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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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18/57

模擬

教室に入った瞬間、空気が少しざわついた。


理由は分かっている。

新入生が一斉に集められ、能力測定の結果が半端に広まった直後だからだ。


(……嫌な予感しかしない)


席に着いて、教科書を机に置く。

後ろの方では、誰かがひそひそと俺の名前を出している気がした。


「なあ」


来た。


声の主は、机を蹴るようにして俺の横に立った少年だった。

短い金髪、やたら自信満々な表情。

取り巻きが二人。


(はいはい)


「お前がソラ、だっけ?」


「そうだけど」


「能力測定、控えめにやってたよな?」


いきなり核心を突いてくる。


(うわ、観察してるタイプか。めんどくさ)


「別に。普通にやっただけ」


「へぇ?」


金髪はにやっと笑った。


「でもさ、魔力量も演算速度も、数値の出方おかしかったぞ?」


周囲の視線が、じわっと集まる。


(あー、これ完全にあれだ)


心の中でため息をつく。


(入学直後、クラスの悪ガキに絡まれるやつ。

 ……テンプレか? これはテンプレ展開なのか?)


思わず口に出そうになって、ギリギリで飲み込んだ。


「で?」


俺は顔を上げる。


「それで、何が言いたい?」


「決まってんだろ」


金髪が机に手をつく。


「実力、見せてみろよ」


(はい来た)


脳内で、どこかのラノベのページがめくられる音がした。


(能力隠してる主人公に、イキったやつが絡む→

 軽く返り討ち→クラスで一目置かれる、の流れ)


(……いや、だめだめだめ)


ここで目立つのは最悪だ。


「嫌だ」


即答すると、金髪が一瞬固まった。


「……は?」


「嫌だって言った」


「なんでだよ」


「面倒だから」


ざわっ、と教室が揺れる。


(あ、これ挑発って受け取られたな)


金髪のこめかみがピクッと動いた。


「お前……俺を馬鹿にしてんのか?」


(してないとは言ってない)


「してない。ただ、合理的じゃない」


「は?」


「初日から揉めると、教師に目を付けられる。

 学園生活の自由度が下がる」


淡々と説明する。


「俺にメリットがない」


沈黙。


取り巻きの一人が、焦ったように口を挟む。


「な、なに理屈こねてんだよ! 怖いだけだろ!」


(あ、助け舟ありがとう)


「怖いなら、なおさらやらない」


「……っ!」


金髪が一歩前に出た、その時。


「そこまで」


低い声が割り込んだ。


振り向くと、教室の後方からユイが立ち上がっていた。


「授業、始まる」


短い一言。

でも、妙に空気が締まる。


金髪は舌打ちをして、俺を睨みつけた。


「覚えてろよ」


「覚えられるほどのこと、してない」


(やめろ俺、余計な一言)


金髪は何も言わず、自分の席に戻っていった。


教室のざわめきが、少しずつ収まる。


俺は椅子に深く座り直した。


(……生き延びた)


横から、小声が飛んでくる。


「テンプレ」


「言うな」


ユイは小さく肩をすくめた。


「でも、ああいうのは序盤だけ」


「そうだといい」


前を見ると、教師が入ってくるところだった。


(学園生活、波乱含みだな)


でも――


能力測定。

クレアとの再会。

そして、今の一件。


(……退屈はしなさそうだ)


そう思った瞬間、なぜか少しだけ、口元が緩んだ。


王都学園での日常は、

どうやら“平穏”とは別の方向に転がり始めているらしい。


(まあ)


(テンプレなら、先はだいたい読める)


教室の空気が落ち着いたと思った、その直後。


「では次に、模擬実技を行う」


教壇に立った教官が、淡々と告げた。


「王都学園では、座学と並行して実戦を重視する。

 本日は簡易結界下での一対一だ」





模擬実技の開始を告げる鐘が鳴った。


円形の訓練場。

結界が張られ、生徒同士が一対一で戦うための簡易闘技場だ。


「次、ソラ・オクタスと――ドラン・ハイム」


呼ばれた名前に、場内がわずかにざわつく。


(……来たな)


向かいに立つのは、さっき絡んできた金髪の少年。

ドランは肩を鳴らし、余裕たっぷりに笑っていた。


「逃げ場ないぞ、優等生」


「模擬実技だぞ」


「だからいいんだろ?」


教師の合図で、二人は向かい合う。


その瞬間。


ソラの視界が、静かに“切り替わった”。


――この時点のソラ・オクタスは、

まだ魔法を自在に使えるわけではない。


だが。


魔法が発動する前段階――

詠唱される前、魔力が形を持つ前。


その「魔法式の構造」を、ソラは読むことができる。3歳の頃、魔法を始めて見てから、ずっとこの眼を使いこなす練習をしてきた。


ドランの体表を流れる魔力。

それが集まり、回路を描き、組み上がっていく過程。


(……火属性。単純構成。直線射出型)


それだけではない。


この世界を構成する根幹――

世界式。


その一部である「力の方向」。いわゆるベクトルの方向も、

ソラの目には薄く、矢印のように映っていた。


(重心、踏み込み、肩の角度……)


魔法だけじゃない。


剣も、拳も、跳躍も。


「力がどこへ向かうか」が分かれば、

次に何が起きるかは――ほぼ確定する。


それは予知ではない。

未来視でもない。


ただの――理解だ。


「行くぞ!」


ドランが魔力を解放する。


「業火なり、形を持て!」


詠唱の途中。


(……右)


ソラは、半歩だけ左へずれた。


次の瞬間、

火球が通過した空間が、熱で揺らぐ。


「なっ――!?」


外れたことに驚くドラン。


(次は、距離を詰める)


予想通り、ドランは魔法を切り上げ、突っ込んでくる。

拳に魔力を乗せた、単純な突進。


(速いけど……雑)


ソラは後退しない。


一歩、前。


ドランの踏み込みと、

力の向きが交差する“空白”へ滑り込む。


「っ!?」


拳が空を切る。


ソラは肘を軽く当て、体勢を崩す。

力は使っていない。

方向を、少し変えただけだ。


ドランがよろける。


(……これ以上はまずい)


倒せる。

でも、倒したら目立つ。


だから。


ソラはあえて距離を取り、構える。


「……なんで当たらねえ」


ドランの声に、焦りが混じる。


「当て方が、分かりやすいから」


「ふざけんな!」


もう一度、突進。


(最後)


次の瞬間を読み、

ソラは足を払う。


派手な音と共に、ドランが地面に転がった。


「勝負あり!」


教師の声が響く。


結界が解除され、ざわめきが広がる。


ソラは深く息を吐いた。


(……やりすぎてない、よな)


ドランは起き上がり、悔しそうに歯を食いしばる。

だが、もう何も言わなかった。


観客席の端で、

レオンが静かに目を細めていた。


(……今のは、技術でも反射でもない)


評価が、ほんの少しだけ書き換えられる。


そして――

別の場所で、それを見ていた銀髪の少女が、ぽつりと呟いた。


「……相変わらず、無茶するねー」


クレアは、小さく微笑った。

そのクレアを見て俺も笑顔が溢れた。

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