到着
道中ではゴブリン以外に遭遇することもなく、俺たちは無事に王都へ辿り着いた。
「ほら、あれが王都よ」
シオンの指差す先には、巨大な城壁と、その内側にそびえる壮麗な建物群があった。
――王都クレアレス。
城門下の検査所を通過すると、一気に視界が開ける。
「うわ……すごい」
思わず声が漏れた。
整備された大通りを行き交う馬車、人の流れ、左右に並ぶ商店や家屋。センクスとは比べものにならない活気だ。前世の東京と比べても遜色ないほどの人口密度だった。
「ソラ、あの大きなお城が王城よ。王女様が住んでいるの」
目の前にそびえるのは、誰もが想像する“ファンタジーの城”そのもの。
その横の広場で馬車は停止した。
「到着しました。順番にお降りください」
指示に従って降車する。久しぶりに地面を踏みしめ、俺は王都の地に立った。
「ここが……王都」
肌で感じる空気は、センクスとはまるで違った。
周囲を見ると、他の馬車からも次々と人が降りてくる。これほど多くの人が一度に移動していることに、改めて驚かされた。
「シオン!ソラ!」
人混みの向こうからヨハンが駆け寄ってくる。
「怖くなかったか?」
「うん!すごかった!」
「ははは!お前はきっと、すごい魔術師になるぞ!」
そう言って頭を豪快に撫でられる。
正直、凄かったというのは嘘じゃない。だが俺が本当に気になっていたのは、あの魔法がどういう理屈で成り立っているのか、ということだった。
「俺はこれからギルドに討伐報告へ行くんだが……」
「じゃあ、ソラも一緒に行ってきたら?」
シオンが手を叩いて提案する。
「母さんは?」
「私は買い物に行くわ」
「よし、決まりだ!」
ヨハンは俺の手を掴み、街の中心へと歩き出した。
後ろではシオンが、にこやかに手を振っている。
――
「ここが王都クレアレス・ギルド本部だ」
「……ぎるど」
前世のイメージでは、荒くれ者が集まる怖い場所。
三歳児の俺が入ったら、絡まれて終わりそうな雰囲気だ。
「よう!久しぶりだな、アンナ!」
ヨハンが勢いよく扉を開けて叫ぶと、周囲の視線が一斉に集まる。
いかつい冒険者たちがこちらを睨むように見てきて、正直かなり怖い。
だが次の瞬間。
「ヨハンじゃねえか!」
「戻ってきたのか!」
一転して歓迎ムードになった。
「ああ。ソラ、こいつはマルゴンだ。パパの元パーティーメンバーだ」
スキンヘッドに巨大な斧を背負った男――マルゴン。
「おお、この子が噂の息子か!」
迫力に一瞬固まったが、慌てて名乗る。
「ぼ、僕はソラです。三歳です」
「三歳でそれか。すげえな」
周囲の冒険者たちから感心の声が上がった。
「ヨハンさん、今日はどんなご用件ですか?」
カウンターの女性――ネームプレートに『アンナ』と書かれたギルド受付が声をかける。
「道中でニューゴブリンを討伐した」
「ニューゴブリン!?あのBランクを?」
ギルド内がざわついた。
俺は改めて、ヨハンの凄さを実感する。
「個体の買取を頼みたい」
「承知しました。協会への手続きはこちらで行います」
「助かる」
その後、ヨハンは旧友たちとの会話に夢中になったため、俺は端の席でジュースを飲んでいた。
「よう、ヨハンの息子」
声をかけてきたのは、小柄だが年季の入ったドワーフの男だった。
「ソラでいいです」
「じゃあ隣、いいか」
俺が頷くと、重装備を鳴らしながら腰を下ろす。
「あいつはな……昔、超有名なハンターだった」
そう前置きして、ヨハンの過去を語り始めた。
――かつてヨハンは『ナルフェス』というパーティーのリーダーだった。
最高到達ランクはS。王女から勲章を授与されるほどの英雄。
だがある事件で、シオンの所属パーティーがギルドの測定ミスにより、実力不相応なモンスター討伐に送り込まれた。救援に向かったのがナルフェス。そこで二人は出会った。
しかし、戦闘後の後遺症でシオンは魔法を失い、パーティーを抜ける。
それに付き添うように、ヨハンも仲間の元を離れ、二人は結婚した。
「……ってわけだ。俺はシオンのパーティーの元リーダーだ。俺がちゃんとしてれば魔法を失わなかったのになんて考えちまうんだ。わりぃな子どもには難しいよな」
「僕から見たら幸せそうですよ。僕が、あの二人の子供でよかったと思えるほどに」
「……そうか」
男は静かに笑い、ヨハンの背中を見つめた。
「ソラ!」
ヨハンの声が響く。
「これから模擬戦やるんだ。見るか?」
過去よりも、今と未来の方が大事だ。
この世界で、俺が知るべきことはまだ山ほどある。
「うん!」




