街日
朝。
ソラはゆっくりと目を覚ました。
ぼんやりとしたまま上体を起こす。
そして窓の外を見る。
広がっていたのは――
見慣れない街の景色だった。
整った道。
並ぶ建物。
行き交う人々。
ソラは少しの間、その景色を眺めていた。
(……ここは)
ゆっくりと息を吐く。
(クレアレスじゃないんだな)
王都学園。
騎士団。
クレア、ユイ、ルカ、レオン。
思い浮かぶ顔。
だが、それらはもう遠い場所にある。
改めて実感する。
自分は――
クレアレスを出たのだと。
ソラはベッドから立ち上がり、部屋を出た。
廊下を歩く。
すると、奥の食卓から賑やかな声が聞こえてきた。
覗いてみると――
大きなテーブルに料理が並べられていた。
パン。
スープ。
卵料理。
色とりどりの皿が並んでいる。
それを運んでいるのは、子供たちだった。
「これ持ってくー!」
「落とすなよー!」
元気いっぱいに動き回っている。
そしてキッチンでは――
アイネが忙しそうに料理をしていた。
フライパンを動かしながら、次々と皿を作っていく。
ソラは少しその様子を眺めていた。
すると。
「おはよう!」
声がした。
振り向くとミナだった。
赤い髪を揺らしながら、元気よく笑っている。
「おはよう」
ソラも軽く返す。
その時。
キッチンからアイネの声が飛んだ。
「ソラ」
ソラを見る。
「起きたなら、早く手伝って」
完全に戦力として見られていた。
「……はい」
ソラは苦笑しながら皿を運び始めた。
しばらくして。
全員が席についた。
大きな食卓。
子供も大人も並んで座る。
そして。
「いただきます!」
元気な声が家の中に響く。
子供たちはすぐに食べ始めた。
「うまー!」
「今日のスープ好き!」
「パンもう一個!」
賑やかな声。
ソラもパンを一口食べてみる。
そして――
少し目を見開いた。
(……うまい)
想像以上だった。
素朴だが、しっかり味がある。
スープも温かく、体に染みる。
気づけば。
ソラは無言でパクパク食べていた。
その様子を見て。
アイネが小さく笑う。
「気に入った?」
ソラは頷いた。
「……かなり」
その答えに、アイネは少し満足そうだった。
食事が終わる。
「ごちそうさまでした!」
子供たちが元気よく言う。
片付けは他の大人たちが始めた。
アイネがソラを見る。
「じゃあ行くよ」
「どこに?」
「子供たち送る」
ミナが手を挙げる。
「幼稚園ー!」
別の子が言う。
「僕は小学校!」
どうやらこの街にも学校があるらしい。
そして。
アイネとソラは子供たちを連れて家を出た。
朝の街。
人の行き来が増えている。
歩いていると、子供たちが騒ぎ始めた。
「あ!ここパン屋!」
「このケーキ屋めっちゃうまいんだよ!」
「このお店のおじさん優しい!」
店を指差して、次々と紹介してくる。
ソラはその話を聞きながら歩く。
気づけば少し笑っていた。
昨日来たばかりの街。
だが。
この賑やかな朝の道を歩きながら――
ソラは思った。
(……悪くないな)
この街での生活も。
幼稚園に子供たちを送り届ける。
「いってきまーす!」
元気な声が響き、子供たちは建物の中へ走っていった。
ソラとアイネはそれを見送る。
「次」
アイネが言う。
「小学生」
少し歩くと、街の中心に近い場所へ出た。
そして――
目の前に現れた建物に、ソラは思わず足を止めた。
「……でかいな」
広い敷地。
高い校舎。
大きな正門。
街の他の建物よりも明らかに大きい。
子供たちは慣れた様子で正門をくぐっていく。
「いってきます!」
「またねー!」
そう言って校舎へ入っていった。
ソラとアイネは門の外に残る。
その時、アイネが口を開いた。
「ここは」
「聖ルッツ学園」
ソラはもう一度校舎を見る。
アイネは続ける。
「この街で唯一の教育機関」
「小等部、中等部、高等部の一貫校」
「街の子供たちは、みんなここに通う」
そして少し間を置く。
「私も」
「数年前まで高等部に在籍してた」
ソラは少し驚く。
「アイネも?」
アイネは軽く頷いた。
その時だった。
花壇の方で、水やりをしている老人がいた。
白髪。
穏やかな顔。
ジョウロで花に水を与えている。
ふと、その老人とアイネの目が合った。
老人は少し驚いたように目を細める。
そしてゆっくりこちらへ歩いてきた。
アイネが軽く頭を下げる。
「お久しぶりです」
老人は笑った。
「おお、アイネか」
優しい声だった。
そしてソラを見る。
「その子は?」
アイネが答える。
「新しい同居人」
ソラは一歩前に出る。
「ソラです」
軽く頭を下げた。
老人は穏やかな笑みを浮かべる。
「私は」
「この学園の学園長」
「ルッツ・マーセナスだ」
ソラはその名を聞き、少し姿勢を正した。
マーセナスはソラを見つめる。
そしてその瞬間。
ソラは気づいた。
(……魔力?)
確かに感じる。
この街には基本的に魔力がない。
だが――
この老人からは、わずかな魔力が流れていた。
ソラの表情の変化を見て、マーセナスはくすりと笑った。
「気づいたかな」
ソラは驚く。
マーセナスは言う。
「そう」
「私は魔力を持っている」
そして穏やかに続ける。
「もっとも」
「すべてはアバン様のおかげだが」
ソラの眉が動く。
マーセナスは花壇の花を見る。
「昔、アバン様が魔法を教えてくださった」
「この街を守るためにね」
少し誇らしげだった。
「私はその教えを受けた一人」
「そして今は」
校舎を見上げる。
「この学園で、子供たちに知識を教えている」
ソラは黙って聞いていた。
マーセナスは笑う。
「いい子たちだ」
「この街の未来だからね」
少し会話をしたあと。
アイネとソラは学園を後にした。
しばらく歩く。
ソラはふと聞いた。
「……アバン」
「今どこにいるんだ?」
アイネは少し考える。
そして言った。
「ちょうどいい」
ソラを見る。
「これから」
「アバンに会いに行く?」
その言葉に、ソラの足が止まった。




