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第4話 反撃の狼煙と真実

 数週間後、リリィは父親と共に、皇帝アルベルトとの謁見の間へ来ていた。

 そこには、同じく皇帝に呼ばれたリード公爵もいる。


「陛下、これはどういうことですかな。なぜ罪人のフィデラル子爵がこちらに?」


 リード公爵は蔑むような目でリリィの父親ジルベールを眺めている。

 すると、アルベルトが口を開く。


「フィデラル子爵がどうしてもこの場を設けてほしいというのでな。なにやら私に訴えたいことがあると」


 そう言ってアルベルトはジルベールに目をやった。

 ジルベールは頷くと、訴えを始める。


「皇帝陛下、七年前に私は冤罪によって辺境の地へと追いやられました。私の不正の証拠とされる文書も発見されたとのことですが、私はそのような不正を働いておりません」


 ジルベールの訴えを聞くと、リード公爵は呆れたようにため息をついて愚痴をこぼす。


「なんと、冤罪と言いますか。あんなにも証拠が揃っていましたのに。なんせ、あなたの署名つきの税の不正文書に隣国との不正取引の文書、数々揃っておりました。陛下、信じてはなりませんぞ。これは悪人の戯言です!」


 リード公爵の発言に、リリィの心は押しつぶされそうだった。


(にやにやしてる……。お父様は不正なんてするはずない。こんなやつに私の家族は酷い目にあわされた……。それに、お母様の命を……)


 怒りで体を震わせているリリィに、隣のジルベールが呟く。


「安心しなさい。父と、そして陛下を信じなさい」


 その言葉にリリィはハッとした。

 彼女がアルベルトに視線を向けると、じっとリリィを見ていた。

 まるで、自分を信じろというように──。


「さあ、話はこれだけですかな。私は忙しいので、これで失礼しますよ」


 そう言って退席しようとするリード公爵を衛兵が止めた。


「なんだね、お前たち!」

「リード公爵。話はこれからなんですよ。もう少し私の訴えにお付き合いくださいませ」


 そう言ってジルベールは持っていた資料を掲げる。


「これが何かお分かりですか?」

「なっ! それは……」


 ジルベールが持っていたのは、七年前のジルベールの不正の証拠とされた文書だった。


「どうしてお前が持っている!?」

「あるお方からこれをいただきましてね。おや、ここの署名の欄。私の名前が書いてありますが、綴りがよく見ると違うようです」


 その言葉を聞いたリード公爵は怪訝そうな顔をした。

 彼の様子を見たジルベールは、なおも言葉を続ける。


「私のジルベールは確かに『Gilbert』ですが、正式文書の署名では『Jilbert』と記載をするようにしているのですよ。そうでしたな、皇帝陛下」

「ああ、フィデラル子爵の文書署名の申請は『Jilbert』だ」

「なっ!」


 リード公爵は目を大きく見開いた。

 リリィから見ても明らかに彼は焦り始めている。


「つまり、不正の文書とされるものは全て私が署名したものではなく、誰かが私に罪をかぶせるためにしたものだとわかります」

「そ、そうかもしれませんな。しかし、それが私と何の関係が……?」


 リード公爵はあくまで自分が実行したものではないと逃げようとしている。

 しかし、そんな彼の罪を暴いたのはアルベルトだった。


「リード公爵。実は生前の父から預かっていたものがありましてね。七年前にフィデラル子爵に追放の命を下したのは父ですが、その裁きは脅されておこなったという手紙が出てきたのですよ」


 その言葉にリード公爵の目つきが変わる。

 アルベルトはにやりと笑った後、その手紙をリード公爵へ向けて見せた。


「ここには私、アルベルトの命を握られている旨と裁きへの謝罪が書かれていました。ほかでもない、リード公爵に脅されてやったと」

「そ、それは……」

「この後、私からフィデラル子爵に密命を出していろいろ調べてもらいました。リード公爵の密輸入行為、そして人身売買、そしてフィデラル子爵の元領地での税不正など、悪事が次々に発見されましたよ」

「なっ! そ、そんなことでたらめだ! 証拠なんて揃えられるわけない」

「証拠ならここにきちんとフィデラル子爵から贈られてきた、調査資料と不正の証拠がありますよ」


 アルベルトはそう言ってリード公爵に見せる。


「ど、どうして……」

「なぜ私の元へ届けられたのか。監視をしていたのに……。そう思ったのでしょう? リード公爵」


 その言葉にリード公爵は何も言えず黙ってしまう。

 すると、アルベルトが突然、リリィに問いかける。


「リリィ嬢」

「は、はい!」

「あなたはこの三年間、毎週行っている場所がありましたよね?」

「え?」


 そう言われて考えてみる。 

 そして、その瞬間、リリィの中で全ての糸が繋がった。


(そうか、だからお父様は……)


 リリィは真っすぐアルベルトを見ると、大きな声で返答する。


「はい、教会にうちで獲れた野菜や果物を渡しにいっていました」

「その時に一緒に持って行っていたものがあったな?」

「ありました。父から預かったシスターへの手紙です」


 リード公爵は初めて知った事実に驚き、目を泳がせている。


「リード公爵。あなたは不正だけでなく、フィデラル子爵夫人と前皇帝の殺害に関与している」


 その瞬間、リード公爵の表情が変わった。

 何かを考え込んでいるような、そんな顔をしている。

 アルベルトはそのことも分かった上で、発言を続けた。


「前王妃がいない。そう思いましたね? 王妃は生きていますよ。昏睡状態から奇跡的に意識を取り戻して、今はシスターをしております。そう、先ほどのリリィ嬢がいつも野菜を届けていた彼女ですよ」


(シスターが、王妃様!?)


 隠された事実を知り、リリィも驚く。


「前王妃から毒殺したのが、あなたであると断定し、そしてフィデラル子爵の件は、当時実行役だった野盗を見つけて吐かせましたよ。さあ、これで言い逃れはできません」


 アルベルトのその言葉を合図に、衛兵がリード公爵を捕らえる。


「ま、待ってください陛下! これは何かの陰謀です! そう、フィデラル子爵にはめられているのです!」


 その瞬間、リリィがリード公爵に近づき、彼の頬を力強く叩いた。


「あなたはどれだけの人を不幸にすれば気が済むの!? どれだけお父様が苦しい思いをして……お母様を私たちから奪って、思い通りにならないからって人傷つけて楽しいですか!? 満足でしたか!?」


 涙を流しながらリリィは訴えた。

 アルベルトは玉座を降りると、彼女のもとへと向かい、優しく抱きしめる。


「陛下……」

「フィデラル子爵を失脚させただけでは飽き足らず、あなたは母に似たリリィを妻にしようと企んでいた。『メアリの頭脳』を手に入れられて一石二鳥ですからね。最後には私を追い落として皇帝にでもなるつもりでしたか。あなたごときがなれるわけがないですよ。弟は返していただきます。そして……」


 アルベルトは最後に言った。


「リリィは私の大切な人です。彼女をここまで傷つけた罪は、しっかりと牢獄で償ってもらいますよ、リード公爵」


 アルベルトの言葉に全ての終わりを感じたのか、リード公爵はその場にへたり込んだ。

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