協力
第二講堂前、退避通路。
異形の融合体タペストは、ゆっくりと腕を広げた。
六本の腕、三つの核、濁流のような魔力。
「来る!」
次の瞬間。
黒い魔弾が雨のように降る。
威力自体は、3種級ほどではない。
だが――
数が異常。
連射。
廊下が爆ぜる。
教師が前へて防御壁を展開する。
だが。
一撃、二撃、三撃――
休みなく叩き込まれる魔弾。
結界が軋む。
「ぐっ……!」
教師の一人が膝をつく。
直撃ではない。
だが、魔力が削られる。
圧倒的な供給量。
融合体は“止まらない”。
「このままじゃ、削り負ける……!」
ルカが叫ぶ。
ソラは冷静に観察していた。
(攻撃力は高くない)
だが、
(魔力量が異常)
中心棟から溢れる魔力を吸い上げている。
実質、弾切れなし。
教師がまた一人、弾き飛ばされる。
致命傷ではない。
だが、戦線が下がる。
そのとき、
「俺たちがやる」
レオンが前に出た。
静かに、迷いなく。
その隣にクレアが立つ。
「作戦は?」
レオンの目は融合体を捉えたまま。
「俺が弾を消す」
「一瞬でいい。隙を作る」
「その間に、お前の2種級を叩き込め」
クレアが頷く。
「わかったわ」
ソラが付け加える。
「胸部中央が主軸だから、あそこが崩れれば出力が落ちる」
融合体が再び腕を振り上げる。
三つの核が脈動。
一斉射。
廊下を埋め尽くす黒い魔弾。
「今だ」
レオンの指が動く。
術式変換。
魔弾の接続式を書き換える。
供給路を遮断。
位相を反転。
黒い魔弾が、空中で歪む。
次々と消え、やがて消滅。
融合体の動きが、一瞬止まる。
核の流れが乱れた。
「クレア!」
クレアはすでに詠唱に入っている。
四節。
二種級。
「――グレイス・アクレシア!」
空間に六本の巨大氷槍が展開。
回転。
加速。
一直線に胸部核へ。
融合体が腕を振るう。
だが、魔弾が出ない。
氷槍が、直撃する。
轟音。
胸部が凍結。
亀裂。
魔石にヒビ。
融合体が咆哮。
魔力が乱れ、出力が一段落ちる。
廊下の圧が軽くなった。
ルカが息を呑む。
「通った……!」
だが。
砕けない。
核はまだ生きている。
三つのうち、一つ。
残り二つが脈動を強める。
融合体が後退しながら魔力を再収束。
三核が同時に脈動する。
魔力が収束。
先ほどとは比べ物にならない密度。
「来るぞ……!」
教師の声。
六本の腕が一斉に前へ突き出される。
黒い奔流。
今度は“面”だった。
弾ではない。
廊下全体を呑み込む魔力の津波。
逃げ場はない。
クレアが歯を食いしばる。
「防御じゃ、足りない……!」
ソラの脳内で式が高速展開する。
(範囲が広すぎる。核を狙う隙がない)
その時。
レオンが一歩、前に出る。
「俺が全部消す」
クレアが振り向く。
「全部って――」
レオンは静かに答える。
「全部だ」
両手を広げる。
術式変換。
通常は“干渉して逸らす”技。
だが今回は違う。
供給路を辿る。
中心棟から流れ込む魔力。
融合体内部の循環。
それらを一括で書き換える。
魔力を“無属性の霧”へ分解。
「ぐっ……!」
血が滲む。
処理量が限界を超えている。
奔流が目前まで迫る。
「くっ……!」
視界が白くなる。
その時、
黒い奔流が――
消え、霧散。
廊下を満たしていた圧が、一瞬で空白になる。
融合体の核が大きく揺らぐ。
供給が断たれた。
魔力が流れない。
初めての、完全な“無”。
レオンの膝が崩れる。
「レオン!」
ソラが支える。
レオンはかすかに笑う。
「今だ……」
クレアの目が鋭くなる。
「いくぞ!」
教師も、生徒も、迷わない。
初級魔法。
1種級。
2種級。
無数の光が同時に走る。
ルカの風刃。
教師の雷撃。
クレアの二種級魔法。
ソラは両手を前へ。
詠唱はない。
全員の魔法が一直線に収束。
融合体の三核へ。
一斉着弾。
轟音。
胸部が砕け、背部は粉砕。腹部は亀裂。
三つの核が同時に砕け散る。
融合体が絶叫し、外殻が崩壊。
魔力が逆流。
光が爆ぜる。
そして――
静寂。
生徒たちは息を切らす。
ルカが震えながら言う。
「……勝った?」
クレアが振り返る。
レオンは意識を失いかけている。
魔力は空。
完全枯渇。
ソラが静かに呟く。
「無茶しすぎだ」
だが、その目は誇らしい。
生徒たちの目の前には巨大な漆黒のタペストが転がっていた。
その頃、生徒が誰もいない薄暗い教室に人影があった。
「あれー?もうやられちゃった?早いなー」
その少年は、椅子に座りながら、遠くのソラたちを眺めていた。
「あっ、そうか、まだ”前”だったね」
不敵な笑みを浮かべ、教室を後にした。




