合流 2
気持ちはとてもよくわかる。
俺だって未だに自分が攻略対象中最低最悪のクソ野郎で、死亡率No. 1の高際義樹とは信じたくない。
夢であれ。夢であれよ。
今でもそう思うよ。
でも、暗闇に染まった空を映す窓ガラスに映るその姿は、高際義樹そのもの。
記憶も、高際義樹として生きてきたものが簡単に思い出せる。
だから生き延びるために、行動しなければ。
ゲーム通りだとしても、ゲーム通りにならないために。
この二人だって死亡エンドやゾンビ化はあるんだし。
っていうか、無理にキャンプ場を脱出せず、このビルで一晩過ごすってのはどうだ?
うん、ダメだな。
この施設が組織のものだとして、外部に連絡を取れないまま水と食料のない環境で男女四人が立て篭って来るはずのない助けを待つ——。
真っ先に脱水で死ぬ。
「状況もよくわからないし、無駄に動き回って体力を使うのはまずいと思う。スマホの電池も万が一の時のために無駄遣いしない方がいい。まずは交代で水と食料を探さないか? 二人はここで、他の生存者を待っていてくれ。俺が他の部屋を探してみるよ」
よし、まずは救急箱を手に入れよう。
ゲーム内だと救急箱一つしか発見できなかったけど、ゲーム開始前の今なら他にもなにか道具が見つけられるかもしれない。
墨野と真嶋は顔を見合わせて、「そうだな」とひとまずは納得してくれた。
……っていうか、ど素人の俺にこんな指示出させんなや現役消防士!
お前本当に消防士か!?
「じゃあ行ってくるよ。一時間くらいで戻る。もしビルの周りにゾンビじゃない人間がいたら、よろしくな」
「あ、ああ、任されたぜ」
「気をつけて」
調理室を出て、スマホの電源を一度落とす。
窓から差し込む満月のおかげで、スマホの光源を使わずとも十分だ。
スマホのバッテリーは節約しないといけない。
なぜなら——
高際義樹死亡フラグその1!
スマホをチラチラチラチラ見まくって、スマホの光に反応したゾンビに襲われゾンビ化または死亡!
高際義樹死亡フラグその2!
スマホを使いすぎて真っ先に電池切れを起こして、助けを呼べずにゾンビに襲われゾンビ化または死亡!
高際義樹死亡フラグその3!
ストーリーの中で「ゾンビに襲われたという証拠を残そう」という話になるが一人だけ電池切れになっていて白い目で見られしれっと見捨てられてゾンビに襲われゾンビ化または死亡!
高際義樹死亡フラグその4!
最初に家族が襲われているのを興味本位で撮影したことがバレて白い目で見られしれっと見捨てられてゾンビに襲われゾンビ化または死亡!
ハァーーーーー!
自業自得がすぎるーーーー!
……あ、あの家族が襲われている動画、消しておこう。
これでよし。
さて、それじゃ救急箱取りに行くとするか。
確か、救急箱は二階にある一般教室みたいなところにあるんだよな。
ただ、二階は一般教室みたいなのが並んでるんで迷いやすい。
階段を下りてとりあえず一つ一つ教室を探していくのだが、やっぱり気味が悪いな。
教室と表現したが、部屋の構造以外はなにもない。
机も椅子も黒板も。
埃ばかりで教室の後ろのロッカーも空っぽ。
一つ目も二つ目の教室もはずれ。
三つ目、四つ目……一番端っこの五つ目の教室。
「あった!」
ロッカーの中に一つだけ、埃を被った救急箱!
中身を確認してみると、包帯とガーゼが入っている。
うーん! ゲーム通りか!
まあいい。
目的のものは手に入れたし、戻るとするか。
「他のものはやっぱりなさそうだったな。これじゃ三階と一階もゲーム通りだろうな」
はぁ。
少しガッカリしつつ三階の調理室へと戻る。
すると、そこには三人分の人影。
ま、まさか。
「た、ただいま……」
「あ、戻ってきた」
「ほら、彼が探索に行ってくれた高際って人ですよ」
声をかけると、黒いポニーテールのセーラー服の少女。
いや、よく見るとセーラー服風の私服か。
凛々しい顔立ちと小柄でほっそりとした体躯。
長い髪を靡かせながら、振り返る。
「初めまして、鬼武千代花と申します。高校生で、ソロキャンに来ていました」
「あ、ああ、今流行りだもんね、女子だけのソロキャン。俺もソロキャン……あ、俺は高際義樹。よろしく……」
「はい、よろしくお願いします」
……揃っちまった。
この黒髪の美少女が鬼武千代花!
「男前すぎる」「おっぱいのついたイケメン」「ちよちゃん無双」「どうしてちよちゃんと結婚できないんだ」「ちよちゃんが一番イケメンじゃねーか」と評されるほど竹を割ったような性格。
クソ乙女ゲー『終わらない金曜日』通称『おわきん』のヒロイン。
違法組織に目をつけられた、普通の女子高生。
彼女に媚を売らなければ、俺たち三人は生き延びることができない!
「それで高際、なにか見つけたか?」
「あ、ああ、見つけられたのは救急箱だけだ。三階じゃなくて二階の部屋を一通り見てみたんで、三階と一階はまだだけど」
「そうか。なにもないよりはいいだろうな。よし、次はおれが三階を探してくるよ」
「わかった、頼む」