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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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16/55

測定

翌日。


王都学園・実技棟前は、朝から妙に空気が張りつめていた。


「……なんか、昨日より静かじゃない?」


ソラが小声で言うと、隣を歩くユイが短く答える。


「今日は能力測定」


「ああ……」


納得しかない。


実技棟は広く、天井が高い。

床一面に描かれた魔法陣が、薄く光を帯びている。


「これ、全員やるの?」


「うん」


「やだなぁ……」


「逃げられない」


「だよね」


新入生たちは列を作り、一人ずつ呼ばれていく。


魔力測定。

詠唱精度。

世界式への書き込み量。


数字と階級が、その場で簡単に示される。


「初級、安定」


「1種級、基礎到達」


「……2種級、確認」


小さなどよめき。


(……やっぱ、すごい奴は最初から違うな)


ソラは、自分の番が近づくにつれて、逆に落ち着いてきていた。


(使い方、何も分かってないしな)


前世の知識はある。

だが、この世界の魔法を“理解している”とは言えない。


名前を呼ばれる。


「ソラ・オクタス」


一歩、前へ。


魔法陣の中央に立つと、ひやりとした感覚が足元から上がってきた。


「初級魔法を」


教員の声。


「……《ノーブル》」


小さな光が灯る。


魔法陣が反応し、水晶が淡く輝く。


一瞬だけ、

本当に一瞬だけ、

光が揺れた気がした。


だが、すぐに落ち着く。


「初級、問題なし」


「魔力総量……平均」


周囲の反応はない。

期待も、失望もない。


(……まあ、そうだよな)


列に戻ると、ユイがちらっとこちらを見る。


「普通?」


「普通」


「それが一番、安全」


「学園基準こわ」


その時だった。


視界の端で、見覚えのある金色が揺れた。


(……?)


思わず目を向ける。


少し離れた位置。

教員に囲まれた、小柄な少女。


淡い金色の髪。

澄んだ青い目。


(……クレア?)


一瞬、目が合った。


ほんの一瞬だけ、驚いたように目を見開いて――

次の瞬間、彼女は小さく笑った。


(……なんでいるんだ?)


クレアは俺の2歳上の今は3年生のはずだ。

1年生の能力測定にある理由がわからない。


クレアの番になる。


「クレア・――」


姓は告げられない。

周囲が一瞬、ざわつく。


(やっぱ、特別枠か)


クレアは落ち着いた足取りで魔法陣に立つ。


「初級魔法」


「《ファルーム》」


小さな火が灯る。


だが、その制御が異常に正確だった。


「……初級、極めて高精度」


教員の声が、わずかに硬くなる。


「魔力総量……年齢相応、だが――」


言葉を切る。


「制御力が突出しているわね」


クレアは、何も言わずに一礼して戻ってきた。


すれ違いざま、ほんの小さく囁く。


「……あとで」


「……うん」


それだけ。

俺は少し戸惑った。


ユイが、ぼそっと言う。


「知り合い?」


「……まあ」


「普通じゃない知り合いか?」


「否定しづらいな」


そして。


「次、――レオン・ヴァルク」


空気が、変わった。


ざわめきが、すっと消える。


レオンは無言で魔法陣に立つ。


姿勢。呼吸。視線。

どれも無駄がない。


「魔法を」


「――1種級魔法」


周囲が、息を呑む。


短い詠唱。


光が、走る。


魔法陣全体が、はっきりと反応した。


「……1種級、完成度高」


「魔力総量――」


数値が表示される。


一瞬の沈黙。


「……2種級相当」


どよめきが、抑えきれずに広がる。


(……やっぱ、別格だ)


ソラは、そう思った。


強い。

ただそれだけじゃない。


(“分かってる”)


魔法を。

世界を。

そして、自分の立ち位置を。


レオンは結果に何の反応も示さず、静かに列に戻る。


その途中、一瞬だけ――

本当に偶然みたいに、ソラの方を見る。


目が、合う。


ほんの一瞬。


だが、レオンの視線が、わずかに止まった。


(……?)


次の瞬間には、もう興味を失ったように前を向いていた。


(……気のせい、か)


能力測定は続く。


ユイは全体的に安定しており、俺とクレアの間ほどの能力値だった。


だが、ソラの意識はもう別のところにあった。


クレア。

レオン。

そして、自分。


(……差、でかいな)


それでも、不思議と焦りはなかった。


むしろ――


(ここから、なんだ)


そんな予感だけが、胸に残っていた。

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