検証
後夜祭は、強制終了となった。
医療班が駆け回り、学園上層部が結界を再展開し、生徒たちは順次退避。
王都魔導騎士団が到着するまで、広間は封鎖。
撃ち抜かれた“はず”のアイネの血痕だけが、床に残った。
だが――
当の本人は消えている。
襲撃犯も、痕跡ごと。
⸻
事情聴取。
一人ずつ、別室へ。
「窓外からの高密度魔力射線」
「内部からの共鳴はなし」
「防御結界は強力な魔力で破られた形跡あり」
学園側も困惑していた。
ソラは淡々と証言する。
「狙撃は外部。だが内部に共犯がいる」
上層部の顔色が変わる。
クレアは冷静に構造分析を提出。
ユイは精神干渉の可能性を説明。
ルカは悔しさを隠せないまま拳を握る。
そして――
レオン。
彼はほとんど何も話さなかった。
質問に短く答えるだけ。
「術式変換は?」
「……使えません」
試験詠唱。
応答なし。
世界式接続、完全遮断。
確認された。
その事実が、公式記録に刻まれる。
⸻
深夜。
王都行きの馬車列。
帰還命令が出た。
警護付き。
交流どころではない。
窓の外は暗い。
静かな揺れ。
ルカは眠れずに天井を見ている。
ユイは黙って目を閉じている。
クレアは何度も今日の出来事を整理している。
ソラは外を見ている。
そしてレオンは――
一人、最後尾の馬車。
胸に手を当てる。
何もない。
呼びかけても、応答はない。
あの感覚。
世界と繋がる、あの確かな感触。
完全に消えている。
「……くそ」
小さく、絞り出す。
悔しさ。
怒り。
そして、
“用済み”という言葉。
脳裏に焼き付いて離れない。
だが。
ソラの言葉も、残っている。
“奪われるほどの存在だった”
拳を握る。
まだ終わっていない。
終わらせない。
⸻
王都の城壁が見える。
夜明け前。
空がわずかに白む。
王都に戻れば、報告。
処分。
監視。
もしかすると戦力外扱い。
それでも。
馬車が門をくぐる直前。
遠く、地平線の向こうで、
わずかな魔力振動が走る。
微細。
だが確実に。
ソラが目を細める。
「……もう動いてる」
どこかで。
術式変換を使った、
最初の“調整タペスト”が生成されようとしている。
王都の朝。
何事もなかったかのように鐘が鳴る。
だが空気は違う。
廊下では囁き声。
「術式変換が奪われたらしい」
「後夜祭襲撃って本当?」
視線が集まる。
レオンは無言で席に座る。
何も言わない。
何も起こらない。
それが逆に重い。
ソラは窓際から校庭を見る。
世界式の揺らぎは、まだ微弱。
だが消えてはいない。
クレアが静かに言う。
「視線がうるさいわね」
「放っておけ」
ソラは短く答える。
そのとき、扉が開く。
「ソラくん、クレアちゃん。シバ先生が呼んでるよ」
女子生徒に声をかけられた。
⸻
シバの研究室
魔導学園旧棟、最上階。
窓の少ない石造りの部屋。
術式陣が床一面に描かれている。
中央に立つのは、シバ。
居残りで解析を続けていたらしい。
白衣の袖をまくり、資料を片手に振り向く。
「来たか」
ソラが先に口を開く。
「事情は?」
「だいたい把握している」
シバは机に資料を置く。
「術式変換の奪取。人工タペスト生成。世界式過負荷崩壊計画」
クレアが目を細める。
「情報、早いねー」
「王都は思っている以上に耳が多い」
シバは歩きながら続ける。
「問題は“技術が実在する”ことだ」
床の術式陣を指す。
「人工タペスト生成は理論上可能だ。だが強度は不安定」
ソラが頷く。
「ランダム生成」
「そうだ」
シバの目が鋭くなる。
「だが術式変換が加われば話は別だ」
クレアが静かに言う。
「内部構造を書き換える」
「生成直後の構造位相に干渉すれば、高密度固定が可能になる」
部屋の空気が重くなる。
シバは窓の外を見る。
王都の街並み。
「奴らは近いうちに動く」
ソラが視線を向ける。
「なんでそう思う」
「力を手に入れた直後は、検証したくなるものだ」
淡々と。
「必ず“試す”」
クレアが低く言う。
「実験体は……」
「街か、郊外か、もしくは結界の薄い地点」
シバは振り返る。
「最初は小規模だ。だが確実に“今までと違う個体”が出る」
ソラの目が細まる。
「強制強化タペスト」
「そうだ」
沈黙。
シバはレオンの名前を出さない。
だが意味はわかっている。
「対抗策は?」
ソラが問うと、シバは一瞬考え、言う。
「術式変換の対抗手段はほぼない」
「だが、あくまですでにある魔法式の変換だ」
クレアが理解する。
「じゃあ、無から魔法式を書けないの……?」
「ああ。それができるのは、」
シバは机に置かれた古い資料を指し、一瞬、ソラと視線を交わせる。
だがそれ以上は言わない。
「とにかく」
シバは結論を出す。
「警戒態勢を維持しろ」
「奴らは必ず動く」
「そして動いた瞬間、こちらの時間は一気に加速する」
鐘が鳴る。
次の授業開始を告げる音。
日常は続く。
だがその裏で、
確実に戦争準備が始まっている。
王都の空は穏やかだ。
だが地下深く。
どこかで。
新しいタペストの生成陣が、ゆっくりと起動している。




