第5話 偽装結婚の行方は
数日後、正式な裁判のもと、リード公爵は永久に牢獄に入れられることとなった。
ジルベールは七年前の裁きが冤罪であったことが認められて、復権と領地へ戻ることを許されたが、彼はそれを断った。
辺境のあの村が好きだから、という彼らしい言葉だった。
「よかったの、元のお屋敷に戻らなくて」
「ああ、いいんだ。父にはあの村が合っていたらしい」
「そっか……」
リリィは自宅への道を父親と歩いていると、道の先にアルベルトが立っているのが見えた。
同じくアルベルトに気づいたジルベールは、リリィに告げる。
「さあ、ニーナの墓に全て終わったと報告しに行ってこようかな」
そう言って彼は丘の上へ歩いていった。
(もう、お父様ったら……)
きっと二人きりで話ができるように気を遣ったのだろう。
リリィはアルベルトのもとへと駆けだした。
「陛下!」
「リリィ、話せるか」
「もちろんです」
「すまなかった。リード公爵を裁くためとはいえ、あの場にいるのは昔の辛い記憶を思い出させたのではないか?」
「いえ、むしろきちんと終わらせられたこと、陛下とお父様に感謝しております」
すると、彼は胸ポケットから一枚の紙を差し出す。
そこには「婚姻届」と書かれていた。
「これ……」
「リード公爵がことを請求に進めて、お前を娶るようならこれを使おうと思っていた。だが、使わずに済んでよかった。お前と私はまだ結婚していない。強引に進めて悪かった」
アルベルトは頭を下げた。
「そんなっ! 陛下が頭を下げることでは……」
リリィによって顔をあげられた彼は、彼女の腕を引いて抱きしめた。
「悪い、もう一度だけ、こうさせてほしい……」
「陛下……」
数秒の後、アルベルトはリリィを解放して言う。
「お前はこれで自由だ。この村で暮らしてもいい。好いた男がいるなら見合いの計らいもしよう。お前のためならなんでもする。希望を言ってくれ」
リリィはその言葉を聞いて黙り込む。
(陛下は冷徹なんて言われているけど、本当は優しいお方。きっと、そんな方に好いてもらえて幸せ……もし、もしわがままを言っていいなら……)
リリィは遠慮がちにアルベルトに告げる。
「私も陛下を好きになってもいいですか?」
「え……?」
「陛下との再会は最悪でした。でも、あなたが傍にいると不思議と安心するんです。それに、あなたをもっと知りたいって思いました」
「リリィ……」
「あなたと正真正銘の妻になれるように、あなたにもっと好きになってもらえるように頑張りたいです」
その言葉を聞いたアルベルトは、彼女をもう一度抱きしめて耳元で囁く。
「もう私はお前に捕らわれている、これ以上好きにさせて殺すつもりか」
(お母様、このくらいのわがままはいいでしょうか? 新しい希望を持って人生を歩んでみたいと思えました)
彼女が皇妃になるのも、そう遠くない未来の話──。
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