共生
アイネに案内されるまま、街の奥へと歩いていく。
賑やかな通りを抜け、住宅が並ぶ静かな区画へ入った。
そしてアイネが立ち止まる。
そこにあったのは――
一軒の家だった。
特別大きいわけでも、豪華なわけでもない。
だがしっかりとした造りの、落ち着いた雰囲気の家だった。
アイネは扉を開ける。
「ただいま」
先に中へ入る。
すると――
「おかえり!」
元気な声が響いた。
奥から飛び出してきたのは、小さな少女だった。
赤い髪。
年齢は六歳くらいだろうか。
大きな瞳を輝かせながら、アイネに駆け寄る。
「今日は早いね!」
少女はそう言いながらアイネの前で止まる。
アイネはその頭を軽く撫でた。
「うん」
優しい声。
そして、柔らかな笑み。
「ただいま」
その様子を見て、ソラは少し驚いていた。
(……こんな顔するんだな)
戦っていた時の冷たい雰囲気とはまるで違う。
少女がふとソラを見る。
「……あれ?」
首を傾げる。
「その人、だれ?」
好奇心いっぱいの目。
アイネが答える。
「今日からここに来る人」
それだけ言う。
少女はソラの前まで来た。
じーっと見上げる。
「ふーん」
そしてニコッと笑う。
「私はミナ!」
元気よく言った。
「あなたは?」
ソラは少し戸惑いながら答える。
「……ソラ」
「ソラかー!」
ミナは嬉しそうに笑う。
「よろしくね!」
その無邪気さに、ソラは少しだけ肩の力が抜けた。
アイネが言う。
「ソラ、部屋案内する」
そう言って歩き出す。
家の奥へ進む。
廊下を歩いていると、途中で数人の住人とすれ違った。
料理を運んでいる大人の女性。
工具を持った男性。
そして廊下の端で遊んでいる子供たち。
「アイネお姉ちゃん!」
子供が手を振る。
アイネも軽く手を振り返す。
まるで――
普通の家族のような光景だった。
ソラはその様子を見ながら歩く。
やがてアイネが一つの扉の前で止まった。
ドアを開ける。
「ここ」
中はシンプルな部屋だった。
ベッド。
机。
小さな棚。
生活に必要なものだけが置かれている。
「ソラの部屋」
アイネが静かに言う。
ソラは部屋の中を見渡した。
部屋の中。
ソラはベッドの端に腰を下ろしていた。
窓からは、最果ての街が少しだけ見える。
その前で、アイネが壁にもたれるように立っていた。
「ここについて、少し説明する」
静かな声で言う。
ソラは頷いた。
「この家はね」
「戦闘で家をなくした人や、他の国から流れてきた移住者が暮らしている場所」
「年齢制限はない」
「子供から、高齢者まで」
廊下で見かけた人たちの顔が頭に浮かぶ。
「みんなここで保護してる」
ソラは聞きながら、ゆっくり頷いた。
だが、ふと疑問が浮かぶ。
「それって……」
「金、かなりかかるんじゃないのか」
アイネは少し肩をすくめた。
「もちろん」
「だから成人以上は働いてもらってる」
この街は資源が多い。
鉱山。
加工。
店。
様々な仕事があるらしい。
「ここはただの保護施設じゃない」
「生活する場所」
「みんなで維持してる」
ソラは少し考える。
そしてもう一つの疑問を口にした。
「……これ」
「誰が始めたんだ?」
アイネは少し黙った。
ほんの一瞬。
それから静かに言う。
「私」
ソラの目が少し開く。
「……え?」
「ここを立ち上げたのは私」
さらっと言う。
ソラは少し困惑する。
アイネの見た目は、どう見ても二十代前半くらいだ。
「でも……」
思わず聞く。
「年齢って……」
アイネは少しだけ視線を逸らした。
ほんのわずかに、躊躇う。
だが、やがて答えた。
「……八十四」
一瞬、時間が止まった。
「は?」
ソラは思わず声を漏らした。
「八十四!?」
思わずアイネの顔を見直す。
どう見てもそんな年齢には見えない。
アイネはため息をつく。
「驚くよね」
そして静かに言う。
「私はエルフ族」
「人間より長く生きる」
ソラは完全に固まっていた。
(エルフ……)
その言葉自体は知っている。
だが。
「本当にいるのか……」
思わず呟いた。
アイネが少し眉を上げる。
「知らなかったの?」
ソラは正直に答える。
「学校では……」
「存在が噂される程度でしか教えられてない」
人間社会では、他種族とあまり関わろうとしない。
だから授業でも、軽く触れるだけだった。
「実在するって初めて知った」
アイネは少しだけ苦笑した。
「まあ」
「人間はそういうところあるから」
そして窓の外を見る。
街の風景が広がる。
「でもこの街は違う」
「種族も、国も関係ない」
静かに言う。
「生きる場所がない人が集まる場所」
ソラはその言葉を聞きながら、街の景色を見る。
「それじゃあ、少し多種族のことを話そうかな」
アイネはそう言って腰を下ろした。
俺は少しだけこの都市に馴染んできた気がした。




