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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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4/55

認識

アンナの後についていくと、その先に巨大な扉が現れた。


「うわぁ……」


扉が開くと、そこには岩がゴロゴロと転がり、崩れた建物が点在する空間が広がっていた。まるで廃墟の街を切り取ったかのような光景だ。


「ここはギルド所有の修練場です。本番の戦闘に近い環境を再現しています。終了時間になりましたらお呼びしますね」


アンナは一礼すると、そのままカウンターへ戻っていった。


「よし! さっそくやるか!」


「ソラ、あのベンチに座って見てなさい」


ヨハンに言われた通り、俺は観戦用のベンチに腰掛けた。


最初の模擬戦は――ヨハン対マルゴン。


戦闘自体に強い興味があるわけじゃない。だが、“魔法”が見られるとなると話は別だ。胸の奥が、わずかに高鳴る。


すると、隣にドワーフのおじさんがどっしりと座った。


「よう、ボウズ。そういや名乗ってなかったな。俺はドワーフ族のスベーロ・ワルクスクだ。スベーロでいい。ところでよ……お前、ヨハンの戦闘、見たことあんのか?」


「馬車の上からですけど、ここに来る途中で少しだけ」


「そうかそうか。小さいうちから戦いを見るのはいい経験だ。お前らが大人になる頃には、“怖いから戦えません”なんて言ってられねぇ時代になるからな」


その言葉が、妙に引っかかった。


「……どういう意味ですか?」


俺がそう尋ねると、スベーロは一瞬だけ表情を曇らせ、低い声で語り始めた。


「最近な、タペストの動きが活発になってきてる。ヨハンが倒したニューゴブリンも、本来はあの地域に出る魔物じゃねぇ。少しずつだが……世界が歪み始めてる」


理解した。


このまま時間が経てば、魔物はさらに強くなり、増え続ける。

――そして、その対処を担うのは、俺たち次の世代になる。


「だからよ」


スベーロは表情を切り替え、力こぶを作って笑った。


「俺たち大人が、未来のお前らに苦労させねぇように、今を必死で戦うんだ」


「……はい」


「ほら、始まるぞ」


俺はフィールドへ視線を戻した。


そこには、剣を構えたヨハンと、巨大な斧を担いだマルゴンが向かい合っていた。


「――始め!」


審判の合図と同時に、二人は地面を蹴った。


キィィンッ!


金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

ヨハンの剣は目で追えないほど速く、連続で放たれる斬撃が空気を切り裂く。


対するマルゴンは、巨体に似合わぬ俊敏さでそれをかわし、重量級の斧を豪快に振るった。


ガキィンッ!!


衝撃音とともに、二人は距離を取る。


「腕は落ちてねぇな、ヨハン」


「お前もだ。前より動きが良くなってるぞ、マルゴン」


次の瞬間、二人は再び激突した。

岩が砕け、地面がえぐれ、修練場が本物の戦場へと変わっていく。


「ヨハンは柔軟な剣筋で相手を翻弄するタイプだ。剣速はトップクラス。マルゴンは、あの筋肉で重量武器を自在に操る化け物だ」


スベーロの解説を聞きながら、俺は必死に目を凝らした。


次第に、周囲の景色が消えていく。

視界には、二人の動きだけが残っていた。


「そろそろ――決めるか!」


「来い、ヨハン!」


二人は岩山の上に跳び上がり、互いに手をかざす。


その瞬間、以前ニューゴブリン戦で見たのと同じ魔法陣が空中に展開された。


「おぉ……!」


観客席からどよめきが起こる。


だが――


俺の意識は、別のものに奪われていた。


魔法陣の横に、淡く光る“文字”が浮かび上がっていたのだ。


「……ラムズ・フェローチ」


無意識に、その言葉が口から零れた。


「……は?」


隣のスベーロが、目を見開いて俺を見た。


「『ラムズ・フェローチ!!』」


ヨハンとマルゴンの声が重なった瞬間、魔法陣から雷が放たれ、互いの雷が正面衝突した。


轟音。


閃光。


爆風。


砂煙が修練場を覆い尽くす。


「……!」


咳き込みながら視線を凝らすと、そこには倒れ伏すマルゴンの姿と――俺に向かって親指を立てるヨハンがいた。


「す、すごかったです!スベーロ!」


胸が熱い。

魔法への興味が、さらに強く燃え上がっていた。


だが、スベーロは険しい表情のまま、俺をじっと見つめていた。


「なぁ、ボウズ……さっき言った言葉」


「目の前に出てきたんです。“ラムズ・フェローチ”って」


「……見えた? 文字が?」


スベーロは小さく唸る。


「マグレ……いや、それにしちゃ……」


スベーロはしばらく黙ったまま、フィールドの砂煙が完全に消えるのを見つめていた。


「……ソラ」


低く、抑えた声。


「さっきの“見えた”って話だが――今は忘れろ」


「忘れる……?」


「いや、忘れた“ふり”をしろ」


スベーロは俺の目を見ずに、ぽつりと続けた。


「この世界じゃな、知られていい力と、知られちゃいけねぇ力がある」


胸の奥が、じわりと冷たくなる。


「お前のは……後者の匂いがする」


風が吹き、俺の前髪が揺れた。


「今はまだ、誰も気づいてねぇ。だがな――」


スベーロは、修練場の高い壁の向こう、王城の方角へ視線を向けた。


「“気づくやつ”は、必ず現れる」


俺は無意識に拳を握り締めていた。


「その時、お前が何も知らず、何も選べないままだったら……」


言葉は、そこで止まった。


代わりにスベーロは、いつもの豪快な笑顔を無理やり作る。


「ま、今は考えなくていい。ボウズはボウズのままでいろ」


そう言って、俺の頭を軽く叩いた。


だが、その手は――ほんの少しだけ震えていた。


俺は、その理由をまだ知らない。


けれど。


この日、この修練場で見た“文字”が、

これから先の俺の運命を大きく動かすことになる。


そんな予感だけが、胸の奥に静かに残っていた。

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