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fORmulArS decipher(フォーミュラーズディサイファー)  作者: 澄田 葵伊
王都クレアレス編

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12/55

成長

王都を離れてからの日々は、驚くほど静かだった。


あの夜の追手も、王城も、シバの存在も。

すべてが夢だったかのように、俺たちは元の街での生活に戻った。


朝は決まった時間に起きて、

父の訓練を眺め、母の手伝いをして、

時々、街の子どもたちと遊ぶ。


普通の毎日。


少なくとも――表面上は。


俺が四歳になった頃、初めて気づいた。


魔法の詠唱を聞くと、

「音」より先に「構造」が頭に入ってくる。


ヨハンが使う初級魔法。

詠唱の短い、誰でも使えるもの。


それを聞いた瞬間、

脳内で勝手に“整理”されてしまう。


(……ああ、こう書き込んでるのか)


気づいた時には、背筋が冷えた。


誰にも言わなかった。

言えば、戻れなくなる気がしたから。


五歳。


クレアから、時々手紙が届くようになった。


短い文。

王城の生活。

堅苦しい日常への小さな愚痴。


そこに、名前は書かれていない。

でも、字を見れば分かる。


(……元気そうだ)


それだけで、十分だった。


六歳。


街の外れで、小規模なタペストの群れが出た。


討伐に出るヨハンを、

シオンと一緒に見送る。


その背中を見ていると、

世界が、ほんの一瞬だけ“ズレた”。


距離。

位置。

時間。


説明できない違和感。


でも次の瞬間には、何事もなかったように戻る。


(……気のせい、だよな)


そう思い込むしかなかった。


七歳。


街の子どもたちの中で、

俺は少しだけ浮いていた。


力が強いわけじゃない。

足が速いわけでもない。


ただ、危ない場所に入る前に、

「分かってしまう」。


嫌な予感が、外れない。


それが原因で、

「怖がり」と言われることもあった。


(……別に、間違ってないんだけどな)


八歳。


シバが、再び現れた。


といっても、堂々とではない。


ある日、ふと気づくと、

街の高い建物の影に立っている。


目が合うと、軽くうなずくだけ。


話しかけてはこない。

でも、確実に“見ている”。


(……観察対象、続行中ってやつか)


なぜか、それが嫌じゃなかった。


九歳。


魔法の階級制度を、きちんと教わる。


初級。

一種級。

二種級。


詠唱の節が増えるほど、

世界式に書き込まれる量が増える。


(……溜まるよな、これ)


誰も口にしないことを、

俺だけが意識していた。


その考えを、すぐに頭の奥へ押し込める。


まだ、触れてはいけない。


十歳。


クレアと、久しぶりに王都で会った。


護衛付き。

短時間。


でも、目が合った瞬間に分かった。


(……変わってない)


彼女は王女らしくなっていたが、

笑い方は、あの頃のままだった。


「大きくなったね」


「そっちこそ」


他愛ない会話。


でも、別れ際に言われた一言が、胸に残る。


「……もうすぐ、だね」


何が、とは聞かなかった。


十一歳。


俺は、自分が“普通ではない”と確信し始めていた。


魔法を使っていないのに、

世界の綻びが見える瞬間がある。


誰も気づかないズレ。

誰も疑問に思わない違和感。


(……これ、いつまで誤魔化せる?)


そして、十二歳になる年。


王都から、正式な通知が届いた。


王都学園。

入学許可。


それは、未来への扉であり、

同時に――逃げ場のない場所でもあった。


「……行くのか」


ヨハンが、静かに言う。


「行くよ」


答えは、最初から決まっていた。


世界が俺を見始めているなら、

俺も、世界を見返すしかない。


こうして、

静かな幼少期は終わる。


これはまだ、始まりの前。


王都学園という舞台で、

俺の“役割”が、はっきりと輪郭を持ち始める――。

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