プロローグ 燃え盛る記憶
「……さん……。お母、さん……」
ゴウゴウという音が絶え間なく耳元で叫んでいる。
熱い。あたりが、燃えている。
灼熱の炎に囲まれて、ひとりぼっちで私は歩いていた。
「お母さん……何処に、いるの……私は、此処にいるよ……」
つい昨日まで、此処には町があった。家が並んでいた。沢山の人々が暮らしていた。
その景色は、一晩にして焼け野原と化した。
「…………」
おぼつかない足取りで燃え盛る道路――だったものを歩く。
横に視線を向けると、崩れ落ちた家屋に押しつぶされた人々が呻き声を上げている。
幼い私に手を伸ばし助けを求める人々の声から耳を塞ぎ、ただひたすらに歩き続ける。
もう、此処が何処なのかも分からない。
あちこちが破れた衣服の合間から露出した肌には痛々しく火傷の跡が付いており、痛みが続いている。
「痛い……熱いよ……お母さん……」
誰にも届かない声で痛みを訴えながら、母親を探して歩き続ける。
誰かの声を聞き、一緒に家を飛び出して逃げていた母とは途中で逸れてしまった。
どうしようもない気持ちで何処かの暗い裏路地にへたり込み涙を流す。
歩き続けなければいけないということを頭で理解していても、熱い空気にさらされ続けた身体は限界をとうに超えていた。
「うぅ……お母さん……」
それからどれほどの時間そうしていたのかは分からない。
遠くから複数の飛行機が飛んでくる音が聞こえてきた。
――逃げなければ。
自らの命が脅かされていることを理解し、本能がそう囁く。
だが、足が動いてくれない。私の心はとっくに折れていた。立ち上がることができない。この状況を前に、幼い私はあまりにも無力だった。
飛行機の音が近づいてくる。私は何もできず、ただ顔を下げて訪れる死を受け入れた。――その時。
「巴……!!」
私を呼ぶ声が響いた。
ハッとして顔を上げると、母が私の名前を呼びながらこちらに走っていた。
「……!!お母さん!!」
母の姿を見て、絶望の中にいた私に一筋の光が差す。
立ち上がり母の方へ走り出そうとした――その時。
すぐ傍の焼け崩れた家屋が、私の頭上に降ってきた。
反射的にその場から離れようと足を動かす。
だが、慌てたために足が絡まって転倒した。地面に頭を強く打ち付ける。
「巴……!!」
顔を青くして落ちてくる瓦礫を見つめる私に、母が手を伸ばして――




