剣術
王都の朝は、いつもより騒がしかった。
窓の外から楽団の音が流れてくる。
太鼓のリズム。
金管の高らかな音。
寮の廊下も、どこか浮き足立っている。
レオンは布団の中で目を開けた。
祭りの日。
思い出す。
昨夜、半ば強制的に決められた予定。
「……行かないって選択肢は」
ないな、と自分で結論づける。
どうせルカが押しかけてくる。
案の定――
ドンドン!!
「レオーーン!!起きろーー!!」
扉を叩く音。
「うるせえ……」
「祭りだぞ!!」
「朝からテンション高すぎだろ……」
渋々起き上がる。
鏡を見る。
少し痩せたかもしれない。
でも、目は完全には死んでいない。
それだけで十分だ。
⸻
寮の食堂。
ソラはすでに席に座っている。
いつも通り、無駄がない。
ユイは少しだけ祭り仕様の髪飾りをつけている。
ルカはもう浮かれている。
「屋台どこから回る!?甘いの?肉?射的!?」
「落ち着いて」ユイが笑う。
クレアはいない。
すでに王城へ向かった。
今日は第二王女としての一日。
王族用の礼装。
式典の挨拶。
凱旋パレード。
学園での彼女とは違う顔。
レオンは空席を見る。
「……忙しいな、王女様」
ソラが淡々と返す。
「夜には来る」
それだけで十分、という口調。
午前。
王都中央へ向かう道は、人で溢れている。
旗が掲げられ、建国紋章がはためく。
子どもたちは小さな紙旗を振り、
露店の準備も進んでいる。
焼き菓子の甘い匂い。
串焼きの煙。
音楽。
笑い声。
レオンは少しだけ、目を細める。
こんな空気、久しぶりだ。
「ほら行くぞ!」
ルカが腕を引く。
「引っ張んな」
「今日は拒否権なし!」
ユイがくすっと笑う。
「最初は軽い屋台からにしよ。混む前に」
ソラは周囲を一瞥する。
習慣的な警戒。
だが今日は、脅威の気配は薄い。
平和だ。
王都中央広場に着くと、
石畳の通りは人で溢れ、旗と花飾りが風に揺れていた。
屋台の呼び込み。
子どもの歓声。
焼き菓子の甘い匂い。
「まずは腹ごしらえ!」
とルカが串焼きを振り回す。
「振り回すな、危ない」
とソラ。
ユイは甘い飲み物を片手に周囲を見回している。
レオンは半歩後ろを歩く。
騒がしい。
だが、不思議と嫌じゃない。
そのとき――
「さあさあ!建国記念・即席剣術大会!」
祭りの喧騒の一角に設けられた簡易闘技場。
《建国記念・即席剣術大会》の看板の下、木剣を手にした参加者たちが集まっている。
「魔術使用禁止!純粋な剣技のみ!」
その条件に、レオンの足が止まった。
術式変換は関係ない。
失った力を思い出さなくていい。
ルカが背中を叩く。
「出ろって!景品もらってこい!」
ユイも笑う。
「こういうの、得意でしょ?」
レオンは柵の向こうを見る。
楽しそうな歓声。
殺気のない真剣勝負。
「……怪我しても知らねえぞ」
受付へ向かう。
その横を、もう一人が通り過ぎる。
ソラ。
「お前も出るのかよ」
とレオン。
「ついでだ」
淡々と話す。
だが目は少しだけ鋭く、微笑んでいる。
参加番号、レオン十二番、ソラ十三番。
「うわ、連番!」
「嫌な予感しかしない」
とユイとルカがフラグを立てる
⸻
第一試合、レオン。
相手は体格のいい青年。
開始の合図と同時に踏み込み。
ガンッ!!
木剣がぶつかる。
押し込まれるが、流す。
最小限の動きでいなし、手首を打つ。
木剣が宙を舞う。
歓客がどよめく。
「はやっ!」
ルカが叫ぶ。
レオンは無言。
だが動きは淀みない。
身体は覚えている。
術式がなくても、剣は振れる。
⸻
隣の試合。
ソラ。
開始と同時に間合いを詰める。
無駄がない。
一撃。
相手の中心線を正確に打ち抜く。
終了。
静まり返ったあと、どよめき。
「今の何!?」
「速すぎだろ……」
ソラはニコッと微笑み、次の試合へ。
⸻
二回戦。
レオンは連続攻撃型の相手と当たる。
激しい打ち合い。
木剣の音が響く。
その中で、レオンは一瞬、笑った。
久しぶりの感覚。
純粋な勝負。
隙を誘い、踏み込み、胴を打つ。
ユイが胸を撫で下ろす。
「顔、戻ってきたね」
ソラも順当に勝ち上がる。
圧倒的。
だが派手ではない。
正確で、冷静。
三回戦終了時、司会が叫ぶ。
「準決勝進出者、四名!」
レオン。
ソラ。
騎士見習い。
冒険者風の男。
ルカが騒ぐ。
「なにこれ身内対決フラグ!?」
ユイが苦笑。
「まだ分からないよ」
組み合わせ発表。
レオン vs 騎士見習い
ソラ vs 冒険者
準決勝開始。
⸻
レオンの試合。
騎士見習いは堅実な型。
重い一撃。
正面から打ち合う。
汗が飛ぶ。
レオンは一歩下がり、視線を読む。
誘う。
踏み込み。
脇を抜け、一本。
決着。
息が荒い。
だが、目は死んでいない。
⸻
一方、ソラ。
冒険者の変則的な動き。
だが通じない。
三合。
四合。
五合。
相手の全ての攻撃を見切る。
あっけなく終了した。
静かな歓声のなか、ソラは木剣を下ろす。
そして、視線を向ける。
向こう側。
レオン。
二人の目が合う。
柵の外でルカが絶叫。
「決勝!!お前らかよ!!」
ユイが笑う。
「これは盛り上がるね」
司会が声を張る。
「決勝戦!王都学園生同士の対決だ!」
観客が集まる。
円形闘技場の中心。
レオンとソラが向かい合う。
風が吹き、祭りの音が遠くなる。
レオンが小さく言う。
「手加減すんなよ」
ソラが答える。
「する理由がない」
木剣を構える。
ただの祭りの催し。
命のやり取りではない。
だが、
確かに、二人の間に火が灯る。
合図が上がろうとしている。
青空の下。
平和な祭りの真ん中で。
決勝戦が始まる。




