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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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39/57

前夜

王城の大門がゆっくりと開く。


式典を終えたクレアは、正装からいつもの動きやすい服に着替えて外へ出た。


そして――


門のすぐ前。


「おっそーい!」


ルカが両手を振っていた。


ユイは壁にもたれて気だるそうに立ち、

ソラは周囲を軽く警戒しながら待っている。

レオンは腕を組み、少しだけ視線を逸らしていた。


クレアは一瞬きょとんとして、それから笑った。


「……待っててくれたの?」


「当たり前だろ」


レオンがぶっきらぼうに言う。


「主役を置いて帰るわけないじゃん」


ソラが軽く笑う。


「屋台、午後の方が混むらしいし」


「ほら行こ行こ行こ!」


ルカがクレアの手を掴む。


その温度が嬉しくて、クレアは自然に笑みを浮かべた。


「うん、行こ」


五人はそのまま城下町へ向かう。




屋台通りは午後の熱気に包まれていた。


甘い匂いと香ばしい煙。


「クレアこれ食べよ!」


ルカが腕を引く。


笑いながら歩きつつ、クレアはそっとユイの隣に並ぶ。


「ねえ、ユイ」


「んー?」


「今日、午前中どうしてたの?」


ユイは少しだけ間を空ける。


「ああ……剣術大会」


「え?」


クレアが止まる。


「そんなのあったの?」


「うん。学園主催。景品付き」


「……知らなかった」


小さく呟く。


「そりゃ王城いたしな」


ユイはあっさり言う。


「レオンとソラが出た」


クレアの視線が自然と前へ向く。


二人は何やら言い合っている。


「……どこまでいったの?」


「決勝」


「え!?」


思わず声が大きくなる。


「決勝!? すごくない!?」


「すごいよ」


ユイは淡々と答える。


「互角だった」


クレアの胸がきゅっとなる。


「……勝ったの?」


少しだけ不安が混じる。


ユイは肩をすくめる。


「レオンは負け」


「……そっか」


クレアの視線が自然とレオンへ向く。


けれど。


レオンは今、普通に笑っている。


ソラに何か言い返し、ルカに突っ込まれている。


沈んでいる様子はない。


「でも全然平気そう」


ユイが続ける。


「むしろ燃えてる」


「燃えてる?」


「“次は勝つ”って」


クレアは少しだけ安心して息を吐いた。


「……ならよかった」


「心配?」


「うん、まあ……ちょっとだけ」


ユイは小さく笑う。


「大丈夫。レオンは強い」


クレアはもう一度前を見る。


レオンがこちらに気づく。


「何見てんだ」


「別に」


自然に笑い返す。


「あとで詳しく聞かせてよ?」


「別に大したことじゃねえ」


「決勝まで行っといてそれ?」


ルカが割り込む。


「そうだよ!すごいじゃん!」


レオンは少しだけ照れたように視線を逸らした。


その様子を見て、クレアははっきりと思う。


(うん、大丈夫)


「さて」


クレアはぱっと表情を変える。


「午後は本気で回るよ?」


「出た」


ソラが笑う。


「甘いの全部制覇宣言」


「当然でしょ?」


「巨大クレープいこ!」


「でかすぎ」


「食えなかったらレオンな!」


「なんでだよ!」


笑い声が広がる。


剣も、王族も、式典も。


今は遠い。


五人はただの仲間として、屋台通りを進んでいく。


城の高台から、その姿を静かに見つめる視線があることなど知らずに。


ロイドは小さく呟いた。


「……あの笑顔か」


民衆に向けるものとは違う、

自然で、柔らかい笑顔。


そして。


その輪の中心にいる少年。


「ソラ……」


王の胸に残る違和感は、まだ消えていなかった。


そして、夜がやってきて歓声が聞こえてくる。



祝祭の喧騒の中。


二つの影が屋台通りを歩いていた。


深く被ったフード。


だが一人は隠しきれない。


「いやー、いいね。平和って感じ」


アバンは飴菓子を眺めながら、にこにこと笑う。


本当に楽しそうだ。


「……壊す前に楽しむタイプ?」


アイネが淡々と言う。


「壊す前提なんだ」


アバンはくすっと笑う。


「僕は“観察”が好きなだけだよ」


「観察?」


「うん。どう反応するか見るの、面白いじゃん」


アイネは視線を細める。


手の中で淡く脈打つ結晶体。


試作型タペスト。


レオンから奪った術式変換を基盤に組み上げた、不安定な存在。


「今夜、これを解放する」


「うん」


「目的は世界式への干渉確認」


「うんうん」


アバンは軽く頷く。


「暴走する可能性は高い」


「それも込みでデータ」


迷いがない。


だが。


「でもさ」


アバンは少しだけ声を落とす。


「出力、もう少し抑えよっか」


アイネが止まる。


「なぜ」


「ここ、王都だよ?」


にこにこ。


「壊れすぎたら次の実験できなくなる」


理屈は合理的。


破壊を否定していない。


だが。


何かズレている。


アイネは少し考える。


「……制御できるの?」


「できるよ」


即答。


「術式変換の応用で、内部構造の暴発点を一段階ずらせる」


「そこまで解析済み?」


「だいたい」


軽い調子。


だが目は鋭い。


アイネはしばらく黙り、結晶体を見下ろす。


「被害が小さすぎると意味がない」


「安心して」


アバンは笑う。


「ちゃんと“揺れる”から」


その言い方。


壊す、ではない。


揺らす。


アイネはそこまで深読みしない。


今は利害が一致している。


強いタペストを作るためのデータ。


それが目的。


「……あなた、意外と慎重」


「そう?」


「もっと派手にやると思ってた」


アバンは少し考えるふりをして、


「世界って、意外と繊細なんだよ」


さらっと言う。


「一気に壊すより、段階踏んだ方が面白い」


楽しそうに笑う。


アイネはその言葉を、


単なる性格の違いだと受け取る。


遠くで花火の試射が上がる。


空が一瞬だけ光る。


アバンはそれを見上げた。


「ちゃんと持つかな」


「何が」


「んー?」


すぐに笑う。


「今夜の空」


誤魔化すのが自然すぎる。


アイネは視線を外す。


まだ疑わない。


だが確実に。


二人の目的は同じ方向を向いていない。


今はただ、


交差しているだけ。


祝祭の音の中で、


夜の花火が始まった。

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