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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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6/55

発動

意識が、ゆっくり戻ってくる。


最初に感じたのは、冷たい床の感触だった。


背中が痛い。

頭が、ぼんやりする。


「……ここ……」


声は小さく、かすれていた。


目を開けると、暗い部屋。

石造りの壁。天井に吊るされた魔法灯が、弱々しく光っている。


手足には、簡素な拘束具。

魔力封じではない。普通の鎖だ。


(……誘拐、されたんだ)


心臓が強く脈打つ。


その時。


「起きたか」


低い声。


視線を向けると、壁にもたれて立つ男がいた。

フードで顔は半分隠れている。


「……なんで、俺を」


問いかけると、男は少しだけ首を傾げた。


「本命はお前じゃない」


あっさり言われた。


「じゃあ……」


「昼間、王都の通りで」


男は淡々と続ける。


「王女に接触していたな」


胸が跳ねた。


(やっぱり……クレア)


「妙に近い距離で話していた」


「護衛もついていない王女と、見知らぬ子供」


「無関係とは思えなかった」


だから――


「念のため、まとめて確保した」


頭が冷えていく。


つまり俺は。


完全に、巻き添えだ。


「……クレアは?」


男は少し沈黙し、短く答えた。


「別の場所だ」


それだけで、十分だった。


(無事……なのか)


わからない。


だが、生きている可能性がある。


それだけで、胸の奥が少しだけ軽くなった。


「お前はどうするんだ」


「利用価値がなければ、記憶処理して返す」


淡々とした言葉。


ぞっとする。


「だが」


男は俺をじっと見る。


「王女と関わった以上、完全な無関係ではない」


「しばらくは、様子を見る」


扉の方へ歩きながら、振り返る。


「……運が悪かったな、坊主」


扉が閉まる。


ガチャリ。


重い音が、やけに大きく響いた。


俺は拘束されたまま、天井を見つめる。


(……クレア)


昼間の、あの不安そうな顔。


逃げるように走っていた背中。


(やっぱり、ただの女の子じゃなかった)


胸の奥に、嫌な予感が広がる。


そして同時に。


王都で感じた、あの違和感。


文字。

視線。

世界のズレ。


(……俺は、何に巻き込まれたんだ)


薄暗い部屋の中で、俺は鎖の感触を確かめながら、じっと耳を澄ませていた。


――足音。


遠く。


巡回だ。


(……今しかない)


拘束具は簡素だった。

ベッドの角に鎖を引っかけ、体重をかける。


ギギ……。


音を殺しながら、何度も力を込める。


――パキン。


金属が歪み、留め具が外れた。


(よし……!)


心臓がうるさいほど鳴る。


扉の前で一度深呼吸し、そっと押す。


……開いた。


廊下は薄暗く、左右に同じような扉が並んでいる。


(クレア……どこだ)


胸の奥の、あの“ざわつき”を頼りに、俺は直感的に左へ走った。


角を曲がった先。


小さな部屋。


半開きの扉の向こうで――


「……っ!」


いた。


クレアだった。


椅子に座らされ、手首を縛られている。


「クレア……!」


小さく呼ぶと、彼女が顔を上げる。


一瞬驚いたあと、すぐに首を振った。


「だめ……来ちゃ……!」


「今助ける!」


俺はロープをほどこうと手を伸ばす。


――その瞬間。


「そこまでだ」


背後から、低い声。


空気が一気に冷える。


振り返ると、フードの男が二人。


通路の出口を塞ぐように立っていた。


「やはり逃げたか」


「子供のくせに、面倒な真似を」


クレアが息を呑む。


「ソラ……!」


(……終わった)


そう思った瞬間。


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。


怖い。


逃げたい。


でも。


クレアが、すぐ後ろにいる。


(……守らないと)


その瞬間。


視界が、揺れた。


空間に、白い文字が“浮かんだ”。


今までより、はっきりと。


はっきりと――“読める”。


『ラムズ・フェローチ』


(……これ……)


昼間と同じ言葉。


でも今は、違った。


意味が、直接頭に流れ込んでくる。


(……雷)


(……解放)


考える前に、口が動いた。


「――ラムズ・フェローチ」


自分でも驚くほど、はっきりした声だった。


次の瞬間。


足元の床に、淡い光の魔法陣が浮かび上がる。


「なっ――!?」


男たちが後ずさる。


バチッ、と空気が弾けた。


白い稲妻が走り、部屋を横切る。


轟音。


閃光。


二人の男は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて動かなくなった。


静寂。


耳鳴りだけが残る。


俺は、その場に立ち尽くしていた。


「……え?」


手が、震えている。


自分が、何をしたのか。


理解できなかった。


クレアが、ゆっくり俺を見る。


目を見開いて。


「……ソラ……今の……」


「……わからない」


本当に、分からなかった。


ただ。


“出てきた言葉を読んだだけ”。


それだけだった。


だが。


俺の胸の奥は、嫌なほど熱くなっていた。


(……これ、やばい)


本能がそう告げていた。


「と、とにかく逃げよう!」


俺はクレアの手を取る。


二人で、走り出した。


まだ、この施設の中に――

もっと危険な“何か”がいる気配を、感じながら

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