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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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17/55

理由

能力測定が終わった瞬間、ソラは心の底から息を吐いた。


「……疲れた」


測定自体は難しくなかった。

魔力量、制御精度、演算速度。

どれも「全力を出さないようにする」という、妙な気疲れがあっただけだ。


周囲では、新入生たちが結果を見て一喜一憂している。


「魔力量A!?やばくね?」

「制御が低い……才能ないのかな……」


そんな声を聞き流しながら、ソラは腹を押さえた。


(昼、行くか)


考えることをやめ、流れに乗って学園食堂へ向かう。



王都学園の食堂は、もはや「学食」の規模ではなかった。

高い天井、長いテーブル、料理の香りが混ざり合っている。


ソラはトレーを持ち、空いている席を探していた。


「……ん?」


視界の端に、見覚えのある銀色の髪が入る。


(まさか)


目を向けると、そこには堂々と席に座り、優雅にスープを飲んでいる少女がいた。


「……クレア?」


その名前を口にした瞬間、少女がぴくりと反応する。


「ソラ!」


ぱっと顔を上げ、次の瞬間には満面の笑みだった。


「やっぱり!能力測定終わったんだね」


「いや、それは……っていうか」


ソラは固まったまま、クレアを見下ろす。


「なんで、ここにいるんだ?」


クレアはきょとんとした顔をしてから、首を傾げた。


「同じ学園だから?」


「そうじゃなくて……同じ“学年”」


ソラの言葉に、クレアは一瞬だけ間を置いた。


そして、何でもないことのように言う。


「入学、ずらしたの」


「……は?」


「本当なら、もう二年前に入れたんだけどね」


スプーンを置き、クレアはソラを見る。


「ソラと同じ学年になりたかったから」


あまりにも自然な声音だった。


ソラは言葉を失う。


「……それだけ?」


「うん、それだけ」


当たり前のように頷くクレア。


「一緒に入学した方が、楽しいでしょ?」


ソラは視線を逸らし、トレーを持つ手に力を込めた。


「……王族の判断としては、軽すぎないか」


「公には“学園制度の研究”って理由にしてるから大丈夫」


さらっととんでもないことを言う。


クレアは少しだけ声を落とし、悪戯っぽく笑った。


「でも、本当の理由は秘密」


「今ここで言ってるけどな」


「ソラだからいいの」


そう言われて、ソラは返す言葉を失った。


結局、向かいの席に座る。


しばらく、二人で無言のまま食事を進めた。


(……変わってないな)


昔と同じ、マイペースで、強引で、でもどこか優しい。


しばらく、食器の音だけが続いた。


スープを飲み干したクレアが、ふと視線を落とす。


「……ソラ」


「ん?」


「会ってない間のこと、聞いてもいい?」


その一言で、時間が少しだけ過去に引き戻される。


「別に、大したことは」


ソラはそう前置きしてから、言葉を選んだ。


「最初の数年は、ひたすら勉強してた。

この世界の文字、魔法理論、歴史……理解しないと生き残れない気がして」


「うん」


「魔法式を見ると、勝手に“構造”が見えるんだ。

だから、周りからは変な子扱いだった」


フォークを動かしながら、淡々と語る。


「友達は……まあ、いなかったな。必要なかったし」


嘘ではない。

でも、全部でもない。


クレアは何も言わず、静かに聞いている。


「で、気づいたら12歳。学園に入る年齢になってた」


そこで一度、言葉が切れた。


「……クレアは?」


少しだけ間があってから、クレアは微笑んだ。


「私はね」


指先でカップをなぞりながら、ゆっくり話し始める。


「王族としての生活。会議、勉強、訓練。

毎日、誰かに囲まれてるのに、ずっと一人だった」


「……」


「周りは“女王”としての私しか見ないから」


そこでクレアは、ちらっとソラを見る。


「ソラだけだったよ。

名前で呼んでくれて、普通に話してくれたの」


一瞬、食堂のざわめきが遠のく。


「だから、ずっと思ってた」


クレアは、少しだけ照れたように言った。


「また会えるなら、同じ場所で、同じ立場がいいって」


ソラは視線を逸らす。


「……それで入学をずらした、と」


「うん」


短く、でも迷いのない返事。


「変かな?」


「いや」


少し考えてから、ソラは答えた。


「合理的ではない。でも……」


言葉を探し、続ける。


「悪くない選択だと思う」


その瞬間、クレアの表情がぱっと明るくなった。


「ほんと?」


「ああ」


小さく頷く。


「少なくとも、俺は……助かってる」


それは本心だった。


能力測定の緊張も、学園の空気も。

この席では、少しだけ軽くなる。


クレアは満足そうに微笑った。


「じゃあ、これからは一緒だね」


「……ああ」


しばらくしてクレアが口を開いた。


「学園生活、楽しみ?」


少し考えてから、ソラは答えた。


「……まあ、悪くはなさそうだ」


クレアは嬉しそうに微笑った。


「よかった」


その笑顔を見て、ソラは思う。


(やっぱり、同じ学年にいる理由は——)


聞かなくても、もう分かっていた。


静かで、穏やかな昼の食堂。

王都学園での生活は、こうして静かに動き出した。

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