作戦
王都学園・寮の共同棟。
暖炉の火がぱちぱちと音を立てている。
外は冷えるが、室内は静かに温かい。
テーブルを囲む四人。
ソラ、クレア、ユイ、ルカ。
レオンはいない。
呼んでも来ないのは分かっている。
部屋にこもったまま、ほとんど口をきいていない。
ルカが腕を組む。
「このままじゃダメだよ……あいつ、絶対一人で抱え込んでる」
ユイが頷く。
「うん。表情、空っぽだった」
クレアは静かに紅茶を置く。
「力を失ったという事実以上に、“利用された”ことが効いているわね」
ソラは壁にもたれ、腕を組んでいる。
「放っておけば、腐る」
単刀直入。
だが、否定はしない。
「で、どうする?」
ルカが身を乗り出す。
「楽しいことしよう!」
即答。
ユイが苦笑する。
「具体的には?」
「えーっと……えーっと……」
詰まる。
クレアがふっと息を吐く。
「ちょうど来週、クレアレス建国記念日よ」
三人が顔を上げる。
「祭りがあるわ。王都中央広場で大規模な式典と夜市」
ソラが思い出す。
「花火も上がるな」
「ええ。魔導花火ね」
ルカの目が輝く。
「それだ!!」
ユイも少し笑う。
「確かに、あいつ祭りとかあんまり行かなそうだよね」
「だからこそ」
クレアが静かに言う。
「強制連行」
ソラが短く頷く。
「異論なし」
クレアが一瞬だけ迷い、言葉を続ける。
「……ただし」
三人の視線が集まる。
「昼間は、私は一緒にいられないわ」
ルカが首を傾げる。
「なんで?」
クレアは淡々と告げる。
「凱旋パレードに参加するからよ」
一瞬、空気が止まる。
ユイが目を見開く。
「え、あの王族席のやつ?」
「ええ」
クレアは表情を変えない。
「第二王女として、式典に出席する義務があるの」
ルカがぽかんとする。
「そうだった……お姫様だった……」
ソラは当然のように頷く。
「警護は?」
「騎士団が付くわ。問題ない」
クレアの声は落ち着いているが、どこか遠い。
王族としての顔。
学園での顔とは違う。
ユイがそっと言う。
「じゃあ、昼はクレア抜きで屋台巡り?」
「そうなるわね」
クレアは小さく笑う。
「夜の花火には間に合わせるわ。式典は日没前に終わるから」
ソラが短く言う。
「遅れるなよ」
「ええ、」
ルカが拳を握る。
「じゃあ決まり!昼は俺たちでレオンを引っ張り出す!夜は全員集合!」
ユイが紙に書く。
⸻
作戦名:レオン強制外出計画。
① 口実を作る
② 拒否権を与えない
③ 当日は全力で巻き込む
ルカが紙に雑に書き出す。
「屋台巡り!射的!食べ歩き!」
ユイが付け足す。
「あと、式典のパレード」
クレアが微笑む。
「建国演説は退屈だけど、夜は悪くないわ」
ソラは小さく言う。
「花火があるな」
短いが、意味は伝わる。
クレアが柔らかく頷く。
「……そうね」
レオンは、空を見上げるのが好きだった。
世界式を感じると言って。
ならば。
今はただ、光を見るだけでいい。
⸻
しばらくして。
扉が開く音。
全員が一瞬固まる。
レオンだった。
共同棟に来たのは久しぶりだ。
「……何してる」
ルカが即座に立つ。
「秘密会議!」
ユイが慌てて紙を隠す。
クレアは平然としている。
ソラはそのまま。
レオンはため息をつく。
「くだらなそうだな」
「くだらないよ」
ルカが即答する。
一瞬、沈黙。
だが――
ほんのわずかに。
レオンの口元が、動いた。
それを、誰も見逃さない。
クレアが何気なく言う。
「来週、空けておきなさい」
「は?」
「予定が入ったわ」
「勝手に決めるな」
ユイが肩をすくめる。
「拒否権なし」
ソラが付け足す。
「命令だ」
レオンは呆れた顔をする。
「なんの」
四人が同時に言う。
「「「「祭り」」」」
沈黙。
そして――
「……ガキかよ」
小さな呟き。
だが、完全拒否ではない。
それだけで十分だった。
暖炉の火が揺れる。
重かった空気が、少しだけ軽くなる。
世界式は不安定。
敵は動き出している。
だが今は。
仲間がいる。
来週、クレアレス建国記念日。
王都最大の祭り。
それが――
束の間の平穏になるのか。
それとも。
嵐の前触れになるのか。




