演舞
ヴァルディア王国魔導学園の中央大広間。
天井には巨大な魔導シャンデリア。
無数の光粒子が宙を漂い、星空のように輝いている。
「うわぁ……」
ルカが目を輝かせる。
「すご……お城みたい……!」
クレアはドレスの裾を整えながら言う。
「格式ある学園だもの。当然よ」
ユイは淡い水色のドレス姿で微笑む。
「ちょっと緊張するね」
ソラは正装に身を包みながらも、どこか落ち着かない。
「こういう場は苦手だ……」
レオンは黒を基調とした礼装。
普段よりも静かに見える。
「騒がしいな」
「雰囲気壊さないでよ!」
ルカが小突く。
今夜は後夜祭。
模擬戦を終えた両学園の交流を兼ねた舞踏会。
楽団の音色が流れ、広間は華やかに彩られている。
⸻
ソラはみんなと離れ、端でひとりドリンクを飲んでいた。
すると隣から話しかけられた。
「君が式を崩したのか」
声をかけてきたのは、カイン。
昼間の対戦相手だ。
ソラは少しだけ目を逸らす。
「偶然だ」
「偶然であれは無理だ」
カインは真剣だった。
「君は世界式を見ているのか?」
一瞬の沈黙。
ソラは淡々と答える。
「さあな」
「ただ、言うなら理解はしている、とだけ」
カインは息を吐く。
「また戦いたい」
「今度はもっと上手く構築する」
ソラは小さく頷く。
「受けて立つ」
静かな約束だった。
ソラとは少し離れた中央付近で、数人の女子に囲まれ話していたクレア。
「あなた、面白い戦い方をするのね」
エリシアがグラスを持って近づく。
クレアは優雅に微笑む。
「戦場は支配するものよ」
「でもあなたの結界、密度がすごかった」
エリシアは素直に言う。
「どうやってあんな圧縮を?」
「秘密」
クレアは軽く笑う。
だが少しだけ柔らかい声で続ける。
「でも、あなたの制圧力も悪くなかったわ」
互いに一礼。
敵ではなく、競争相手として。
一方ルカは、
すでに他校の生徒たちと盛り上がっている。
「え!?詠唱そんな短くしていいの!?」
「今度教えて!」
完全に友達を作っていた。
ユイがその様子を見てくすっと笑う。
「ルカらしいね」
広間の端。
レオンは外を眺め食事を食べていた。
アルトが歩み寄る。
「今日は完敗だ」
「だが、理解できた」
レオンはグラスを持ったまま答える。
「何を」
「君は魔法を壊しているんじゃない」
「再定義している」
レオンは少しだけ目を細める。
「大げさだ」
アルトは静かに言う。
「その力、いずれ大きな戦場を呼ぶ」
意味深な言葉。
レオンは返さない。
ただ、音楽に視線を向けた。
その少し離れた場所。
アイネは壁際に立っていた。
淡いドレス。
穏やかな笑顔。
誰と話しても自然で、違和感がない。
だがその視線は、常に五人を捉えている。
(精神状態、安定)
(結束、強)
今日一日で確信した。
術式変換を奪うには――
この絆ごと揺らさなければならない。
舞踏曲が変わり中央でペアが組まれ始める。
レオンに声をかけようとする生徒が何人かいるが、その前に。
アイネが歩き出す。
「レオンくん」
柔らかな声。
レオンが振り向く。
「どうした」
「一曲、どう?」
自然な誘い。
周囲も違和感を抱かない。
レオンは少し迷い、
「……ああ」
二人が中央へ向かう。
音楽が流れる。
ステップは滑らか。
視線が交わる。
アイネは微笑む。
「今日は本当にすごかった」
「そうか」
「レオンくんの術式変換、綺麗だったよ」
レオンの瞳がわずかに揺れる。
ほんの、わずかに。
その変化を。
アイネは見逃さなかった。
(揺らぎ確認)
ほんの僅か。
それを、アイネは確かに捉える。
十分ではない。
だが――
(潮時か、、)
次の瞬間。
異変は、外から来た。
窓の外。
一瞬だけ、空気が歪む。
ソラの目が反射的に上を向く。
「――!」
光。
細く、圧縮された魔力線。
一直線。
レオンに向かって――
いや、
その前に立っていたアイネを、撃ち抜いた。
衝撃。
赤い飛沫。
音楽が止まる。
アイネの身体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
「……え?」
ルカの声が震える。
レオンが反射的に抱き止める。
アイネの背中。
礼装が焼け焦げ、血が滲む。
「アイネ!」
クレアが叫ぶ。
ユイが駆け寄る。
ソラは窓の外を睨む。
「なんだ……!」
会場内の防御結界は展開されていたはず。
それを正確に撃ち抜く精度。
明らかに、狙撃。
レオンの手に血がつく。
温かい。
現実。
「しっかりしろ」
アイネの呼吸は浅い。
だが、まだある。
彼女は薄く目を開ける。
視線はレオンを捉える。
かすかな声。
「……ごめんね」
その言葉に。
レオンの瞳が揺れる。
はっきりと。
動揺。
怒り。
焦り。
レオンの感情が、微かに軋む。
ソラが気づく。
「レオン、落ち着け!」
しかし、レオンの精神は崩れ続ける。
クレアが叫ぶ。
「医療班を!」
ユイが必死に止血を試みる。
ルカは震えながら立ち尽くす。
広間は混乱。
悲鳴。
ざわめき。
夜は終わらない。
舞踏会は血に染まった。
その会場を窓越しに外からアバンが見ている。
「さあ、始めよう」




