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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
深果都市フリッス編

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49/55

最果

アバンと共に暗闇の中を歩き続ける。


周囲には何もない。

光も、景色も、音さえもほとんどない。


聞こえるのは――


三人の足音だけだった。


コツ……コツ……


しばらく歩いたあと、アバンがふと口を開く。


「――そろそろだよ」


その瞬間だった。


目の前が、突然白く光る。


「っ……!」


あまりの眩しさに、ソラは思わず目を閉じた。


数秒。


ゆっくりと目を開ける。


そこに広がっていたのは――


緑の丘だった。


風が吹き、草が静かに揺れている。


さっきまで歩いていた暗闇が嘘のように、空は青く澄んでいた。


「……ここは」


ソラは周囲を見渡す。


そして。


視線の先にあるものを見て、言葉を失った。


丘の先。


そこに広がっていたのは――


巨大な街。


だが、それは王都のような中世の街ではない。


高く伸びる建物。


整備された広い道。


ガラスの窓。


見たことのない形の構造物。


それは――


前世の地球に酷似した都市だった。


「……嘘だろ」


ソラの声が漏れる。


信じられない光景だった。


「ここはどこなんだ?」


隣に立つアバンに聞く。


アバンはその街を見ながら、楽しそうに笑った。


「ここはね、深果都市フリッス。」


ゆっくりと言う。


「世界式の影響を受けない場所なんだ」


ソラの眉が動く。


「世界式の……影響を?」


アバンは頷く。


「この世界は、本来すべて“世界式”に管理されている」


「魔法も、法則も、進化も」


「全部ね」


そして街の方を指差す。


「でもここは違う」


「世界式の外側にある」


少し間を置いてから言った。


「――世界の果て」


「最果ての街さ」


ソラはもう一度その都市を見る。


前世で見た景色に、あまりにも似ていた。


アバンが続ける。


「そしてここは」


「僕たちの故郷でもあり」


少し振り返る。


「拠点でもある」


その少し後ろで、アイネが静かに立っていた。


風が吹く。


丘の上から見える街は、静かに広がっている。


ソラは呟いた。


「……世界の外に」


視線を街に向ける。


「こんな場所があったなんて」


アバンは笑う。


「まだまだ知らないことばかりだよ」


「この世界は」


そして歩き出す。


丘を下り、街へ向かって。


「さあ」


振り返って言う。


「本当の世界を見に行こう」


ソラは少しだけ空を見上げた。


丘を下り、三人は街へと向かう。


やがて舗装された道に出る。


建物の間を歩きながら、ソラはふと違和感に気づいた。


「……あれ」


立ち止まり、周囲を見回す。


「魔力が……ない?」


目を閉じて意識を広げる。


だが――


何も感じない。


空気の中にも、大地の中にも、魔力の流れが一切存在しない。


ソラは呟く。


「本当に……地球みたいだ」


魔法も、魔力も存在しない世界。


まるで前世に戻ったかのような感覚だった。


その時、アバンが振り返る。


「僕は少し用事がある」


軽い調子で言った。


「ここから先は、アイネに案内してもらうといい」


そう言うと、アバンは街の奥へ歩いていく。


ソラはその背中を少しだけ見送った。


そして隣を見る。


そこには、アイネ。


「……じゃあ」


アイネは歩き出す。


「街、案内する」


商店の並ぶ通りを歩く。


店。


マンション。


飲食店。


どこを見ても、前世の地球と変わらない景色だった。


だが――


ソラはどうしても落ち着かなかった。


気まずい。


当然だった。


目の前にいるのは、友人の魔法を奪った人物なのだから。


無言の時間が続く。


すると、アイネがぽつりと言った。


「ここは」


少し前を見ながら話す。


「あなたたちからすれば、憎い私たちの拠点」


少し間を置く。


「でも」


振り返らずに続ける。


「住人も、私も」


「ただ必死に生きてるだけ」


ソラは黙って聞く。


「ここは魔力がない」


「だから」


「人間の知恵だけで生きていかないといけない」


そして。


少しだけ声が低くなる。


「……戦わないといけない」


ソラが聞く。


「戦う?」


アイネは頷く。


「この街はね」


「魔力がない代わりに、資源が普通の土地より多く取れる」


鉄。


燃料。


様々な鉱物。


「だから」


「隣国がそれを狙って攻めてくる」


ソラは眉をひそめる。


「でも……」


「魔法が使えないんだろ」


アイネは静かに答える。


「そう」


「魔力がない土地で育った人間は」


「魔法なんて使えない」


一度、街を見渡す。


「昔、一度」


「この街は壊滅しかけた」


静かな声だった。


「その時に現れたのが」


少しだけ空を見る。


「アバン」


ソラの表情が変わる。


アイネは続ける。


「戦況をひっくり返した」


「そして」


「またこの街に平和を持ってきた」


それだけではない。


「魔力がない場所なのに」


「魔力が存在する結界を作った」


「そして」


「魔術師の育成まで始めた」


ソラは言葉を失う。


街の人々が笑って歩いている。


子供が走る。


店から声が聞こえる。


アイネが言う。


「この街の人たちは」


「アバンのことを救世主って呼んでる」


少しだけ苦笑する。


「本当に崇めてる」


だが。


アイネは小さく息を吐いた。


「私は」


少し間を置く。


「尊敬する気にはなれないけど」


ソラは何も言えなかった。


ただ街を見つめる。


そして、気づく。


目の前の少女も。


この街の人たちも。


自分たちと――


何も変わらない。


それぞれに守りたいものがある。


それぞれに戦う理由がある。


ソラは静かに思った。


(アイネも……)


(俺たちと同じだ)


(自分が守りたいものを守っているだけなんだ)


風が街を通り抜ける。


最果ての街は、静かに生きていた。

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