金の斧は伐れぬもの?(タマゲッターハウス:異世界恋愛の怪)
このお話は『小説を読もう!』『小説家になろう』の全20ジャンルに1話ずつ投稿する短編連作です。
舞台や登場人物は別ですが、全ての話に化け猫屋敷?が登場します。
ある年老いた粉屋が跡継ぎを決めようとして、三人の弟子達に言いました。
『一番りっぱな馬を連れてきた者を後継者とする』
この話は柴野いずみ様主催の『ざまぁ企画』参加作品です。
町はずれの川の側に、一軒の古ぼけた水車小屋がありました。
そこでは年寄りの親方が三人の弟子とともに、粉ひきの仕事をしていました。
川の流れが水車を回し、石臼を動かします。
その石臼が小麦などを粉にしてくれます。
ある日、親方は弟子たちに言いました。
「三人とも、ここを出て他の場所で働いてきなさい。一番上等の馬を連れかえった者に、この水車小屋を譲ろう」
そして次の日、弟子たち三人は旅に出ることにしました。
三番目のもっとも若い弟子は、ハンスという名前でした。
他の二人よりも仕事が遅く、兄弟子たちからは『のろまのハンス』と呼ばれていました。
ハンスは仕事ができないというより、ていねい過ぎたようです。
兄弟子たちは、ハンスに水車小屋を継がせるのは嫌でした。
彼らに言わせると、ハンスはとにかく真面目すぎて面白くありません。
あんなのが上司になれば、仕事をサボることもできなくなりそう。
そこで兄弟子たちは町から遠く離れた山にハンスを連れて行き、夜は洞穴で寝ることにしました。
穴の奥で寝ているハンスを残して、兄弟子たちは行ってしまいました。
ハンスが帰り道を知らないことがわかっていて、置き去りにしたのです。
「あれ? 兄さんたち、どこへ行ったんだろう?」
洞窟を出たハンスは、困りました。
どちらへ行けばいいかわからないのです。
やみくもに歩くのはまずい。
そう考えたハンスは、木々に目印をつけながら森を歩きました、
しばらく森の中を行くと、一匹のネコがハンスの前に出てきました。
黒ブチの模様の白い子ネコです。
その子ネコは後足にきれいなブーツをはいており、二本足で立ち上がるとハンスを声をかけました。
「こんにちは、お兄さん。こんな森で何をしているのかしら」
「やあ、ネコさん。僕は町で働いて、立派な馬を買わないといけないんだ。町へはどっちにいけばいいかわかるかい?」
ハンスがきくと、ネコは少し考えて答えました。
「それなら、あたしのうちで働かない? あたしの名前はルナ。住み込みで仕事をしてくれたら、すごくいい馬を差し上げるわ」
「それは面白い。僕でよければ働かせてくれ。僕はハンスってんだ」
ハンスが子ネコについていくと、森の中に立派なお屋敷がありました。
お屋敷にはネコばかりがいました。
子ネコのルナとハンスが食卓につくと、めしつかいのネコたちが料理をならべていきました。
ハンスがめったに食べることのない、上等の料理です。
さらに三匹のネコの音楽隊がチェロとバイオリン、それにラッパで演奏を始めました。
ルナはハンスに言いました。
「ハンス、あたしと踊ってよ」
「ごめんね、ルナ。僕は今まで踊ったことがないんだ。もしも僕が君の足を踏んだら、ブーツを汚しちゃうよ」
「それは残念ね」
* * * * * *
次の日から、ハンスは働き始めました。
チェロをもったネコが、ハンスに薪割りを指示しました。
音楽ネコは金の斧と銀の斧、それに鉄の斧を出して、「どれでも好きな道具を使いなさい」と言いました。
ハンスは全部を試してみて、鉄の斧で薪割りをしました。
次の日も、また次の日もハンスは薪を割りました。
「ハンスはちゃんとやっているかしら」
少し離れたところから、ルナがチェロネコにききました。
「彼はしっかりやってますよ。金の斧を持ち出して逃げてれば、馬なんかいくらでも買えるのに。真面目ですねぇ」
しばらくたって、バイオリンをもったネコがハンスに草刈りを指示しました。
音楽ネコは金の鎌と銀の鎌、それに鉄の鎌を出して、「どれでも好きな道具を使いなさい」と言いました。
ハンスは全部を試してみて、鉄の鎌で草刈りをしました。
次の日も、また次の日もハンスは草を刈りました。
「ハンスはちゃんとやっているかしら」
少し離れたところから、ルナがバイオリンネコにききました。
「彼はしっかりやってますよ。もうすこし休んでもいいと思いますが、真面目ですねぇ」
またしばらくたって、ラッパをもったネコがハンスに家づくりを指示しました。
ハンスは鉄の斧で木を倒し、丸木をくみ上げて家を作り始めました。
次の日も、また次の日もハンスは家づくりをしていました。
「ハンスはちゃんとやっているかしら」
少し離れたところから、ルナがラッパネコにききました。
「彼はしっかりやってますよ。ハンスさんは昨日、森の中でケガをしたウサギさんに会いました。薬草をとってきて手当をしてました。やさしい人ですね」
ラッパネコは、もっとよく効く薬草のことをハンスに教えてあげました。
ハンスはネコからいろいろな薬草をことを学びました。
やがて丸木小屋が完成しました。
ルナは小屋がちゃんとできていることを確認し、ハンスに言いました。
「ハンス。よくやってくれたわね。約束どおり、馬をあげるわ。三日たったら届けるから。さきに水車小屋に戻って待っててね」
ルナは水車小屋までの地図と、コインの入った袋を渡しました。
「え? こんなに? これだったら馬が買えるかも」
「だめよ。もっといい馬を用意するから、あなたは服を買いなさい。あなたの服、いいかげんボロボロよ」
ルナの屋敷にハンスに合う服がなかったので、最初にあった時から同じ服をきていました。
ハンスはネコ達に見送られて、帰路につきました。
とちゅうでハンスは町に立ち寄りました。
しかしハンスは、服を買えませんでした。
病気で働けなくなった人や、サイフを落として困っている人などにも、気前よくお金をあげてしまったのです。
すっからかんの状態でハンスは水車小屋に帰りつきました。
兄弟子たちは馬を連れ帰っていました。一頭は目が悪く、もう一頭は足が悪いようでした。
「おいハンス。おまえの馬はどうした? 馬がいないのに帰ってきたのか?」
ハンスは、馬は三日後に届けてもらうことを話しましたが、兄弟子たちも親方も信じてくれません。
ボロボロの服を着たハンスは家に入れてもらえず、外のガチョウ小屋で寝ることになりました。
約束の日の前まで、ハンスは粉屋の仕事を手伝いつつ、兄弟子たちの馬の世話もやりました。
目の悪い馬は、前の飼い主がろくにエサをやってなかったようです。
ハンスは水車小屋で余った粉や薬草などを馬に与えました。
足の悪い馬は、前の飼い主が働かせすぎたようです。
ハンスは馬の足についた蹄鉄のゆがみを直し、ぬらした布で馬の脚を冷やしました。
そして約束の日、六頭立ての上等の馬車がやってきました。
親方とハンス、それに兄弟子たちが見ていると、水車小屋の前で馬車がとまりました。
馬車の扉があき、中からお姫さまが降りてきました。
黒ブチ模様の美しい白いドレスを着ています。
足にはきれいなブーツをはいていました。
大きさこそ違いますが、そのブーツの色や形はハンスが見覚えのあるものでした。
「もしかしてルナ?」
「正解です。ハンス。あたしたちは魔女の呪いでネコの姿にされていたの。あなたのおかげで元の姿に戻ることができたわ。約束の馬を渡しましょう。でも、その前にお召し物を変えた方がいいですね。ききましたよ。あの町でのハンスのご活躍を」
お姫様が合図をすると、楽器を背負った三人のメイドさんがハンスを捕まえて、森の中にひっぱっていきました。
やがて着替えを済ませたハンスが出てくると、親方たちはびっくりしました。
装いを変えたハンスはまるで王子様のようにりっぱに見えました。
親方は、ルナに言われて兄弟子たちの馬をみせました。
ハンスの世話で少しよくなりましたが、目と足は完治していないようです。
ルナはメイドたちに言って、七頭目の馬をつれてこさせました。
体格も毛並みもりっぱな馬です。
親方は「水車小屋はハンスにつがせよう」と言いました。
兄弟子たちはがっかりとしました。
自分たちの馬ではぜんぜんかないません。
それにさんざん意地悪をした自分たちを、ハンスはきっと許さないでしょう。
ルナはハンスの側に行くと、そっと耳うちしました。
「あなたが水車小屋は継がなくていいじゃない。あたしといっしょに来てよ。あの森で暮らそう?」
ハンスは少し考えて、兄弟子たちに言いました。
「水車小屋は僕が継ぐけど、仕事は兄さんたちに任せたい。しっかり働いておくれ」
こうして、親方は仕事を引退してのんびりと暮らすことになりました。
兄弟子たちは真面目に働くしかありませんでした。
さぼろうとすると、楽器をもったメイドさんに叱られるからです。
ハンスとルナを乗せた馬車があの森に帰ると、ハンスの建てた丸木小屋がすっかりと変わっていました。
どんな魔法が働いたのか、まるでお城のような屋敷になっていたのです。
屋敷に入ったハンスは、ルナに手を差し出しました。
「ルナ、僕と踊ってもらえませんか?」
「ええ、よろこんで」
三人のメイドが音楽を奏でる中、若い二人は踊り始めました。
グリム童話『貧しい粉ひきと子猫』をベースに、いくつかのグリム童話ネタを合わせました。
ざまぁ成分が控えめかも。
『ざまぁ企画』の他の方の作品は、この下の方でリンクしています。