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第2話 冷徹皇帝の求婚

「何か、私にご用でしょうか」


 彼女はアルベルトから距離をとり、お墓の前に立った。

 リリィの剣幕を感じ取り、アルベルトは小さく笑う。


「お前は相変わらず気が強い」

「とんでもございません」


 警戒心をあげて低い声でリリィは言った。

 フィデラル家は子爵位ではあるものの王族とゆかりが深い家系のため、二人は社交界や王宮でよく顔を合わせていたのだ。

 そんな彼女の態度は想定内だったのか、表情を崩さない。

 そうして、彼は彼女に手を差し伸べて言う。


「リリィ、お前が運命の相手だ。俺の花嫁になれ」


 その言葉にリリィは大きく目を開いた。

 この男は何を言っているのだろうか。

 自分の母親を殺し、そして一つの家族の幸せな生活を奪っておきながら、何と図々しいことだろうか、と彼女は思った。いや、図々しいどころではない。


「お断りいたします」


 リリィはきっぱりとアルベルトにそう告げた。

 すると、彼はこれまた彼女の発言を想定していたのか、間髪入れずに告げる。


「お前が俺に嫁がなければ、お前の父親と弟は死ぬだろう」

「なっ!」


 どういうことが理解できないまま、リリィの心臓は飛び跳ねた。


「あなたは、私の母親だけではなく、お父様と、マリスまで殺すというの?」


 あまりの怒りで、リリィは拳を強く握りしめて唇を噛みしめた。

 そんな彼女との距離を一気に詰めて、アルベルトは彼女の耳元で囁く。


「お前が花嫁に来れば、二人を助けてやれる」


 その言葉を聞いてもなお、リリィは彼への警戒を解かない。


「そんな言葉を、誰が信じるというの?」


 リリィは怒りを含んだ声でそう告げた。

 そうすると、アルベルトが真剣な表情をしてリリィに言う。


「リード公爵がお前を娶る予定らしい」

「リード公爵が……?」


 リード公爵家は、この国で最も権力と財力を持った家柄といっても過言ではない。

 由緒正しき家柄であり、王族からの信頼も厚いとリリィは聞いている。

 しかし、彼から出た言葉は彼女にとって意外なものだった。


「リード公爵がお前の母親を殺した本当の犯人だ」

「え……」


 何を言われているのか、リリィの頭は理解できなかった。

 自分の母親の仇は、目の前にいるアルベルトではないのか。


「リード公爵は、政界で力をつけてきていたフィデラル子爵が気に入らなかった。さらに、君の母親を大層気に入ってしつこく言い寄って、妾にならないかと誘った。君の母親はもちろん断ったが、それに腹を立てたリード公爵が七年前のあの日、屋敷に火を放った」


 アルベルトの告白は、にわかには信じがたいものであったが、リリィには一つ心当たりがあった。


(もしかして、お母様が亡くなる少し前に訪問してきてたあの人が、リード公爵?)


 リリィはアルベルトに問いかける。


「リード公爵とは、白髪交じりの男性で……頬に傷のある、お方ですか?」


 リリィの問いにアルベルトは頷いた。


「リード公爵は我が弟を人質として王族を支配し、乗っ取ろうとしている」

「まさか……そんなことが」


 アルベルトは目を細めて苦々しい表情を浮かべた。

 そうして、彼はゆっくりと口を開いた。


「リード公爵は後妻に、とお前をもらいうけに来るだろう。そうなれば、お前の父が持つ『メアリの頭脳』もリード公爵のものとなる。そして、弟は同じように人質として彼の屋敷に向かうことになろう」


 『メアリの頭脳』とは、フィデラル子爵家代々の当主を呼ぶ名である。

 代々、フィデラル家の人間は学者として名を馳せたメアリ・フィデラルの子孫として、類稀なる頭の良さを持って生まれてくるのだ。

 リード公爵はこの『メアリの頭脳』を持つフィデラル家の人間を取り込んで、自分のものにしようとしていた。


(本当に、そんなことがあり得るの……?)


 リリィを一気に不安が襲う。

 彼女は少し俯いて考えると、頭をあげてアルベルトを見た。


「あなたに嫁げば、この未来、変えられるの?」

「ああ。約束しよう。お前が私の花嫁になれば、私は必ずリード公爵への裁きを下し、お前の母親の仇を取る」

「利害関係の一致した、結婚ってことね」

「ああ」


 リリィはちらりと母親のお墓に視線をやり、そして墓石を撫でた。


(お母様、お父様とマリスのことは私が守ります)


 リリィは振り返ると、アルベルトの蒼い瞳をしっかりと見つめて告げる。


「陛下、私をあなたの妻としてくださいませ」


 彼は頷いて、その手を取った。

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