表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/57

確認

夜明け前の宿の一室。


部屋の中には、俺とクレア、そして――

シバ・クエスがいた。


壁際に立つシバは、腕を組み、静かにこちらを見下ろしている。

その視線は鋭いが、敵意はない。


シバが口を開いた。


「――まず聞かせてほしい」


低く落ち着いた声だった。


「昨夜、君は“何を見た”?」


問われているのは、間違いなく俺だ。


俺は少し考えてから、正直に答える。


「……文字、です」


「文字?」


シバの眉が、わずかに動いた。


俺は続ける。


「魔法を使う直前に……

 浮かび上がる、言葉みたいなものが見えました」


シバはすぐには返事をしなかった。

数秒、何かを計算するように沈黙する。


「……なるほど」


否定はされなかった。


その様子を見て、クレアが首を傾げる。


「もじ?」


子供らしい疑問の声。


シバはクレアの方を見ずに言った。


「今は気にしなくていい」


「またそれ!」


クレアが頬を膨らませる。


シバは軽く咳払いをして、再び俺に向き直った。


「これは、まだ仮説だ」


そう前置きしてから、説明を始める。


「この世界の魔法は、

 術者が脳内で組み上げた魔法式を、“世界式”に書き込むことで発動する」


シバは空中に指を走らせた。


淡い光が現れ、円状の式を描く。


「魔力とは、その書き込みに必要な対価だ」


俺は思わず聞き返した。


「……世界式って、なんですか?」


「この世界そのものに刻まれた基盤だと考えろ」


断定ではなく、あくまで説明口調。


「魔法の階級は知っているな?」


「詠唱の長さで決まる、ですよね」


俺が答えると、シバは頷いた。


「節が少ないほど書き込み量は少ない。

 初級、1種級、2種級……と増えていく」


空中の光の式が、少しずつ複雑になる。


「だが、本来」


シバの指が止まった。


「発動前の魔法式は、誰にも見えない」


「……え?」


俺の声が小さく漏れる。


「世界式の深層に沈む。

 術者自身でさえ、観測できない」


俺は無意識に拳を握っていた。


「……でも、俺は見えました」


「“見えていると感じている”」


シバは言い直す。


「だから、確かめたかった」


俺は顔を上げる。


「確かめる……?」


「君が特別かどうか、ではない」


シバの視線が鋭くなる。


「君の感覚が、どこに触れているのかを、だ」


ここでクレアが割り込んだ。


「ソラ、なんかすごいの?」


「今のところは、分からない」


シバが即答する。


「可能性がいくつかあるだけだ」


「……どんな可能性ですか?」


俺が尋ねる。


「ひとつは、異常な観測能力」


シバは指を一本立てた。


「もうひとつは――」


一拍、間を置く。


「世界式そのものと、何らかの形で“近い”位置にいる可能性だ」


俺は思わず言った。


「……リンク、みたいな?」


「似ているが、断定はできない」


きっぱりと否定される。


「もしそうなら、君は魔力を消費せずに魔法を“再生”できる」


クレアの声が弾む。


「それ、ずるい!」


「世界にとっては致命的だ」


シバが即座に切り捨てた。


「だが、まだ“そうだ”とは言えない」


再び、俺を見る。


「昨夜の発動は偶然かもしれない。

 あるいは、極めて限定的な条件下だけの現象か」


俺は、正直に答えた。


「……自分でも、よく分からないです」


「それでいい」


シバは小さく頷く。


「分からないまま進むのが、一番安全だ」


クレアが不満そうに言う。


「ソラばっかり難しい話!」


「君は君で、別の問題を抱えている」


シバが淡々と言った。


「王女としてな」


「……え?」


クレアが固まる。


俺も固まった。


「やっぱり、ですか……」


「隠し方が雑だ」


「ひどい!」


シバは背を向け、話を締めに入った。


「結論は出ていない」


扉に手をかける。


「だが――」


振り返り、俺を見る。


「君は“観測者”の側に近い」


「……観測者?」


「世界を見る者だ」


それ以上は説明しなかった。


「今は休め。

 確信が持てる材料は、まだ揃っていない」


そう言い残し、シバは部屋を出ていった。


静かになった部屋で、クレアが俺を見る。


「……ねえ、ソラ」


「なに?」


「よく分かんないけど」


少し笑って言った。


「普通じゃないのは、確かだよね」


「……否定はしない」


俺たちは小さく笑った。


けれど胸の奥では、違和感が消えなかった。


確信していない。

それでも、確かめに来た。


――それ自体が、異常だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ