表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/55

番外編:王女の一日

王城の朝は、いつも同じ音から始まる。


重厚な扉が静かに開く音。

カーテンが引かれ、光が差し込む音。


「クレア様、お目覚めのお時間です」


落ち着いた侍女の声が、部屋に響く。


「……もう、そんな時間?」


クレアはベッドの中で小さく身じろぎした。

以前なら、ここで布団に顔をうずめていただろう。


「……起きる」


そう言って、ゆっくりと身体を起こす。


侍女は一瞬だけ目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。


「かしこまりました。お支度をいたします」


鏡の前に座る。

櫛が髪を梳き、整えられていく。


映る自分の姿を、クレアはじっと見つめた。


(……前より、背が伸びた)


顔つきも、少し変わった気がする。

まだ幼さは残っているけれど、確実に“子供”ではなくなり始めている。


「王女様、本日は午前に歴史と政治、午後に魔法理論の講義がございます」


「……うん、分かってる」


自然に返事が出る。

それができるようになったのは、ここ数年の変化だった。


朝食の席でも、以前のようにぼんやりはしない。


話される内容を聞き、考え、覚える。

自分がこの場所にいる意味を、少しずつ理解し始めていた。


講義室。


広い机。

高い天井。


「この条約は、王都だけでなく周辺都市との関係にも影響します」


講師の言葉を、クレアは真剣に聞いていた。


(……王都だけの話じゃない)


手を上げる。


「その条約は、地方都市側には不利になりませんか?」


一瞬、室内が静まった。


講師は驚いたように目を見開き、それから頷く。


「鋭いですね、クレア様。確かに、その点が問題視されています」


胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。


(できた)


ほんの一歩。

でも、確かに前へ進んだ感覚。


昼休み。


中庭のベンチに腰掛け、風を感じる。

噴水の音が、静かに響いている。


(……ソラ)


理由もなく、名前が浮かんだ。


王都の街。

屋台。

走って、笑って、怒られて。


(また、来るって言ったもんね)


小さく微笑む。


あの時間は短かった。

でも、クレアにとっては“外の世界”そのものだった。


「……私も、守られるだけじゃだめだよね」


誰に聞かせるでもなく、呟く。


午後は魔法理論。


「世界式に記述される魔法は、術者の認識と強く結びついています」


難しい話が続く。


以前なら、途中で集中が切れていただろう。

今は違う。


(分からないなら、覚える)


(覚えられないなら、考える)


それを教えてくれたのが誰なのか、クレア自身ははっきり意識していなかった。


ただ――

あの少年の背中が、なぜか浮かぶ。


夕方。


剣術訓練場。


「構えが甘い」


護衛騎士の声が飛ぶ。


「……はい」


汗をかきながら、剣を握る。


力はまだ足りない。

体力も、大人には及ばない。


それでも。


「もう一度、お願いします」


自分から言うようになった。


訓練が終わる頃には、腕が震えていた。


部屋に戻り、椅子に腰を下ろす。


「……つかれた」


ぽつりと呟く。


でも、不思議と嫌じゃない。


(ちゃんと、前に進んでる)


夜。


部屋の窓から、王都の灯りを眺める。


遠くで、人の声がする。

馬車の音がする。


(あの日の街も、こんな感じだったな)


胸に手を当てる。


(次に会うときは)


(ちゃんと、大丈夫な私でいたい)


廊下の柱の影。


誰にも気づかれない場所で、黒衣の男が静かに立っていた。


シバ・クエス。


視線の先には、窓辺に立つ少女。


(……確実に、変わってきている)


守られるだけだった王女は、

自分で立とうとし始めている。


(まだ幼い。だが――)


「十分だ」


小さく呟く。


クレアは知らない。

自分が、世界にとって特別な位置にいることを。


ただ一つ、心に決めているのは――


「……強くなる」


王城の夜は静かだ。


そして、少女は今日も一歩、未来へ近づいていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ