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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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20/55

名前

ルカ・セーラ


王都学園一年生。12歳。

クレアのルームメイト。明るく人懐っこい性格で、場の空気を軽くするムードメーカー。恋愛話が好きで、クレアとソラの関係をよくからかっている。

模擬実技が終わったあと。


訓練場の熱気がまだ残る中、生徒たちは三々五々散っていく。


「……疲れた」


ソラは軽く首を回した。


ドラン戦のあと、レオンとクレアの試合を見ていたせいで、妙に神経が削られている。


(あれを“同学年”って括るのは無理だろ)


「ソラ」


背後から声。


振り向くと、クレアが立っていた。


さっきまでの戦闘の余韻はほとんど感じさせない、いつもの落ち着いた表情。


「怪我は?」


「してない。模擬だし」


「ドランくん、悔しそうだったわね」


「まあな」


少し間。


クレアが、ほんの少しだけ視線を逸らす。


「……一緒に、昼食どう?」


あまりに自然に言うものだから、

ソラは一瞬考えてしまった。


(ああ、そうか)


能力測定のあとも一緒に食べた。


今日も、流れとしてはおかしくない。


「ああ、」


クレアの表情が、ほんの少しだけ柔らぐ。


「じゃあ行きましょう」



王都学園の食堂は相変わらず騒がしい。


だが、今日は少し空気が違う。


「あれクレア様じゃない?」

「さっきレオンと戦ってたよな……」


視線は集まる。


ソラはトレーを持ちながら、小さく呟く。


「目立つな」


「慣れてるわ」


「俺は慣れてない」


「そのうち慣れる」


向かい合って座る。


ほんの少しだけ、周囲のざわめきが遠巻きになる。


「レオン、どう思った?」


クレアがスープを口にしながら言う。


「強い」


即答。


「上書き型は厄介だ」


「ソラなら?」


「……読む」


それだけ。


クレアは小さく笑う。


「らしいわね」


ソラはパンをちぎりながら言う。


「クレアこそ、本気だったろ」


「八割くらい」


「十分すぎるだろ」


少しだけ沈黙。


食堂のざわめきの中、二人の間だけ静かな空気が流れる。


「学園、どう?」


クレアが尋ねる。


「今のところ、退屈はしない」


「それはよかった」


「クレアは?」


クレアは少し考えてから答えた。


「……楽しいわ」


その一言が、やけに素直だった。


ソラは何も言わず、水を飲む。


「同じ場所にいるって、不思議ね」


クレアがぽつりと言う。


「昔は、違う立場だったのに」


「今も違うだろ」


「そうかしら?」


視線が合う。


「少なくとも、ここでは“同級生”よ」


ソラは一瞬だけ言葉に詰まり、

そして小さく頷いた。


「……そうだな」


クレアは満足そうに微笑む。


「じゃあ、これからも一緒に食べてもいい?」


「毎日じゃなければ」


「週三?」


「交渉か」


「王族だもの」


「関係ないだろ」


ふ、と笑いが漏れる。





消灯時間を少し過ぎた頃。


女子寮第一棟、二〇三号室。


「ねえええええ」


ベッドの上でうつ伏せになったルカが、クレアをじーっと見つめていた。


「……なに?」


クレアは本を閉じる。


「今日さ」


「うん」


「ソラくんとご飯食べてたよね?」


ぴたり、と空気が止まる。


「偶然」


「偶然で向かい合わせに座る?」


「ソラの隣がたまたま空いてたから」


「へぇ〜〜〜」


にやにや。


クレアは無言で本を机に置く。


「なにが言いたいの」


「仲良しだなーって思って!」


「普通よ」


「“普通”って言いながら名前呼びなんだ」


「……」


「私はまだ“ソラくん”って呼んでるのに〜?」


クレアの耳がほんの少し赤くなる。


「昔からの知り合いなだけ」


「えっ昔から!?」


ルカが飛び起きる。


「それ初耳なんだけど!?」


「言ってなかった?」


「言ってない!」


クレアはしまった、という顔をする。


ルカは目を輝かせた。


「なになに!? 幼なじみ!? 運命!? 王族と平民の禁断のやつ!?」


「勝手に物語にしないで」


「だって楽しそうじゃん!」


枕を抱えて転がるルカ。


「いいなあ〜私もそういう関係ほしい〜」


「……何の関係」


「名前で呼び合ってるやつ!」


クレアは小さくため息をつく。


「あなたも呼べばいいでしょう」


「えー、なんか距離感バグってる感じするんだよねあの人」


「そう?」


「うん。でも優しいよね」


それは素直な声だった。


「ドランくんに絡まれてたときも、怒ってる感じじゃなかったし」


クレアは少しだけ微笑む。


「そういう人よ」


「やっぱ好きなんじゃん」


「違う」


即答。


ルカは布団の上でごろごろしながら笑う。


「はいはい。そういうことにしとく」


「……」


「でもさ」


ルカは天井を見上げた。


「学園って思ったより楽しいね」


「まだ一日目よ?」


「濃すぎない? 一日目でランク一位と二位のバトルだよ?」


クレアは思い出して、少しだけ目を細める。


「……確かに」


「レオンくんもやばいし」


「ええ」


「でも私はソラくんの方が気になるなー」


「どうして?」


「なんか静かなのに、ちゃんといる感じ」


クレアは顔を少しむすっとさせながら、一瞬だけ言葉を探す。


「そうね」


「あとクレアが見るとき、ちょっとだけ目が優しい」


「……ルカ?」


「はい?」


「寝なさい」


「はーい」


ルカは素直に布団に潜る。


「でもさー」


「まだあるの?」


「明日も一緒に食べるの?」


クレアは数秒沈黙し、視線を逸らした。


「……分からないわ」


「うわ、行く気あるやつだ」


「もう寝なさい!」


「はいはい!」


数分後。


規則正しい寝息が聞こえ始める。


クレアは窓の外を見る。


王都の灯りが、静かに揺れている。


(同じ学年にした理由)


それは、誰にも言わなくていい。


ルカの言葉を思い出し、少しだけ頬が緩む。


(仲良し、ね)


悪くない響きだった。


女子寮の夜は、少しだけ騒がしく、

そして穏やかに更けていった。


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