双戦
衝撃が走る。
地面が抉れる。
騎士団の陣が崩れかける。
「一旦下がれ!」
ソラの声が響く。
「距離を取れ! 刺激を与えるな!」
学生たちが後退する。
ガウスも一歩引く。
タペストは脈動を続けるが、攻撃が止まったことで動きが鈍る。
学習対象を探すように、ゆらりと揺れる。
ソラは前に立つ。
だが、踏み込まない。
視線だけを向けたまま、仲間に言う。
「作戦がある」
息が荒いまま、レオンが睨む。
「今さら何かあるのかよ」
「あるかもしれない、だ」
ソラは淡々と返す。
「俺は、敵の魔術式を読むことができる」
クレアの視線がわずかに揺れる。
他の三人は初耳だ。
「読むって……解析ってことか?」
ユイが問う。
「それだけじゃない」
一瞬、言葉を選ぶ。
式眼の名は出さない。
「干渉できる可能性がある」
沈黙。
「……は?」
ルカが眉をひそめる。
レオンが目を見開く。
「干渉? それって」
「術式変換と同じ発想だ」
空気が止まる。
レオンの表情が固まる。
「お前……俺と同じことをやろうってのか?」
「規模は違う。たぶん」
ソラは正直に言う。
「相手の学習演算の“基準”に触れられれば、誤差を混ぜられるかもしれない」
ユイが息を呑む。
「そんなの……理論上は可能だけど、世界式に触れるってことだよ?」
「ああ」
あっさり答える。
「成功する保証はない」
「干渉できても、範囲が小さければ意味がない」
「最悪、何も起きない」
レオンが低く言う。
「……最悪はそれだけか?」
ソラは一瞬だけ黙る。
「俺が壊れる可能性はある」
クレアの手が強く握られる。
「でも」
ソラは続ける。
「今ある選択肢は三つだ」
指を折る。
「戦って強くする」
「逃げて王都を捨てる」
「止める可能性に賭ける」
沈黙。
タペストが脈打つ。
ゆっくりと再び膨張を始める。
時間はない。
ガウスが低く問う。
「成功確率は」
「分からない」
即答。
「だが、理屈は通ってる」
ユイが目を細める。
「理屈が通ってるなら……ゼロじゃない」
ルカが肩を回す。
「要は時間稼ぎすればいいんだろ?」
レオンがソラを見る。
複雑な目だ。
嫉妬でも敵意でもない。
覚悟を見る目。
「できるか?」
ソラは視線を返す。
「やる」
短い。
迷いはない。
クレアが前に出る。
「……なら、支える」
ガウスが大剣を担ぐ。
「学生の賭けに、騎士団が乗らぬ理由はない」
タペストがうねる。
攻撃態勢に入る。
ソラは前に出る。
瞳が淡く光る。
「時間をくれ」
それだけ告げる。
仲間が頷く。
黒鋼が再び陣を組む。
学生が構える。
王都の夜。
最後の賭けが始まる。
王都の空が揺らぐ。
遠くで、黒い巨体と光がぶつかり続けている。
学園の塔の上。
アバンは細めた目で城下を見ていた。
「……何かしようとしてるね」
顎で示す先。
ソラが前に出る。
仲間に何かを告げている。
魔力の流れが変わった。
賭けに出る気配。
隣のシバの空気が、わずかに変わる。
「止めないの?」
アバンが問う。
シバは短く答える。
「止める」
一歩、踏み出す。
その瞬間。
空間が歪む。
足が、動かない。
見えない何かが絡みつくように、座標が固定される。
「……」
魔力を流す。
解けない。
視線だけがアバンに向く。
アバンはにこにこ笑っている。
「行かせないよ」
軽い口調。
だが、空間を縛る力は重い。
「彼の賭けなんだろ?」
「だったら、邪魔しちゃだめだ」
シバの声が低くなる。
「壊れる可能性がある」
「あるね」
即答。
「でも」
一歩、近づく。
「それを選んだのは彼だ」
「君じゃない」
風が強まる。
遠くでタペストが膨張する。
ソラの瞳が光る。
シバの魔力が一段階上がる。
拘束にひびが入る。
塔の石が砕ける。
だが、完全には解けない。
アバンの笑みが深まる。
「やっぱり特別なんだね」
「君にとっても」
沈黙。
「……そして僕にとっても」
シバの目が鋭くなる。
「何をする気だ」
アバンは肩をすくめる。
「観測は終わった」
「次は」
周囲の空気が重くなる。
「こっちも始めようよ」
その瞬間。
アバンの魔力が解放される。
塔の上空が歪む。
質が違う。
重さが違う。
まるで世界そのものに触れているような圧。
拘束がさらに強まる。
「行かせない」
笑ったまま言う。
「彼の物語は彼のもの」
「君は――」
一歩踏み出す。
「僕と遊ぼう」
シバの足元に魔術式が展開する。
無言。
だが次の瞬間。
冷たい魔力が爆ぜる。
拘束に亀裂。
塔の上で二つの力がぶつかる。
城下ではソラの賭けが始まろうとしている。
そして塔の上でも。
世界最強の魔術師シバの戦いが、幕を開ける。




