幼体
城下は半壊状態だった。
瓦礫。
逃げ惑う市民。
蒼い防壁の内側で、魔道騎士団が陣形を組む。
中央に立つのは――
団長ガウス。
巨躯。
全身を覆う黒鋼の鎧。
その背に担ぐ大剣は、人一人分ほどある。
「学生部隊、右翼につけ」
低く響く声。
「騎士団は中央突破を試みる」
ソラは頷く。
レオンが横に並ぶ。
「正面は任せろって顔してるな、あれ」
「任せられる人だ」
ソラは静かに言う。
⸻
タペストが脈動する。
魔力を吸い込み、膨張。
地面がひび割れる。
「来るぞ!」
次の瞬間。
黒い衝撃波が放たれる。
ガウスが前へ出る。
「第一隊、衝撃受け流し!」
騎士たちが盾を重ねる。
ガウスは大剣を地面に突き立てた。
「――固有魔術式」
空気が震える。
鎧の隙間から赤い光が滲む。
筋肉が、膨張する。
鎧が軋む。
「筋増大」
地面が陥没する。
踏み込み。
爆発的加速。
衝撃波を正面から叩き割る。
ズドォォン!!
空気が裂ける。
瓦礫が吹き飛ぶ。
学生たちが目を見張る。
「化け物かよ……」
ルカが呟く。
ガウスは止まらない。
大剣を振り上げる。
構えは独特。
重心が低い。
刃は水平。
「――アサハト流」
踏み込み。
回転。
重心移動。
筋増大によって強化された肉体が、流派の動きを最大効率で解放する。
「断界」
振り下ろし。
斬撃が空間を裂く。
空気が圧縮され、白い線となって走る。
直撃。
タペスト中央に巨大な衝撃。
轟音。
地面が割れる。
瓦礫が跳ね上がる。
煙。
沈黙。
「……入ったか?」
煙が晴れる。
タペスト。
揺れている。
だが。
傷は、ない。
「……」
ガウスの目が細くなる。
タペストの表面が歪む。
斬撃を“解析”するかのように。
そして。
ガウスと同じ軌道の衝撃が返ってくる。
「団長!」
ガウスが大剣で受ける。
だが吹き飛ぶ。
地面を滑り、止まる。
鎧に亀裂。
だが立つ。
「……技を、模倣しただと」
ソラの目が鋭くなる。
「違う」
「再現だ」
タペストは脈動する。
今の一撃を学習した。
⸻
「騎士団は牽制を続けろ!」
ガウスが吼える。
「学生、動け!」
ソラが前に出る。
「核は中心部。だが外殻が自動防衛してる」
ユイが目を閉じる。
「波形が変わった……さっきより速い」
レオンが剣を握る。
「時間をかけるほど不利か」
ルカが笑う。
「面白くなってきたな」
クレアは震える手を握りしめる。
それでも前を見る。
⸻
ガウスが再び構える。
「次は全力だ」
鎧が軋む。
筋増大がさらに膨張する。
血管が浮き上がる。
「若造ども」
低く言う。
「道は、俺が作る」
踏み込み。
地面が爆ぜる。
騎士団が同時に突撃。
黒鋼と学生が並ぶ。
巨大な人工構造体に向かって。
夜が、震える。
その頃学園内、
戦闘の轟音が、遠くから響いている。
視線は空の亀裂と、城下の魔力の揺らぎ。
アバンはフードの奥で、楽しげに目を細めている。
「今のあれ」
顎で城下を指す。
「例えるなら“成長期”かな」
シバは無言。
「外部刺激を取り込んで、自分の構造に反映させる段階」
遠くでガウスの斬撃が炸裂する。
空気が震える。
アバンはくすりと笑う。
「ほら、今の」
「強かったね」
一拍。
「でも次は、同じやり方じゃ通らない」
シバが低く問う。
「何故そう断じる」
アバンは肩をすくめる。
「観測」
「周囲の術式、物理衝撃、魔力波形」
「全部、吸収して“形式化”してる」
遠くで黒い衝撃が返る。
ガウスが吹き飛ばされる気配。
「ね?」
軽い声。
「今はまだ未完成」
「だけど“学ぼうとしている”」
シバの目が細くなる。
「目的は」
「自己拡張」
即答。
「取り込めるものは全部取り込む」
「理解できるものは構造化する」
「再現できるものは再利用する」
アバンは空を見る。
亀裂が脈打つ。
「赤子が言葉を覚えるみたいに」
「周囲を真似して、自分の世界を広げていく」
一拍。
「成長期だよ」
静寂。
「だが暴走している」
シバの声は低い。
「制御がない」
アバンは首を傾げる。
「うん。だから危ない」
「でもさ」
少しだけ真面目な声になる。
「成長って、本来“許容された環境”で起こるものだよね?」
視線がシバに向く。
「普通は、壊れる前に止まる」
「枠がある」
「限界がある」
遠くで地面が砕ける。
騎士団の魔力が揺れる。
「でも今のあれ」
アバンは微笑む。
「限界値を知らない」
「上限設定が、見当たらない」
シバが止まる。
「……世界式が許していると?」
「少なくとも、拒絶はしてない」
あっさり言う。
「異物なら弾くはず」
「でもあれは“存在できている”」
沈黙。
夜風が吹く。
「つまり」
シバが低く言う。
「排除対象ではない可能性」
アバンはくすくす笑う。
「あるいは」
一歩後ろへ下がる。
「想定内」
空の亀裂が脈打つ。
「成長段階の挙動」
「観測対象として、許可されている」
シバの魔力が、わずかに揺らぐ。
「言いたいことは何だ」
アバンは首を傾げる。
「単純だよ」
にこり。
「今はまだ“幼体”」
「でも放置すれば、王都じゃ足りなくなる」
一拍。
「世界規模になる」
遠くでソラの魔力が膨らむ。
アバンはそちらを見る。
「さて」
「彼らはどこまで削れるかな」
「成長前に」
静かな笑み。
シバは目を細める。
「貴様は止めないのか」
アバンは即答する。
「観測者は基本、中立」
一瞬だけ、目の奥が深くなる。
「……今はね」
風が強く吹く。
亀裂が揺らぐ。
城下の戦いは、さらに激しくなる。




