、戦争が終わってからって決めてるから~」
村山の対応も慣れたもんで、べーっと舌をかわいらしく出す。
「その頃にはおばさんになってるんじゃないか?」
「ふふ、黒崎君、後で背負い投げね」
自爆した。
「おぉ~怖ぇ。口は災いの元、だな」
さっきまでプロポーズしてたヤツのセリフとは思えんぞ浦田ぁ……。
コイツはホント軽い男だ。
出会い系なんてしてないで真面目な顔してりゃモテそうなもんだけどな。
「あはははは、今のは和真ちゃんが悪いよね~」
風間はとりあえず誰の事でもちゃん付けで呼ぶ変わったヤツだ。
「俺はホントの事言っただけだっつーの」
そんな軽口を交わしつつ、俺は初の新装備を用いての実戦に緊張していた。
きっとみんなもそうだろう。
だからこそこうして、与太話を飛ばしている。
戦うのが怖い、死ぬのが怖い。
そんな事は人間なら当たり前の事だ。
だが俺達WAP陸戦歩兵部隊は、それを口にしてはいけない。
その恐怖で押し潰されて仕舞わぬように、互いに気丈を振舞わなければいけないのだ。
「指定座標に到達ッ! 準備完了です! 石田軍曹!」
パイロットが告げる。
輸送ヘリは着陸し、後部ハッチが開く。
「良し! 久々の実戦だ、気を抜くなよ! 行くぞ!」
と石田軍曹が威勢良く言う。
同時に後部ハッチが開く。
外からは既に銃声や怒号が響き、戦場である事を示していた。
俺達は突撃銃を握り、後部ハッチからヘリを降りる。
降りた目前では、既に戦闘が始まっていた。
まあ元々始まっていた戦闘に援軍として介入するんだから当たり前か。
《第七大隊よりHQ! 指定座標に降下し、第66大隊と合流完了ッ! オーヴァー》
ヘルメット付属の無線機に、大隊長、須賀少佐と本部オペレーターの声が流れる。
広域回線は戦域一兵士に至るまで聞く事が出来る。
《こちらHQ、了解。予定より戦線が後退している。即座に戦闘開始せよ。オーヴァー》
《了解ッ!》
こうして、新装備を使った俺たちの初の実戦が始まった。
◆人物紹介◆
名前:黒崎和真
性別:男
年齢:26歳
階級:兵長
所属:第七混成大隊・第三陸戦歩兵中隊・第六突撃小隊・第四分隊
兵種:突撃兵(主武装:突撃銃、散弾砲)
容姿:黒髪を短く雑に切っている。無精ひげも多少。
一人称:俺
三人称:お前
趣味:ドライブ、旅行
詳細情報
基本的に明るく友好的ではあるが、多少面倒臭がりな性格。
人付き合いに関しては積極的な方ではないが、来るもの拒まず、と言った感じ。
なので同じ小隊以外だと基本的に知り合いは少ない。
テンションは常に低めなので、勇希との温度差が激しいが、二人の付き合いは長く、互いに親友と認めている。
好きな食堂メニューは日替わり定食。
本人いわく飽きないかららしい。
戦闘では常に小隊の先陣を切って突撃する斬り込み隊長的役割。
戦歴も長く、指揮能力もそこそこある為、第四分隊の副隊長を務める。
咄嗟の判断、機転、弾丸の命中率などが高く、小隊の中では活躍する方であり、その点は素直に認められ、頼りにされている。