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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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40/55

解放

夜空に一発目の花火が咲いた。


轟音とともに広がる光。


「うわあああ!!」


ルカが真っ先に叫ぶ。


「でかっ!」


レオンが思わず声を上げる。


ソラは空を見上げながら、淡く反射する光を瞳に宿す。


ユイは少し離れた位置で、静かに見ていた。


色とりどりの光が、王都の夜を染める。


屋台通りは歓声と拍手で満ちていた。


甘い匂いも、煙も、全部が祝祭の一部。


クレアはその中心で笑っている。


王族ではなく、


ただの少女として。



王城の高台。


王族席でも、笑い声が上がっていた。


王妃は優しく微笑み、


側近たちも緊張を解いている。


ロイドは腕を組みながらも、


どこか柔らかい表情で夜空を見ていた。


「今年は、特に綺麗ですね」


侍従が言う。


「ああ」


短く答える。


視線は――


城下町の一点。


クレアのいる方角。



花火は次々と打ち上がる。


大輪。


連発。


夜が昼のように明るくなる。


「最後は特大らしいよ!」


ルカが言う。


「マジか」


レオンが空を見上げる。


その横顔に、花火の光が映る。


クレアはふと、視線を横に向けた。


ソラ。


静かに空を見上げている。


どこか――遠くを見る目。


「ソラ」


花火の轟音にかき消される。


ソラが少し顔を寄せる。


「なに?」


クレアは一瞬ためらい、


それでも口を開いた。


何かを言った。


でも、


ちょうど大玉が炸裂する。


ドォン!!


光と衝撃。


歓声。


ソラは聞き取れない。


「え? 何?」


クレアは一瞬固まって、


それから顔を赤くした。


「……なんでもない」


「いや絶対なんか言った」


「言ってない!」


「言った」


「言ってない!」


ルカがにやにやしながら割り込む。


「なになに?告白?」


「違う!!」


クレアはそっぽを向く。


ソラは少しだけ笑う。


「あとで教えて」


「……考えとく」


視線が一瞬だけ絡む。


花火の光の中。


世界は、ただ綺麗だった。



「ラスト上がるぞ!!」


打ち上げ台から声が響く。


空気が張りつめる。


王都全体が空を見上げる。


王城でも、


屋台通りでも、


フードを被った二人も。


アバンはにこにこしている。


アイネは結晶体を静かに握る。


「……いくよ」


「うん」


花火が上がる。


ゆっくりと。


夜空の中心へ。


誰もが息を止める。


そして――


ドォォォン!!!


特大の花火が咲いた。


白。


金。


赤。


夜空を覆うほどの光。


歓声が爆発する。


その瞬間。


ピキッ。


ほんの小さな音。


最初は、誰も気づかない。


だが。


空の中心。


花火の残光の奥。


何かが走る。


細い、白い線。


ガラスに入るヒビのように。


ピキッ。


もう一度。


音は、花火よりも鋭かった。


ロイドの瞳が見開かれる。


ソラの表情が変わる。


アイネが空を見上げる。


アバンだけが、


微笑んだまま、


目だけを細めた。


空に、亀裂が入っていた。


光が、歪む。


夜が、裂ける。


夜空に走った亀裂は、次の瞬間には誰の目にも明らかだった。


ピキッ――


バキン。


乾いた音。


まるで見えないガラスが砕けるように、空の一部が崩れる。


「……え?」


誰かが呟く。


花火の余韻が消えきらないうちに、


裂け目の奥から、黒い影が滲み出た。


光を吸い込むような存在。


歪んだ布のような輪郭。


脈打つ紋様。


試作型タペスト。


それは“落ちる”のではなかった。


空間から“滲み出る”。


ずるり、と。


「な、なんだあれ……」


「花火じゃないのか?」


「演出……?」


ざわめきが広がる。


次の瞬間。


タペストの中心が歪み、


衝撃波が放たれた。


ドォンッ!!


屋台が吹き飛ぶ。


布が裂け、灯りが倒れる。


悲鳴。


「きゃああああ!!」


「逃げろ!!」


一瞬で祝祭は崩壊する。


子どもを抱える母親。


転ぶ老人、押し合う群衆。


混乱は爆発的に広がった。



「……始まったね」


アバンは、相変わらずにこにこしている。


周囲は逃げ惑っているというのに。


アイネは空を見上げる。


亀裂はまだ閉じていない。


「出力は想定内」


「うん。世界式の反応も出てる」


アバンの視線は空の亀裂に固定されている。


まるで観測者。


逃げる人々の流れの中で、


二人だけが逆方向へ歩き出す。


タペストの方へ。


人波が割れる。


「危ないぞ!」


誰かが叫ぶ。


だが二人は止まらない。


「制御、できる?」


アイネが問う。


「まだ」


アバンは笑う。


「もう少し“揺れ”を見たい」


タペストが地面に触れた瞬間、


石畳が黒く侵食される。


空気が軋む。


もう一度、衝撃。


レオンがとっさにクレアの前に出る。


「下がれ!」


ソラは周囲を一瞬で把握する。


逃げ道。


負傷者。


タペストの核位置。


「……人工」


小さく呟く。


自然発生じゃない。


誰かが“開けた”。


ユイの目も細くなる。


「嫌な感じ」


ルカは歯を食いしばる。


「なにあれ……!」



その頃。


学園。


最も高い塔の上。


夜風の中、一人の男が立っていた。


シバ。


長衣を翻し、静かに空を見上げている。


亀裂。


そこから滲み出る異物。


「……そう来たか」


目を細める。


「術式変換の波形が混じっているな」


わずかに口角が上がる。


怒りでも焦りでもない。


観察者の目。


「レオンのか」


塔の縁に手を置く。


「随分と派手にやる」


下では混乱が広がり続けている。


王都の夜は、もはや祝祭ではない。


悲鳴と崩壊。


そして。


逃げる群衆の中を、


ただ二人だけ、


逆行する影。


シバはその姿を視認する。


フード。


にこやかな少年。


「……面白い」


低く呟く。


「役者が揃ってきた」


夜空の亀裂がさらに広がる。


タペストが唸る。


そして――


ソラが一歩、前に出た。


祝祭は終わった。


絶望の一夜が始まる。

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