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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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14/55

入学

王都学園の正門前は、朝から騒がしかった。


「うわ……人、多……」


思わず呟くと、同じタイミングで隣から声がした。


「な。祭りかと思った」


振り向くと、赤茶の短い髪の少年が立っていた。

軽そうな雰囲気で、でも目はやけに落ち着いている。


「迷った?」


「うん」


「俺も。正門デカすぎだろ」


「それな」


ほんの一言二言。

名前も聞かない、どうでもいい雑談。


それだけで終わるはずだった。


鐘が鳴り、新入生は講堂へ誘導される。

流れに押され、いつの間にかその少年とは別れていた。


(まあ、こんなもんだよな)


王都学園。

一生に一度の入学式。

すぐに、周りの情報量に意識が持っていかれる。


入学式が始まり、現生徒会長からの言葉、教員代表からの言葉、順調に進んでいった。


講堂が静まり返る。


学園長が一歩下がり、壇上を譲った。


赤茶の髪の少年が立つ。


(……あ)


正門前で少し話した、あの少年だった。


姿勢を正し、少しだけ間を置いてから、彼は口を開いた。


「――新入生代表、レオン・ヴァルクです」


落ち着いた声。

よく通る。


「本日、私たちは王都学園に入学しました」


視線は前だけを向いている。

誰か一人を見ることもなく、講堂全体を見据えていた。


「この学園には、力を持つ者が集められます」


「ですが」


一拍。


「力は、誇るためのものではありません」


ざわり、と空気が揺れる。


「誰かを見下すためでも、

 自分が特別だと証明するためでもない」


淡々と、言葉を積み上げていく。


「ここにいる全員が、

 何かしら“できる”から集められた」


「だからこそ」


「比べる意味はない」


声の調子は変わらない。

熱くもなく、冷たくもない。


「勝つことより、

 まずは生き残ることを考えた方がいい」


少しだけ、間。


「王都学園は安全です」


「ですが、世界はそうじゃない」


そこだけ、わずかに目が鋭くなる。


「ここで学ぶのは、

 強くなる方法だけではありません」


「守る理由と、

 覚悟を持つことだと、私は考えます」


最後に、軽く頭を下げた。


「これから数年間、同じ学園で学ぶ仲間として」


「よろしくお願いします」


拍手が起こる。


大きく、均一な拍手。


(……すごいな)


ソラは素直にそう思った。


(でも、さっきのやつとは別人みたいだ)


正門前では、ただの「迷った新入生」だったのに。


レオンは壇上を降り、そのまま学園長の横を通り過ぎる。


こちらを見ることもない。

目も合わない。


(……だよな)


さっき少し話しただけ。

覚えているわけもない。


人の流れに紛れ、レオンの姿はすぐに見えなくなった。


(別に、関わることもないか)


そう思った、その時。


なぜか胸の奥に、ほんの小さな違和感が残った。


理由は分からない。

ただ――


(あいつ、強い)


それだけは、はっきりしていた。


王都学園の入学式が終わり、新入生たちはそれぞれの寮へ向かっていた。


入学式も無事終わり、俺は寮へ向かっていた。

広すぎる敷地。

どこを見ても同じような建物。


(……迷うな、これ)


案の定、ソラは立ち止まっていた。


「第三棟……第三棟……」


同じ文字が何度も目に入るのに、入口が見つからない。


「……絶対わざとだろ、この配置」


ぶつぶつ言いながら歩いていると、同じ制服の生徒とすれ違った。


黒髪で、少し眠そうな目。

歩き方がやけに静かだ。


「……あの」


ソラが声をかける。


「第三棟って、どこですか」


黒髪の少年は足を止め、少しだけソラを見る。


「……そこ、右」


「え?」


「今の角、曲がるとある」


「……あ、ほんとだ」


気づかなかった。

というか、完全に見落としてた。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


それだけ言って、黒髪の少年はまた歩き出そうとする。


「あ、ちょっと待って!」


ソラが慌てて呼び止める。


「もしかして……同じ棟?」


少年は一瞬考えてから、軽くうなずいた。


「たぶん」


「部屋番号は?」


「207」


「俺もだ!」


その瞬間、少年の足が止まった。


「……同室か」


「よろしく!」


元気よく手を差し出すと、少し間を置いてから、少年はその手を握った。


「……ユイ」


「ソラ!」


「……知ってる」


「え?」


「さっき、名簿で見た」


「そっちか!」


第三棟は外観より中が広かった。

長い廊下に、同じ形の扉が並んでいる。


207号室。


扉を開けると、二人部屋。

左右にベッド、中央に机。


「……普通だな」


ユイが淡々と呟く。


「普通が一番だよ」


「そう?」


「そう」


ソラはベッドに荷物を置き、ぐるっと部屋を見回す。


「どっち使う?」


「窓側」


「即答!?」


「朝、起きやすい」


「俺起きるの苦手なんだけど……」


「じゃあ、起こす」


「優しいな!?」


ユイは少しだけ首を傾げた。


「……普通じゃない?」


「いや、普通じゃない」


それでも、なんだか不思議と安心感があった。


少し沈黙。


ソラは思い出したように聞く。


「ユイはさ、入学生代表のやつ、どう思った?」


「……レオン?」


「知ってるんだ」


「有名」


短く、それだけ。


「強そうだったよな」


「強い」


即答だった。


「断言するね」


「無駄な動きがない」


「……へぇ」


(やっぱり、見るとこ違うな)


ソラが感心していると、ユイがちらっと視線を向ける。


「ソラは?」


「ん?」


「変」


「いきなり!?」


「悪い意味じゃない」


「フォローになってない!」


ユイは少し考えてから続ける。


「……空気が、違う」


「それ、褒めてる?」


「たぶん」


「たぶんかよ!」


思わず笑ってしまう。


ユイは不思議そうに一瞬だけソラを見てから、視線を逸らした。


「……まあ、同室だし」


「うん」


「しばらく、よろしく」


「こちらこそ!」


その言葉に、ユイは小さくうなずいた。


(……この部屋、悪くないかも)


ソラはベッドに腰を下ろし、天井を見上げる。


王都学園。

新しい生活。

新しい人間関係。


さっき壇上に立っていたレオンの姿が、ふと脳裏をよぎる。


(……まだ、始まったばかりだ)


静かな部屋で、二人の時間が流れ始めていた。


この何気ない同室生活が、

やがてソラの運命を大きく左右することを――


今は、誰も知らなかった。

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