第190話おまけ やっぱり先生酷くない?
始めは、リアムに交際を認めてもらいたかっただけで。
あれこれやっているうちにわけがわからないほど拗れてしまったが、丸く収まった……ということでいいのだろうか。
「……いやでもさ、やっぱり先生酷くない?」
ブレアにとっては収まっていないようで、不満そうな顔でリアムを見た。
「まだ言ってるんですか……。」
作業の手を止めずに返すリアムはあまり気に留めていなさそうだ。
ルークはブレアの横でおろおろしているが、こういう時は気にしたら負けだと教えてあげたい。
「言うよ。僕が何度も大丈夫だって言ってるのにダメの一点張りって、兄としてどうなの。」
ブレアもいつも通りレポートか何かを書いていたのだが、とうとうペンを置いてしまった。
「私の問いにしっかり答えられなかったブレアがいけないんでしょう。」
「言えても許可するつもりなかったでしょ。わかってるから。」
むっとますます眉を寄せるブレアだが、リアムは相変わらず涼しい顔だ。
「先輩、問いって何ですか?」
さすがに気になってしまったようで、ルークはすかさず聞いた。
「……君には関係ないでしょ。」
「無理ありますよ!」
交際を否定されたことについてならルークだって関係あるはずだ。
ぷいと目をそらしたブレアは、どうして関係ないの一点張りなのだ。
「大事な話もしていきたいって言ったじゃないですか!」
「僕のペースでいいって先生が言った。」
「先生ー!何年かかると思いますか!?」
ブレアのペースなんて、申し訳ないが待てる自信がない。
「さあ?お2人次第でしょうね。」
本当に知りたいならブレアに聞いてほしい。
というか、自分で早く話して貰えるように促せばいいだろう。
「先輩がのんびりしすぎて結局何も聞かされないまま年取って、俺の死期にため込んでた秘密暴露しだしたらどうしよう……。」
ルークのよくわからない発言に、2人は揃って首を傾げる。
呆れたような表情が心なしか似ていた。
心配するのは勝手だが、方向性がかなりズレている。
ズレすぎて全くわからない。
「頭おかしいんじゃないの。でも死ぬまで一緒にいようとする姿勢は褒めてあげよう。」
「まずどうしてそんな状況になったんでしょうね。」
想像力が豊かというレベルを超えているのではないか。
リアムからすると、ちょっと嬉しそうにしているブレア含め心配になる。
「あーもう、変人のせいで脱線したじゃないか。先生、僕に意見するならせめて理屈を通してくれないかな。意味ない質問したと思ったら急に意見変えて慰めてくるとか頭悪いでしょ。」
「あなたが可愛らしいから揶揄いたくなるのかもしれませんねぇ。」
「うっざ。」
ブレアはぎゅっと顔を顰めて吐き捨てるように言う。
こんなにストレートな悪態を聞いたのはルークでも久しぶりかもしれない。
「可愛い義妹が心配だったんですよ。」
「はいはい、シスコンキモいキモい。そういうこと言ったら流されると思ってるんでしょ。いつまでも僕が単純な子供だと思っちゃって。」
「実際そうでしょう?」
これだけ責められても何事もないように手元を見れるリアムがすごい。
ルークならにやけているだろう。
というか今もにやけている。安全圏から見るブレアの怒り顔、良い。
「は?」
「その可愛らしい表情、すごく幼く見えますよ。」
我慢できなかったようで、すっと立ち上がったブレアはリアムのすぐ横まで歩いていく。
わざと雑にリアムの手を押さえつけて作業をやめさせた。
「見てもない癖に。僕さっき理屈を通してって言ったよね?人の目を見て話しなさいって怒ったの誰だっけ。」
「大変失礼しました。子供は大人と目を合わせると話しづらいでしょうから、配慮したつもりだったのですが。」
「ふざけないで!僕子供じゃないから!」
ブレアは相当怒っているようだが、リアムは余裕の笑みでブレアを見つめている。
その態度にもイラっときたブレアが再び口を開こうとすると、ぐいと抱くように引寄せられた。
「不思議ですねー、少し揺さぶると話がズレるのは何故でしょう?」
「……さぁ?」
ようやく視線の合った黒い瞳が至近距離まで近づき、ブレアはふいと目を逸らした。
わざとらしく首を傾げたリアムがブレアの頬に触れ、顔の向きを直す。
「会話中はこちらを見なさい。あなたが言ったのですから理屈は通していただきたいです。」
「ぁ……いや、その……。」
なんとか視線を合わせないようにしているのか、ブレアの目が泳ぎまくっている。
さっきまでの威勢は嘘のようにしおらしく、みるみる顔が真っ赤に染まっていく。
「何が不満だったんですか?大人なら拗ねてないでちゃんと言えますねー?」
「……り、りぁむが――」
残念ながら目は合わないままだが、ブレアが細い声を零す。
「――先生が僕じゃなくて彼の心配ばっかりしてたの、気に入らなかっ、た。」
「はい、よく言えました。」
リアムは嬉しそうな笑顔でぱっと手を離した。
ようやく解放されたというのに、ブレアは離れるどころがぎゅっとリアムに抱き着く。
「勿論、ブレアのことも心配していましたよ。」
「うぅ、せんせぇのいじわる。」
優しく頭を撫でながら言うと、ブレアは甘えた声で呻いた。
普段散々煽ってくるブレアに折れてあげているのだから、たまには仕返しも悪くないだろう。
「もしブレアのペースが待てないのなら、こうして乱せばいいんですよ。」
完全に甘えモードに入っているブレアを撫でながら、途中から黙り込んでいたルークの様子を伺う。
なにやら深刻そうな顔をしているが、また浮気とかなんとか言うのだろうか。
「先輩、酷いです……。」
リアムの手が止まったからか、ブレアがようやく顔をあげてルークを見る。
抱き着いたままなのが気になるが、とりあえず顔はあげた。
そんなブレアと目を合わせると、ルークはばっと手で顔を覆ってしまった。
「あのイケメンな攻め方がリアム先生譲りだったなんて聞いてません!」
「……そこ?」
色々言いたいところがあるが、ルークの少ないリソースはそこに持っていかれたらしい。
リアムの仕草が積極的な時のブレアと酷似しすぎていて驚いたのだ。
「先輩はそういうのが好きなんですか?俺も頑張った方がいいですか?というか本当はリアム先生が好きなんじゃないですかー!?」
「ちょっとルーク、落ち着いて……!」
本気で錯乱しているルークを慌てて止めるが、不安は拭いきれないらしい。
君だけだ、と何度言わせれば理解してくれるんだろう。
「……先生、僕の好意ってどうしたら彼に伝わるの。」
「そこを頑張って考えるのがあなたの恋愛でしょう?ひとつだけアドバイスがあるとすれば……とりあえず抱擁を解いたらどうですか。」
自分の好意を見つめなおすにあたって、ルークの前でもしっかり気持ちを言葉にした。
大事なこともひとまず1つちゃんと話したはずなのだが。
いまいちちゃんと受けとられていない気がするのは何故だろうか。




