表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/49

迷路の先

 

 引き続き四隅にあるスイッチを探す。

 敵が出てこない分、罠に集中できるからすでに道順を知っている俺にとってはここだけヌルゲーである。

 正直嫌と言えば嫌なんだが、剣の重みと扱い方にも慣れてきたな。

 ゲーマーの(さが)とでも言うか、武器が手に馴染むのだ。

『ディスティニー・カルマ・オンライン』というフルダイブ型のVRMMOは八十種類くらい職業を使い分けていたが、双剣スキルは使いやすくてハマっていたなぁ。

 そういえば、あれのゲーム性をそのまま転用した自殺志願者支援用VRMMO『ザ・エンヴァースワールド・オンライン』のエージェント・プレイヤーにならないかって仕事の依頼が来ていたっけ。

 自分は死ぬつもりがなかったから、興味ない、って返事をしたけど……やってみればよかったかもな。

 

「ほい、二つ目、と」

 

 墨野(すみや)真嶋(ましま)のカウンセリングまでやっていると、思うのだ。

 ゲームの中に逃げ込むほどに生きることをどこかで諦めたくないと願う人間に寄り添ってこそ、プロゲーマーの本質なのではないか。

 ゲームって、楽しいものだろう?

 このクソゲーと名高い『おわきん』だって、俺は結局何周もして楽しく遊んだじゃないか。

 

「…………そうか、俺はいつの間にか、選り好みしていたんだな」

 

 ゲームは楽しいものだ。

 たとえクソゲー相手でも全力で向き合って楽しんでいたあの頃は、クソゲーの部分でも楽しめていたじゃないか。

 いつの間にかプロになることだけを目標にゲームをしていたのか。

 そりゃあ、いつまで経ってもセミプロから抜け出せないわけだ。

 全力でゲームをしているプロに、勝てるわけがない。

 今更こんな大切なことに気がつくなんて。

 

「こっちの世界にも、VRMMOはあるかな?」

 

 高際(たかぎわ)には申し訳ないと思うが、モデルは辞めてゲーマーを目指したい。

 今度こそ、俺は夢を叶えたい。

 今なら——ゲームの世界にいる今の俺ならば、ゲームの中で全力で生きることを理解した今の俺なら上にいける気がする。

 そのためには、まずは下へ向かわなければならない。

 

「三つ目、と。あれ、俺が三つ目のスイッチを入れたってことは……千代花(ちよか)ちゃん、迷子だな?」

 

 四つ目のスイッチが入ったのであれば音が聞こえるはずなのだ。

 まあ、俺が全部スイッチ入れれば問題ないだろう。

 サクサク進み、最後のスイッチを見つける。

 うーん、この……手分けした意味〜。

 

 ガコン。

 

 四つ目のスイッチレバーを下ろすと、部屋中かま僅かに振動した。

 これで俺がすべてのスイッチを下ろしたとみんなに伝わるだろう。

 入り口に向かい、墨野(すみや)真嶋(ましま)に合流する。

 少し遅れて千代花(ちよか)が現れると、それはもう疲弊した表情だった。

 お疲れ様でした。

 

「け、結局全部高際(たかぎわ)さんにやってもらってしまいました……!」

「気にしなくていいよ? 道順は覚えてるって言ったでしょ? むしろ千代花(ちよか)ちゃんには休んでてもらえばよかったね。次はいよいよラスボス戦だし」

「ラスボス……」

 

 千代花(ちよか)が姿勢を正す。

 墨野(すみや)真嶋(ましま)も息を呑む。

 

「この先はどういう感じなんですか?」

「迷路を抜けると、パワードスーツの最後のパーツがある部屋に続くんだ。そこで普通に最後のパーツを手に入れ、ラスボス部屋を通って外へ出る。でも、最後に人間の軍隊が待ち構えていて俺たちを殺そうとしてくる」

「「「えええっ!?」」」

 

 まあ、びっくりするよね。

 ではここで改めて申し上げておこう。

『おわきん』はクソゲーである。

 主人公サイドをどうやって殺してやろうか、殺意が高すぎるのだ。

 

「軍隊ってなんですか!? 最後は人間に襲われるってことですか!? 大丈夫なんですか、それ!」

「じょ、冗談じゃねぇ! やっぱり今からでも地上に戻った方がいいんじゃねえか!?」

真嶋(ましま)は足に怪我してるんだぞ。今から地上まで歩かせたら悪化する。それとも真嶋(ましま)を見捨てるつもりか?」

「ううっ」

 

 真嶋(ましま)を怪我してるからと見捨てるなら、墨野(すみや)だって見捨てられる理由になる。

 それをわかっているから、押し黙った。

 保身だ。

 まあ、今更だけれど。

 

高際(たかぎわ)さん、軍隊っていうのは——」

「この組織が所有している私兵みたいだったな。パワードスーツを外に持ち出されるのが困るから、みたいな理由だったはずだ」

「どうやって戦えばいいのでしょうか……」

「俺が覚えてるのは、ラスボスを倒して攻略対象と外へ出た途端に撃たれるんだ。千代花(ちよか)がそれを庇うけれど、攻略対象は負傷する」

「っ」

 

 ザワ、と千代花(ちよか)から薄寒い、張り詰めた気配が発せられる。

 俺もゾッとしてしまった。

 怒りの表情。

 

「ち、千代花(ちよか)ちゃん」

「っ! あ、す、すみません……でも、高際(たかぎわ)さんが怪我をするのかと思ったら——っ!」

 

 え、あ。

 俺が怪我をするから、それで怒ったの?

 え、あ、あー、なるほど?

 は? か、かわいい理由だな?

 ヤバい、変なタイミングで照れてしまう。

 

「だ、大丈夫。タイミングも覚えてるから避けるよ」

「そ、そうですか?」

「そこは信じて。スイッチも全部俺が下ろしたでしょ?」

「うっ」

 

 これはかなりの説得力があったらしい。

 黙り込む千代花(ちよか)

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】

4g5a9fe526wsehtkgbrpk416aw51_vdb_c4_hs_3ekb.jpg
『転生大聖女の強くてニューゲーム ~私だけがレベルカンストしていたので、自由気ままな異世界旅を満喫します~』
詳しくはホームページへ。

ml4i5ot67d3mbxtk41qirpk5j5a_18lu_62_8w_15mn.jpg
『竜の聖女の刻印が現れたので、浮気性の殿下とは婚約破棄させていただきます!』発売中!
詳しくはホームページへ。

gjgmcpjmd12z7ignh8p1f541lwo0_f33_65_8w_12b0.jpg
8ld6cbz5da1l32s3kldlf1cjin4u_40g_65_8w_11p2.jpg
エンジェライト文庫様より電子書籍配信中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ